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思い出した約束

 【ガイゼル回想】


 約二ヶ月前、"魔竜"討伐――。


 「お姉ぇぇぇちゃぁぁぁん! 何もたついてるのぉ! また火噴(ブレス)が来ちゃうよぉっ! 早くお姉ちゃん立ち直ってよ(・・・・・・)っ!」


 俺達の眼前には一匹の"赤黒い竜"が四つん這いで対峙する。


 今(まさ)俺達五人(・・・・)は祖国を蹂躙し多大なる被害を及ぼした存在、魔竜との戦いの真っ最中だ。


 山を彷彿とさせる巨大な体躯(からだ)は、赤黒く全身を覆い尽くす数多の鱗が遠目から分かる位に逆立っていた。


 時折、その鱗の隙間からは、涌き出てたばかりの溶岩にも似た明るい橙色の光を放ち、その光すらも俺達を威嚇しているかの様な輝きを見せた。


 魔竜の紅色(こうしょく)に染まる瞳はギョロリと見据えて俺達を視界から離さない。

 その視線だけでも生物から(せい)を奪って仕舞う位に凶悪かつ、剣呑(けんのん)さを感じた。



 その時だ。魔竜が口を「ガパッッ」と開いた瞬間、咆哮が突風となり全ての音をかき消し衝撃波が地を駆け巡る。




 ヴゥッ……グオォォオォォォオォォォッッ!!





 尚も再び魔竜は咆哮する。




 ガァァァァァォァァァァァァッッ!!!!




 「――ぐっ! 咆哮だけでもかなりの……モンだなっ! アヒーナ大丈夫か? やっぱり堕ちて(・・・)も竜は竜って事かよ」


 咆哮と同時に俺は懸命に足に力を入れ踏ん張り、アヒーナを庇う様に背後へと彼女を隠し、咆哮による衝撃波(・・・)をなんとか生身(・・)で耐え切った。


 「うん……何とか飛ばされずに済んだよ。ありがとう……流石だよお兄ちゃん。それよりも……お姉ちゃんのが……」


 アヒーナは心配そうに姉をプリシラに視線を移した。


 「ちっ……プリシラ(アイツ)まだ引きずってんのか? このままだと不味いぞアヒーナ! 俺のスキルだけじゃ魔竜の攻撃は全て防ぎ切れない。アイツの……プリシラの加護(・・)が無いと……」


 俺は焦りぼやくも再度、体勢を立て直しながら魔竜を凝視し、微かな異変に気が付いた。


 「連続して咆哮が……来なくなった!? ……不味いぞ! 次こそは来る……"火噴"がっ!口元周辺が黒く(・・)なっている!? 早くも冷えた(・・・)のかっ? 再度(また)、来るのか……火噴が!」


 魔竜の火噴は強大だ。物理と魔力を掛け合わせた遠距離型の攻撃。広範囲攻撃ではないが寧ろ一点に絞るからこそ、一撃がとてつもない威力になる。


 その威力は頑強な造りで有名だったある砦の絶対防壁でさえ、防ぎきる事が出来ず完膚無きまでに破壊された。


 それを魔竜が初手で火噴を放って来たがそれは俺達がたまたま運良く(・・・)それたが、その射線上は岩だろうが何だろが触れた物全てを超高温で溶かし尽くしていた。


 俺は盾役(タンク)として仲間(パーティー)の前衛で敵からの攻撃を一手に受け捌くのが役目。特に物理に関してならほぼ完全に無力化(・・・・・・・・)出来るのだが流石に魔力を帯びた火噴はまるで別物(・・)だ。


 あんなのを直撃したら確実に蒸発(死ぬ)


 「プリシラッ! 頼む……頼むから力になってくれ。このままじゃ皆、殺られちまう……プリシラァァッ!」


 「だって私のせいで……あの子が……。私が殺したも同然じゃない……私が……私のせいで」


 俺は後方で気力も体力も無く、へたり込んで座るプリシラを見ながら叫んだ。


 今慰めの言葉等、何も浮かばない。

 本当は慰めてあげたい……俺だって。


 仲間の一人が魔竜からの攻撃からプリシラを庇って命を落とした。本来ならば盾役で在る俺の役目……責任は俺に在る。


 でも今はそんな悠長な事、言ってられる状況なんかじゃない。仲間の死を哀れむ暇は目の前の魔竜が与えて等くれやしない。



 魔竜は次の行動へと移る。先程の咆哮はあくまでも火噴の為の冷却(・・)に過ぎない。その冷却ですらとてつもない衝撃波が先程のヤツ(・・)だ。


 ならば本命の火噴の直撃だけは避けなければ、いやその前に潰さなければ俺達はこれまでだ。


 時間が無い。


 気持ちも何もかも余裕が無い。


 俺達の考えは甘かったのか……此処までか……。


 その時俺はふと昨晩のプリシラ達の会話を思い出した。何故その時思い出したのか俺自身分からないのだが……それは噂で聞いた走馬灯の様に短時間で頭の中に呼び起こされた。


 そして俺は叫んだ。プリシラに届けとばかりに。


 「このままだとお前も死ぬんだぞっ! 昨日、女性陣(お前達)が騒いで居ただろう? 誰が俺のっ……"ガイゼル・ウォールズ"のお嫁さんになるかって、張り合っていたじゃないかっ! 今死んだらそれも全て叶わないんだぞ! 良いのかよそれでっ? 結婚するんじゃねぇーのかよっ! お前の気持ちはそんなモンかよっ! 今、お前まで死んだら……死んだアイツはどうなんだっ! お前を庇って死んだアイツは……」


