わおーん
空気が変わった、そう気付いたのは階段をしばらく進み陽の光が後頭部を照らさなくなった頃。
「なんかひんやりするね」
「ああ、若干だが戦いの匂いが混じってきた。もう油断はするなよ」
ツワブキの目付きも変わる、しかしそれはクラーケンに挑む時のような己を奮い立たせているものではなく。まるで新しい遊び場に初めて足を踏み入れたような、そんな目をしていた。にしてもなんだ?戦いの匂いって。
「楽しそうね」
「そうか?」
「凶暴そうですよ」
「わからんな、そろそろ明かり出してくれよ」
「はあい」
杖を使う必要も無い、が気分付けの為に取り出しひとふり。たいまつほどのあかりが宙に浮きでる。
「相変わらず便利なやつだなあ」
「これくらいで?凡人でも三年くらいでできるようになるよ」
「あっそ、さあしゃきしゃき進むぞ」
「あいあい」
壁も床も石で出来ておりダンジョンというよりただの洞窟だ、こんな所に魔物なんて出るのだろうか。
「がっちゃがっちゃ」
「わわわ!なんかいますご主人!」
「早いなあ、スケルトンかな?」
「みたいだな、下がっていろ」
全身骨にぼろきれをまとい武器とはお世辞にも言えない木の棒を持った魔物が三匹、目が赤くぼんやり光っている。
「ふっ!」
ツワブキが斧を担ぎ突っ込んだ、速い。そのまま先頭にタックルし肩当を頭に直撃させる。体重の乗った体術はそれだけでダメージたり得たらしく大きくよろけるスケルトン、すぐさま回し蹴りで奥へ飛ばし後ろの二体は斧の豪快な横振りで胴体が弾け飛んでしまった。奥にころがったスケルトンの頭を踏み潰し終了である、鮮やか鮮やか。
「すごいすごい」
「わー、強いです」
「楽勝楽勝」
涼しい顔をしている、やっぱりこんなもんか。
「肝心のドロップアイテムとやらは」
「あっほら見てください、骨が消えていきますよ」
「ほんとだ」
塵すら残さずサラサラと消えてしまった、残ったのは紫に鈍く光る小指の爪程の石ころのみ。
「これか?」
「だね、微かに魔力を感じるし魔石の超しょぼしょぼバージョンかな」
「さすが魔女、何に使えるんだ?」
「うーん、粉にして畑の肥料とか。普通の魔道具ならいけるけどこんなショボイのじゃ攻撃系の魔道具には何個集めても使えないね」
「攻撃系はそんな燃費悪いのか」
「まあ、私にかかれば魔石なんて使わずに作れるけどね。大変だけど、……もうこの話は終わりにしない?」
「どうしたんだ」
「触れないであげてください」
ずんずん進みまたでてきたスケルトンを軽くいなしていると下へ続く階段が。
「これで一層は終わりかな?」
「多分そうだろう、準備運動にすらならないな」
「浮いてるだけで終わりました」
いつもそうでは?
