蛇の目玉、ネズミの目玉、野鳥の目玉に…
たのもーう。扉は無く、中にはたくさんのテーブルが置かれそこで武装した人々が思い思いに話をしていた。近くのテーブルに座っている人々にチラりと見られるがすぐ興味をなくしたように話を再開する。
「賑やかだね」
「ああ」
「みんな強そうですね」
「いや?どいつもこいつもボンクラだぞ」
自意識過剰がと言いたいが確かにツワブキから訓練中出る圧的な物を誰からも感じない。抑えているようにも見えないし。
ふらふらと周りを見る、すると奥の受付らしきところに『初めてのダンジョンはこちら』と書かれた板が上から吊るされていた。
「初めてはあっちだってさ、ほら行くよダンジョン童貞」
「やかましい、もうちょっと恥じらいを持て」
てくてくと受付へ、可もなく不可もないおねーさんが座っていた。
「じゃあ後は任せたわ、私は目付きが悪いらしいんでね。あーいつか手元が狂いそう狂いそうですわ?」
「わ、悪かったって。すみません俺たち初めてこの街来たんですけど」
「はいこんにちは。ダンジョンギルド、グルグルへようこそ」
ひどい名前。絶対流行らなさそう。
「今回はダンジョンに関しての質問ですか?」
「はいはい、なんかお金が稼げるって聞いて」
「そうですね、モンスターが消滅する際何か値打ちのある物を落とす事がございます。ここではドロップアイテムと言いますが、それらを換金して生計を立てている方がものすごく多いですね」
モンスターが消滅?
「あの、消滅するんですか?モンスターが?」
「はい、ダンジョン内のモンスターは装備から内臓に至るまで命が尽きた瞬間消滅致します。先述のドロップアイテム以外ですが」
「一体どういう仕組みで?」
「それが未だわかっておりません。百年ほど前、名のある魔法使いがダンジョンを作り最奥で研究をしていると伝えられていますが最深部までたどり着いた方は誰一人いないので真偽は不明のままです」
ほーん。
「ぶっちゃけ稼げます?」
「稼ぐの定義によりますが、ここの挑戦者様達は70万ポコほど月に稼ぎますね」
なっ!
「70万!?」
「ええ、とはいえ他の町と比べ物価はかなり高いのでこれでも質素な暮らしになりますが」
とてもそうは思えない、街並みの綺麗さやふらりと入った飲食店のクオリティを見てもわかる。
「それに命を張る仕事でもあります、死者もそれなりに出ますし体が資本の仕事ならば妥当かと」
そういうものなのかな?よく分からない。
「他にもご質問は?」
「ダンジョンのルールとかあるのか?」
「はい、ありますよ」
ペラリと紙を見せてきた。
「細かいことは今は置いておきますが一度の入場人数が決められていること、モンスターの横取り禁止、挑戦者間での戦闘禁止などが大事なところですかね」
「破ったら?」
「見つかり次第集団リンチです」
うわあ。
「それとこの街の永久追放ですね、物価は高いですけど住み心地が良いと評判なので必死にすがりついて懇願して来ますよ」
あっ、ちょっといい顔になっている。やばいよこの人。
「その他は?」
「ああ、えっとダンジョンはどこで入れますか?」
「ここを出てさらに中心へ歩くとありますよ。人が更にいるはずなのでわかると思います」
こちらを向いて確認するツワブキ、まあ今はもういいかな。
「ありがとう、分からないことがあったらまた聞きに来る」
「はい、アイテムの換金はここの二階や個人で商店に売りつける方法がございますのでどうぞ」
「はい、それじゃあ……」
「あっ、すみません」
?