 何を血迷ったのか普段口にしない"言葉"を叫んだのだ。


 「お……嫁さ……ん? ガイゼルの……お嫁さん。結婚? ガイゼルと結……婚……っ? あの子の為にも私……やらなきゃ……結婚(・・)……」


 「あぁそうだっ! お嫁さんだよ! お嫁さん! 俺のお嫁さんになりたいんだろ? プリシラァァァッ! 俺と結婚(・・)しようじゃないかっ! 魔竜(ヤツ)討伐(倒した)らなぁぁっ!!」


 そんなやり取りの中でも当然だが魔竜は待ってはくれない。


 魔竜は口を咆哮の時とは桁違いに大きく広げ、次第に大気中に含まれる魔素(マナ)を次々と取り込む。


 その光景は小さな(あか)い光が流れ星の様に口内に集まり、徐々に紅蓮の火球が形成されていく。広げた口内には不規則に並ぶ牙、一つ一つが気味悪く蠢いている。


 それは俺達を挑発し嘲笑うかの様に細かく動く。



 そして間も無く訪れる絶望の時……。


 「まっ……不味いぞっ! 最初のは運良く避けたが今は……プリシラが……アヒーナッ! お前だけでも遠くまで逃げろっ! まだ間に合うかもしれないっ!」


 「やだっ! お兄ちゃんはどうするの? お姉ちゃんだって……二人が逃げないならアタシも真っ向から戦うよっ! 独り逃げて後悔する位ならばアタシだって!」


 「馬鹿っ……せめてアヒーナお前だ――」


 「ねぇ? さっきの話(・・・・・)は本当ぉ? 本当なら目の前の魔竜(トカゲ)……捻り潰してあげようか……ガイゼるぅぅぅ?」


 俺の背後には何時しかプリシラが立っており、外された目隠し(バイザー)は左手に雑に握られ、白黒反転した二つの"白い瞳"が俺を見つめる。


 「あっ……あぁ本当だ。魔竜(ヤツ)を倒して皆で生還したら、皆とでもお前とでも結婚(・・)でも何でも(・・・)してやる! いけるのかプリシラ?」


 「えぇ大丈夫、いけるわよ。ただし、嘘をついたらただでは済まさないわよ……お覚悟なさいな、ガイゼル」


 「あぁ……分かっ……たよ……。覚悟しておくよ。物理サポートなら俺に任せろプリシラ! アヒーナッ! 行くぞっ!」


 「我が願い成就の為に……滅せよ、魔竜――」


 プリシラは魔竜の懐へと飛び込んだ。



 ――ズズズンッ!!!!!!





……………………


………………


…………






 【そして現在】


 「――あぁぁぁあぁぁ……そうだな。そう……だねプリシラ、アヒーナ。いっやぁ~魔竜との戦いは本当に接戦だったなぁ~、なんて……ね」


 俺は思い出してしまった。確かにプリシラの言う通りかも……ってか思い出せた俺も俺だが――。


 「あら? 思い出したかしら? 魔竜との戦いはどうでも良くってよ。ではガイゼル、お返事は勿論分かっているわよね?」


 プリシラは俺の身体に彼女自身の身体を重ね迫って来た。互いの心臓の鼓動が伝わる。

 それは一つの鼓動かの様に同じ速さで、同じ強さで感じる程に。


 彼女の大胆かつ、急な行動に俺は照れながらも内心では少しの下心がざわついた。


 「ちょっと……近くない? プリシラァァさん(・・)? 離れま……しょぉ――!? ちょ、色々とヤバイですよぉ~っ」


 「いやよっ! 駄目っ! アヒーナッッ! 貴女も来なさいっ! この男をガイゼルを逃がさないわよっ! もう絶対に私達の元からは逃がしません(・・・・・・)!」


 「かっしこまりぃぃぃ~っ! 待ってましたよぉ~お姉ちぁぁぁゃん! お兄ちゃんっ、覚悟ぉぉぉっ!」


 姉のプリシラに言われアヒーナは「待っていました」と言わんばかりにプリシラごと俺に抱き付いてきたのだ。


 プリシラの少し硬く(・・)申し訳程度に存在する胸が俺の左半分に当たる。

 そして右半分には抱き付いて来たアヒーナの弾力性の在るたわわで豊満な胸がこれ見よがし当たる。


 天国と地獄か……いや……まぁ女の子に迫られて嬉しくないなんて事は無いのだが、如何せん二人は癖が強い……本当に強すぎるよ色々な意味で――。


 「んふぅ~お兄ちゃん顔真っ赤だよぉ~! 照れてるのかなぁ~? そうだよねぇだよねぇ! こぉんなにも可愛い()達に迫られたらねぇ~将来のぉ~いやいやぁ今から旦那様(・・・)だよね? お姉ちゃんっ!」


 「そう……ね。私とした事がこんなにも大胆な事をしてしまいまして、お許し下さる? 旦那様(・・・)? あぁぁ、でも止まらないわぁ……旦那様ぁぁ !旦那様のお身体は相変わらず素敵ですわぁ~」


 「旦那……様? 二人共気が早くは無いか? てかそんなにベタベタくっつかなくても……俺まだ上半身裸だしさぁ。なぁちょっと離れて……」


 二人は俺の頼みを聞いてくれる事は無く……。


 「「だぁ~めっ!!」」


 二人は甘えた様な猫なで声で拒否された。

 

 俺はその甘い声だけでも二人の虜に……いや、心が奪われそうになる。


 俺は暫くはこのままの状態で居るしかなかった。

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