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魔女ムノベーちゃんの華麗なる旅路  作者:
迷宮都市と挑戦者
8/14

上等だこのハゲ

「おーい、ここだよここ」

「おう」

「おかえりなさいでーす」


 人がごった返していた大通りから抜け幾分か落ち着いた住宅街へ、途中にあった噴水で休憩しているとふらふらとツワブキが寄ってきた。


「おつかれ、整理券取れた?」

「ああ。四日後、お昼頃だとさ」


 ペラっと青い紙を見せてきた。


「すごい大雑把ですね」

「そっちはどうだ、回復薬の売上は」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた」


 じゃらりと10万ポコ腕輪の入った袋をカバンから取り出す。


「ほうれ見なさいこのとおり!やっぱり肉体労働で稼ぐなんて時代遅れなのよオッホッホ!」

「わあご主人いい笑顔」

「カタギの顔じゃねえな、良かったじゃんか」

「洗脳したラジコンくんがめっちゃギルドの受付で入手先を聞かれてたよ、『ばなな』以外の返答はさせなかったけどね。ふふん」

「終わったら不思議な顔でバナナ買いに行きましたけどね」

「酷すぎる」

「なにおう。ちゃんとポッケに1万ポコ入れて解放してあげたんやぞ、こんな割のいいバイトはないね」

「じゃあ、利子付きで返してもらおうかな」

「カタいこと言わない言わない、宿代もご飯代も出してあげるよ!金持ち喧嘩せずってね。私たち仲間じゃんガハハ!」

「うわあ」

「楽しそうです」

「とりあえず高級宿取っておいしーい夜ご飯食べよ」

「俺はベットと屋根がありゃなんでもいいがな」

「美少女連れて歩いてるんだからあんたもお風呂くらい入りなさい」

「へいへい」




 ギンギラギンのお屋敷みたいな宿屋を2部屋借りる、お風呂休憩後下の食堂で待ち合わせ一旦ツワブキと別れた。


「わーい!ご主人みてみて!テーブルに果物がありますよ!」

「食べてていいよ、私お風呂入ってくる」


 もう髪がべったべただ。薬で匂いを誤魔化してるけどそれは女の子として終わってる、一刻も早くお風呂に入らなくては。


「ごゆっくりー」


 さぱっと服を脱ぎ湯船に水を張る、すっぽんぽんのまま魔法で熱している間がなかなか間抜けな図になってしまったがすぐに暖かくなった。


「ふいー」


 久々のお風呂、これが人間のあるべき姿。道中何度持ってきた大釜を湯船替わりにしようとしたことか。石鹸も備え付けてあるので遠慮なく全身を洗いさっぱりだ。



「ただいまー」

「おかえりなさい」


 あれだけあった果物がほぼ皮だけになっていた。


「よく食べるねえ」

「食べられるときに食べられるだけが私の信条です」

「そ、じゃあそろそろ下に行こっか」

「はあい」




「おそいぞ」

「女の子のお風呂は長くなるって覚えておきなさい」

「ははっ」


 なんだその乾いた笑いは。


「で、今後どうしよっか」

「四日後まで自由行動、当日ダンジョンに挑戦。以上で」

「ざっくりだなあ、別にいいけどなにかしたい事でもあるの?」

「実はさっき食堂の料理人に聞いたんだが歓楽街に地下闘技場があるらしい、そこで鍛えてくる」

「くさそう」

「近付きたくもないです」

「お前らな……」

「私たちは何してますか、ご主人」

「部屋で回復薬の量産と新薬実験、ラスラは認識阻害かけてあげるから薬の素材集め。いっぱい持ってきたらご飯はごちそうにしてあげる」

「わーい、がんばります」

「暗い奴」

「言ったな、いつか下剤盛ってやる」

「おお怖い怖い、じゃあとりあえず金くれ金」

「それだけ聞くとロクデナシみたいですね」

「私が一生懸命稼いだお金なのに、ヨヨヨ…」

「やかましい、ぐへへ……結構あんじゃねえか。半分貰うゼ」

「ああっ!」

「ツワブキさんもだいぶノッてくるようになりましたね」



 それから二日後。


「おお、いたいた」

「ん」

「二日ぶりですね」


 食堂でぼやぼやしているとツワブキに見つかり話しかけられた。


「なーに?」

「や、見てくれよこれ」


 ツワブキはそのままずるりと左袖を捲り上げる、引き締まった左腕が…と思いきや包帯でぐるぐる巻きにされ血も滲んでいた。


「ぎゃ、なにしてんの」

「ちょっとハッスルしすぎちまった、ここに来るまで身体強化しながら動いてたから生身の感覚を久しく忘れててな。いやあやっぱりまだまだこの世には強え奴がいるな!」


