大魔王様お会計です!!
「で、先輩。どうするんですか?」
「どうするって、なにを」
「告白ですよ、告白されたんでしょ? 付き合うんですか? それとも断るんですか?」
薄暗い店内。バーカウンターから、なんとなく聞こえてきた会話はどうやら色恋沙汰のようであった。さっきから「あげてけハイボール」のジョッキをやたらと替えていた男が先輩で、女はその男の後輩のようである。
「どう……したらいいだろう?」
「は? ホンキデイッテンスカ?」
後輩の抑揚のない喋り方に男は顔を引き攣らせた。物理的にツッコミが入らなかった分、まだ可愛げがある。
俺が隣にいたら目の前の「鉄板ジュジュッ♪じゃが明太」に顔面がインしていたところだ。
「いや、だって、俺、無理だよ。絶対、付き合っても悲しませるよ。……いや、むしろこれは罠なのでーー」
「おい、この種無し野郎、そこまでにしとけよ。女が決死の思いで紡いだ言葉を、罠とか言ってんじゃねーぞ。好きなら付き合う。気になってんなら付き合う。ダメそうならはっきり断る。嫌いなら嫌われろ!」
「いや、そんな無茶苦茶な」
「いやいや、怒るだろうがよ。お前何様だ? 人の気持ちを踏み躙れるほど偉いのか?」
良かったな、後輩よ。今日は常連のゴロタンさんがいなくて。あの人静寂を壊されるとすぐ『よりどりピーナッツ』で標的をスナイプし始めるからな。
「まあ、聞いてくれよ。俺だって付き合えるもんなら付き合いたいよ。でもさ、相手、サキュバスなんだよ。絶対俺死ぬじゃん」
「いや、先輩、アンデッドだからそもそも死なないじゃないですか。それに、アンデッドと付き合いたいってことは、そっち目的じゃないでしょ?」
「え、どーなんだろ。あれはでも、そういう目だった気がするんだけどなぁ」
異種族感恋愛は結構珍しい。ましてやアンデッドは特に。それにアンデッドとサキュバスか……。
「とにかく、先輩は早く告白の返事しなきゃですよ」
「わかってるよ、うあー、憂鬱だ。ホント恋愛って死ぬより、めんどくさい」
「私そのアンデッドジョーク嫌いなんで、やめてもらえます?」
同感だ。あいつらはそろそろ、そのジョークの後は『瞬間冷凍かき氷』よりも場が冷えていることに気づいた方がいい。
「すいませーん、お勘定」
「はい、ありがとうございます」
別卓がお会計である。続きは気になるが、仕方あるまい。
今日も居酒屋大魔王の夜は更けていく。