「なんですか?」
「つかぬ事をお聞きしますがそちらの女性はもしや魔女ですか?」
神は言っている、ここで肯定する運命ではないと。
「いえ、私はこれが武器です」
懐に手をやり瞬時に大振りのナイフへ変化、見せつける。
「ああ、すみません。お手数お掛けしました」
「あの、魔女だと何か不味いんですか?」
「いえ、いけないことはありません。ただ……」
「ただ?」
「貴重すぎるんです、魔法使いという人材が」
「はあ」
「元々数の少ない魔法の使い手はこんな危険を犯しに来ないんですよ、この街以外でも充分働けますしね」
「まあ確かに」
「それに回復魔法の使い手はそれはもう貴重です、回復薬では治せない傷や疫病も治せる魔法は引っ張りだこですからね。この街にも数人はいますが予約待ちが長いうえにお金もものすごくかかります」
はーい魔法薬作れるし魔法もできまーす。
「どれくらいですか?」
「それこそこちらは毎日70万ポコ以上は」
うわーお。
「この街の住人は生傷が絶えません、もし魔法が使える方なら是非当ギルドで囲いこませて頂こうかと思ったのですが」
こわい。
「違ったようですね、億万長者も夢ではないのですが勘違いならすみません」
「ふふん、実は私こそが伝説の天才まh…
「ありがとうございます!帰るぞ!」
ひょいと担がれる。
「わあやめろ抱えるな!こらこら見える!パンツ見えちゃうって!やめてー!」
「野暮ったい黒ローブの癖に何言ってやがる」
「ぐえー」
「またのお越しをー」
なんやかんやあってダンジョンにたどり着く、とりあえずサクッと様子見して今晩の宿代でも稼ごうという算段だ。が。
「凄い行列……」
「入場制限があるって言ってたからな、入るのにも一苦労そうだ」
「ヤダヤダ、ちょっと先頭の様子見てくるね」
「おう」
「私も行きますー」
ラスラとてくてく先頭へ、受付のような小屋があり横にはいかにもな地下へ続く階段が。
「いかにもだね」
「いかにもですね、あれ?よく見るとみんな小屋の方にしか並んでませんね」
「ほんとだ、ねえねえ。なんでみんなここに並んでるの?」
先頭の優男風挑戦者に話しかける。
「え、知らないの?整理券だよ整理券。今からのだと四日後くらいになるかなあ」
「は?」
「あれ?もしかして初めて?ダンジョンに入るにはここで整理券を貰ってその書いてある日付にやっと挑戦できるんだよ」
なんっじゃそりゃ!
「へー……」
「一週間に二回くらいしか入れないけどさ、やっぱり収入はいいしダンジョン様々だよね!」
夢がガラガラ崩れて行くようだった。
「オウおかえり、見てくれちょっとは進んだぞ」
「ただいま、ねえ今並んでるのって四日後挑戦する整理券なんだってさ」
「はあ?なんだそれ!?」
「サクッと整理券取って記述日にサクッと狩猟、非番にはその報酬で遊んでるってのがここの挑戦者の日常らしいよ。コツコツお金を貯めて国外に行く人も居れば豪遊して何十年もここにいるって人もいるってさ」
「な、なるほど」
「どうするの?それでも行くの?」
「露骨に萎えてるな、まあ一回くらいは行ってみよう。せっかく来たんだし」
「じゃあ私は裏路地で認識阻害かけた後持ってる回復薬薄めてくるね」
「それでどうすんだ」
「この辺りの店売り回復薬、見た感じ品質ゴミカスだったから私の薄めたやつならかなり高値で売れるはず。足がつかないように困ってそうなホームレスこっそり洗脳してギルドで売り払わせてくるよ」
「そ、そうか……頑張ってくれ。にしてもそういう小汚い事はすぐ思いつくな」
「こっちを本業にして回復関連の覇権握ってもいいかもね」
「俺が暇じゃねえか、あと目が死んでるぞ。実はお前もダンジョン楽しみだったろ」
当たり前じゃん、稼げて楽しそうなイベント私が見逃すわけないだろ。
「じゃあこれ」
「?、なんだこれ」
「飲むとお互いの位置が何となく分かるようになる薬、昨日作っといたから用事が済んだら飲んでね」
「わかった、……ちなみに原料は?」
「蛇の目玉、ネズミの目玉、野鳥の目玉に…」
「もういい」
わざわざ言ってやったのに。