 大怪我なのに随分嬉しそうだ、ばかもの。


「で、治して欲しいと」

「そういうこった、旅の仲間が手負いだとお前も困るだろ?」

「そう言って治ったらすぐ戦いに行くくせに」

「ばれたか」

「ハァ、部屋に戻ろ。ここは目立つよ」

「さっすが、神様ムノベーちゃん様だ」

「ふふん」

「今のでいいんですかご主人」



 部屋に戻りじわじわと魔法で治す、こんな奴に回復薬なんて使ってたまるか。


「お金は稼げてるんですか?」

「ああ、ファイトマネーがこれまた良くてな。見世物の側面も大きくてひとつの賭博と化してるからがっつりがっぽりだぜ」

「ほーん、私も行ってツワブキに賭けよっかな」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」

「こっそり相手に豚とか牛の今際の声聞かせて妨害してあげるね」

「やめんか」


 なんだ、せっかくの好意なのに。


「お前はどうなんだ、薬作りは上手くいってるのか」

「愚問だね、ラスラがこっそり色んなところから拝借してくれるからなかなか作れない薬もいっぱいできたよ」

「散々こき使われました、ギルドの宝物庫から盗んで恋こいだのちょっと泣いて涙を瓶に入れろとか言ってきますし」

「精霊の涙は薬に使えるからね」

「何ができたんだ」

「そうね、例えばコレ」


 別のテーブルに並べた瓶を取りトンと置く。


「なんだこの金色の液体は」

「飲んでみればわかるよ」

「嫌に決まってるだろ、先に効果を言え」

「いつものネズミに変化できる薬、解除があるなら変化もいるかなって」

「なるほど、なんでこんな色なんだ」

「あんたの髪の毛使ったから」

「どこで手に入れたんだよ……」

「で。こっちの真っ赤なのが面白い」

「なんだ」

「めっちゃ体が赤く光る」

「それになんの意味が」

「さあ?」

「お前なあ、マトモなのはないのか」

「えー?……飲むと魔力が回復するとかいうつまんないのしかないよ」

「それ、くれ」

「いいよ、味と効果の感想教えてね」

「ご主人回復薬以外の薬自分で試した事あります?」

「香水とか」

「それ以外で」

「…………ヨシ、もう腕治ったよ。さあ帰った帰ったいつまで乙女の部屋にいるつもりだ」

「答えろよ暗黒魔女」

「大丈夫だって!毒になるような物は入ってないし、せいぜい動物の内臓だよ。後は私の血」

「血?」

「そりゃそれで素材を変質させてるから全部の薬に入ってるよ、身を削って作ってるんだから大事にしなさいよね」

「傷はだいじょ……ああ魔法で治してるのか」

「ウン、どうせなら見てく?」


 杖をナイフにしざくざくと握って鍋へ……


「何してんだこのバカ!」

「きゃあ、こっちのセリフだ気安く抱きつくなバカ!」

「すぐバカって言うなバカ、止めてんだろうが。お前毎回こんな事してんのか?」

「そうだけど」

「今更ですよ」

「止めろよ精霊!お前も女の子なんだから少しは体を大事にしろ」


 きゅん、とはなる訳もなく。


「はあ、でも学校ではみんなこんなものだったよ」

「えぇ……?」

「そりゃあもうザクザクと。体液ならなんでもいいのかと思った物好きな男子生徒が、毎日少しずつ夜なべして溜めたせいえ」

「やめろ、聞きたくもない」

「この人初対面で自分の指切り落として見せますからね」

「あれは痛すぎて死ぬかと思ったからもう二度とやらない」


 ぼたぼたと鍋に入った血を眺めつつぼやいた、何を作ろっかな。無難に回復薬でいっか、使えるのは三日後だからダンジョンから帰ったらペイしよう。


「じゃあ回復薬量産するから帰った帰った」

「ホイホイ」

「サヨナラー」




 当日、ついにダンジョン突入日である。相手は未知数、でも多分ツワブキが無双してくれるから適当に薬とご飯だけ持って出発だ。


「おはよ」

「オウ、もう昼だけどな」

「おそようですね」


 毎度の如く食堂で待ち合わせ、てくてくとダンジョンへ向かう。


「今日はちゃんとフル装備だね、下品な斧も持ってるし」

「下品とはなんだ下品とは、力こそパワーと言わんばかりのこのフォルムがたまんないだろ?」

「あっそ」

「少しは興味をもて」

「早く終わるといいですねえ」

「こっちのも緊張感がないな」

「だってそこらのボンクラが普通に帰って来てるんだからツワブキなら無双でしょ。よっ、クラーケンに挑んだ男」

「油断は良くないぞ」

 