「じゃあガンガン進もうガンガン」
「「おー」」
二層もほぼ同じものだった、一回り体躯がいいちゃんと剣を持ってるやつが出たがへのカッパのご様子。
挑戦者から聞いた三層とやらに降りた所で前のパーティとすれ違う、すかさず洗脳。あなた方が私達を見たのは一日後です、明かりもたいまつです、これでOK。後に進むとようやくほねほね以外の獲物が登場。
「わおーん」
「わあ、ウルフ?」
「すばしっこそうなのが出たな」
またちょっと嬉しそうにしていた、が難なく蹂躙。大斧では真っ二つとはならずほぼミンチだったので早く消えてくれて助かった。
「全く骨がねえなあ、地上の奴らはここで打ち止めなのかよ」
「あんたが強いんだって」
「お腹すきましたねー」
「さっき食べたじゃんお米カッチカチに乾燥させたやつ」
「物足りないしぜんっぜん美味しくないじゃないですか」
確かに。こんな状況、いや次からは絶対に御免だ。暖かいご飯カバンに入れて来ちゃおっと。
「もう四層だ、ぬるすぎるぜ」
「私着いてくる意味あったのかな」
「明かりがあるじゃねえか」
「たいまつ持ってろ筋肉、ホワーイホワーイって」
五、六、七層とトントン進む、それなりに距離は歩いているのでここで一泊だ。聞いた話では見張りを立てるらしいが魔除の魔法で一発、みんな仲良く焚き火を囲んでお休み。
「自分で誘っておいてなんだがお前のせいで随分難易度が下がってる気がする」
「普通はこうは行かないんでしょうね」
「感謝しなさい」
「いやそう言う事じゃ、まあいいか」
こんなカビ臭い所に連れてきておいて贅沢なやつ。
「おはよ」
ブンブンとやかましい音で目を覚ます、アホが斧を素振りしていた。
「オウ、朝かはわからないけどな。あと前髪吹っ飛んでるぞ」
「見るなバカ」
水の塊をバシャっと顔にぶつけ風魔法で乾燥、よし。
「おっけ」
「便利なヤツ」
八層も難なく突破、スライムくんが初登場したが核を電気で強化された足で思いっきり蹴られると萎んでしまった。かわいそう。
「ものすごいサックサクですね」
「次突破すれば十層かあ、ボスとかいたりして」
「いるらしいって闘技場で聞いたぞ」
「挑戦者は三層で断念するのにそこの闘技場なんかおかしくない?」
「さあな」
「筋肉ダルマの言う事はわかりませんね」
謎だ。
九層をどんどこ進み突きあたりで大きな鉄の扉が現れた、いかにもだあ。
「いよいよってか、どうやって開けるのこれ」
「どいてろ、ふっんっ!」
「力技かい」
「ぐおおおおおお!!!!」
初めて見る顔。
「ダメだな」
「ちょっと!」
早いよ!
「いや、割と本気で押したり引いたりしたがビクともしない。力じゃ多分どうにもならんぞ」
「えー?じゃあここで打ち止め?」
「かもしれん、お前なんかいい魔法知らないのか」
「南京錠開ける魔法くらいなら」
「一応やってみてくれ」
「はいはい」
ふん、と魔力を込める。トレースオン!あっこれは。
「なるほど」
「なんかわかったか?」
「魔道具的なものが使われてるね、しかも古代の。私じゃ一週間くらい付きっきりじゃないと解除できないかも」
「そんなもの貴重じゃないのか?」
「貴重でしょ、見たこともない魔力が放たれてるから」
「つまり?」
「帰ろう」
「ちょっと!九層からダンジョン閉鎖されてたんだけど!」
帰還後前回の受付嬢に詰め寄る。
「えっ、九層まで行ったんですか!」
「余裕だったよ言ったれ言ったれツワブキ兄ちゃん」
「誰が兄ちゃんだ、ああ余裕だったぞ」
うっわあ、筋肉ダルマがかますドヤ顔のどこに需要があるんだろう。
「そうですか…それで十層封鎖の件ですね、簡単です。サクッと死ぬからです」
サクッと言われてしまった。
「詳しく」
「九層にたどり着く方々はごく稀にいらっしゃいます、隊を組んで突入した傭兵もいました。それらがことごとく十層で生きては帰って来なかったからです」
「果てがわからないってのはそういう」
「はい」
「なんてこった」
「ツワブキなら余裕だよ、だから封印してる道具を教えて」
「ダメです、換金所はあちらになります」
「そこをなんとか」
「ダメです、換金所はあちらになります」
壊れちゃった……
「もー!こんな街換金したらすぐ出ててってやる!」
「あっ待てよ」
「とことん報われないですねご主人」
「査定額ですが150万ポコでございます」
「残るわ」
「はい」
「はい」
半 年 後