第1話
鉄に魔力を送り、浮かせる。
物質の操作、これが出来て錬金術師として見習いに認められる初歩中の初歩だ。
そこにさらに魔力を送り、流動性を持たせて形を変えていく。
物質の状態と形状の変化、これが出来て錬金術師として1人前と認められる。
ここから先程の操作や道具を使って様々な道具を、薬を作り出すのが錬金術師だ。
そしてここからが錬金術の真髄、奥義と言ってもいい。
鉄の一部を魔力の伝導率が高い物質へ作り替える。
魔導鋼と言われるそれで細く、正確な魔術陣を描いていく。
これでこの部品は完成だ。
そもそも錬金術とは、起源を辿ると無から有を生み出すことを追い求める術だと言われている。
その探求の中で物質を操作し、変形させ、そして現在では極一部の者が変換へとたどり着いている。
とは言っても無から有は生み出せないし、なんの関係もない土を水になんてことも出来ない。
できるのは近い性質の材料に変換することまでだ。
例えば金属は金属に、とかな。
世間一般でいえば変形まで出来れば錬金術師と名乗れるのが現状であり、多くの錬金術師はそこまでの技術を使って様々な道具、薬の制作を行っている。
もちろん一流ともなれば俺のように魔術陣を組み込んで魔道具なんかも作れる。
俺、レオンは一流の錬金術師だ。
もちろんそんなことは面倒事に巻き込まれたくないから自分からは言わない。
今は亡き師匠から引き継いだ村の道具屋として静かに暮らしていきたいからだ。
そんなわけで村と備品として頼まれた道具や薬を制作したあと、自由な時間に趣味の制作を行っていた。
決して大きくない村において頼まれるのは家具や農具の修理、ちょっとした傷薬ばかりで何か課題を作らないと腕が落ちてしまうし、作りたいものがあった。
そんなわけで俺が取り掛かったのは前世の記憶にあった道具の再現だった。
そう俺には前世の記憶、日本人として産まれ、若くして命を落とした記憶がある。
まぁ、特に話すことがある訳でもない、捨て子だった俺には前世の記憶があり錬金術師である師匠に拾われてそれを引き継いで村で道具屋をしているわけだ。
ともかく、先程作った部品を軽くチェックしながら頭の中で作業の進捗を考える。
俺が今作ろうとしてるのは銃だ。
前世の頃から銃が好きだった。
FPSでも対戦をする時間よりもアタッチメントを変えながら銃を眺めてる時間の方が長いくらいには銃が好きだった。
そんなわけで銃を作っている。
ただ、問題があって火薬が使えない。
理由は2つ。
まず1つ目、この世界には魔物が存在する。
火薬によって動作する中は銃声がでかい。
それによって魔物が寄ってくることは考えられる。
最悪試し撃ちしただけでも村に魔物を呼び込むと言う事態になりかねない。
2つ目。
周囲の目が怖い。
単純に便利なもの作ったね、で終わるわけがないと考えられるからだ。
それによって何が起こるのか。
国や大きな商店なんかに捕まってそれを作り続けさせられるとか考えられる。
人権なんか日本から見たらあってないようなもんだ。
そんな目に合いたくない。
そんなわけで、自衛用という建前で俺は銃を作ることにした。
しかしながら村では材料が限られてるし、火薬は使えない。
俺は無い頭を絞り考えた。
考えながらとりあえず銃として譲れない機構から制作に移った。
トリガー、これ無くして銃では無いでは無いだろうか。
これに関しては発射機構との関係もあって全体はすぐには決まらなかったからとりあえず連動して動くようなバネ仕掛けを考え、練習として何個か仕掛けを作っておいた。
発射機構に関しては火薬が使えない。
となると魔術を使った機構になる。
最初に思い浮かんだのは空気を圧縮する方法だ。
魔術陣を使って空気を圧縮して弾丸をその前にセット。
トリガーを引いて撃鉄が撃針を叩くと空気を圧縮していた魔術陣が崩れて空気の力で弾丸が飛び出す。
そんな機構だ。
まぁ、しかし俺も馬鹿ではない。
なぜ火薬の爆発で音が出るのかを考えたらこの方法は使えない。
結局のところ威力をあげればいかに空気でも音が出てしまうからだ。
ではどうしようか。
そこで考えたのは弾丸を押し出すのではなく、弾丸自体を加速させるという方法だ。
物を弾く魔術陣を用いて弾丸を弾くという至極単純なものだ。
まぁ、それだけじゃ銃と呼べるほどの威力にならない。
なのでそれを更に加速させるための魔術陣を考えた。
構想としては銃身に刻んでそこを通る弾丸を加速されるというものだ。
今作っていたのはその銃身の試作機である。
と言っても金属の筒に魔術陣を刻んだ簡単なものだ。
魔術陣がこれで機能するかに重きを置いた試作機だからこんなものだろう。
これから実験だ。
家の中じゃ少し狭いので外に出た俺は周りに人がいないのを確認する。
斜めにかたむけた筒に魔力を流しながら小さな鉄球を入れる。
これなら予想以上に加速しても地面に当たるから安心だ。
結果としてその配慮は正解だった。
軽くかたむけただけで鉄球は地面にめり込んでいた。
詳しい原理はさておき、魔術陣は問題なく鉄球を加速できたわけだ。
これをどうやって銃としての形にはめ込むかを考えなければならない。
まぁ、今日は日も落ちて暗くなってきたし明日にしよう。