 ダンジョン前にたどり着き今度は『本日の挑戦者はこちら』と看板が立てられた方に並ぶ、既に一パーティが並んでいた。


「はあい、こんにちは」

「ん?ああ」

「みんなもダンジョンに入るの?」

「まあな、にしてもお前ら身軽だな」


「そうなの?」

「たいまつもなけりゃ食料が入ってそうなリュックもねえ、お前ら初心者か?」

「うんまあ」

「今からでも遅くはないだろ、買い出ししてこいよ」

「食料買い込むって、そんな籠るものなの?」

「そりゃあ、三層までぶっ通しだとしても一日はかかるからな。休憩挟んで折り返したら三日はかかるだろ」

「え、そんな?」

「他の面子がすぐ出てくるから勘違いしたのかもしれんがな、中と外で時間の流れが違うらしい」

「ギルドの受付嬢はそんな事言ってなかったけど」

「ちゃんと聞いたのか?外ヅラはいいけど聞かれたこと以外喋らんからなああいつ」

「でも換金場所教えてくれたよ」

「ギルドに金を落とせってことに決まってるだろ、別にぼったくりって訳じゃないが専門店に下ろした方が高くなる事は多いしな」


 ……そういえば整理券のくだりも話してくれなかった気が。


「あっちに一通り揃ってるから買ってこい。たいまつに水、食料と毛布が最低限かな」

「し、親切にどうも……」


 ヘコヘコしながら後ずさる。


「ねえツワブキどうしよう」

「どうもこうもあるか、良いじゃねえか冒険感が出て。買ってこようぜ」

「なんでちょっと嬉しそうなの」



 ふらりと立ち寄った雑貨屋、たいまつや毛布が外にかけられている。って、


「たっか!」

「高いな」

「足元見られてますね」


 消耗品の癖に高すぎる、一本5万て。


「ちょっと店主!この店ボリ過ぎじゃないの!?」


 のっそりと奥から店主らしきオッサンが出てきた。


「ハア?馬鹿いっちゃいけねえや、文句があるならよそ行ってくんな」

「上等だこのハゲ、そもそも私にはピカピカ光るラスラに魔法で明かりもがもがもが」

「アハハ、すんませーん」



 離れた後口から手を話される、最近こんなのばっかりだ。


「どう見てもぼったくりじゃん、制裁を」

「せんでいい、とりあえず別の店に行ってみよう」


 ふらりと歩き別の雑貨屋へ、こちらも消費アイテムが高い高い。ずこずこ列に戻り冒険者にこぼす。


「ねえなんですぐ燃え尽きるたいまつのくせにこんなするの」

「こういう所で金儲けするのは当たり前なんだろ、知らんがな」

「みんなこれで買うの?」

「ああ、煤は出るし長持ちしないし片手はふさがるしでいい事一つもないがな。中は真っ暗だから仕方ない」

「…………」

「まあ、その分報酬は美味いんだけどな!体を張る仕事なだけはあるぞ」

「へー…………」

「おいこっちこい」


 手を引かれまた列を離れる、そのまま裏路地へ。


「なあ、お前明かりとか出せるのか?」

「余裕だよ、道中飛んでる時は面倒だから付けなかっただけであんなの小指の先程の魔力しか使わないし」

「私はそんなに光れませんよ、あれお腹空くんですから」


 そうなんだ……


「ならたいまつ一回だけ買おう、残りはリュックに入ってる事にして中に入ったらお前のよく分からんカバンにしまうのはどうだ」

「おお、筋肉の割には考えてるね」

「食料だけはまともに買おう、水も出してる所を見たし毛布は…もう持ってたりしないか?」

「実はある」


 どるんとカバンから出す。


「じゃあそういう方向で行こう、そろそろ時間だから急ぐぞ」

「はあい、あーあ余計な出費だ」

「保存食はあんまり美味しくなさそうですね」



 色々買い込んだ後リュックに詰め込みカバンから出した鍋やら毛布やらでかさを増す、見た目だけなら並んでる人達と同じだ。


「ねえねえ、このダンジョンってまだ底まで行ってないんでしょ?みんなどの辺まで行くのさ」 

「さっきも言ったろ三層までだって、いけたとしても九層までしか行けえねえよ」

「行けないとは」

「言葉通りの意味で……ああ順番だ、まあ行けばわかるからお先にな」


 最後まで言え最後まで、まあ行けばわかるらしいしいっか?


「やーいよいよだね、ちょっと緊張してきた」

「お前割とひ弱だから前に出るなよ、明かりと妨害、回復だけしてくれればいいからな」

「もとよりそのつもりだけど」

「私は?私は何してましょう」

「応援でもしててくれ」

「はーい」

「終始ゆるいなあ」




「はーい次の方、券見せて」

「はいはい、これね」

「…ん、よし。じゃあどうぞ、最終確認ですけどダンジョン挑戦は全て自己責任ですからね。救助も援護もありません、死んでも文句言わないこと。言えないかアハハ」

「縁起でもない、気をつけまーす」

「はい行ってらっしゃい」


 階段を降り進む、また会おうぜ陽の光。待っててねお宝ちゃん達。



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