現出せよ!集団洗脳魔法!
「見えた!あれじゃない?」
森越え山越えついに見つけた大都市を指さすは美少女天才魔法使いムノベーちゃん、すなわち私の事だ。ほうきの先に乗っているツワブキネズミはちゅうちゅう鳴きながら首を縦に振る、よかったよかった。
最初の村からまさか一週間かかるとは思わなかった、水で体を拭いてるとはいえ流石にお風呂に入りたいぞこんちくしょう。
認識阻害をかけ低空飛行、にしてもめちゃくちゃでかい街だな、かなり遠くから見ても分かる。城壁の入口近くに降り立ち変化解除、人目を気にしながら認識阻害もラスラ以外解除だ。
「やっとだー!やっと文化的な生活が送れる!」
「俺はむしろいつもより快適だったがな、ほうきにくっついてメシ取ってりゃ終わる旅なんて体がなまっちまうぜ」
「とか言って身体強化で遊んでたじゃん、クマと素手で戦おうとしてたし」
「私はとにかくおいしいご飯が食べたいです」
「私も、もう野生の肉と野生の草はイヤ」
「ああもうわかった、早く中に入ろう」
てくてくどしどしふわふわ壁の入り口へ。それなりに人が並んでいて門番らしき人と会話した後中に進んでいる、よーし。現出せよ!集団洗脳魔法!
「道をあけな!魔物どm
「だからやめろアホ!」
「あいた!」
「流石に門番まで無力化してばれたらこの街を敵に回すぞ?」
「ばれなきゃ犯罪じゃないでしょ」
「いいから普通に通ろう、普通に」
「あんたから普通なんて言葉が出るなんて普通じゃないよ」
「ご主人が言うんですね」
私は普通だもん。
やっと先頭に来た。
「はーいこんちわ、入国の目的は?」
軽い門番だなあ、ツワブキにぐいと後ろに下げられる。
「迷宮探索です」
「?、ああダンジョンね。後ろの娘はカノジョ?」
「ああ、見ろよ目つきは怪しいけど割と可愛いだろ?」
「ほんとだ、目つきは邪悪だけどいいセン行ってるな。どうだいこんな盗賊みたいなのほっといて俺とご飯でも」
「は?」
これからは爬虫類ライフをお望みか?ぐぐいとさらに押しやられる。
「アハハ、冗談やめてくださいよ。もういいすか?」
「ああ、上司に見つかったら大目玉だからこれくらいにしとくか。じゃあどうぞ」
道を通される、あいつ顔は覚えたからな。
「誰がカノジョだ!次はナマコに変化したいようね」
「言い訳に決まってるだろ!魔女だなんて言ってみろろくな目に合わないぞ」
「ぬう」
それでもクーゲルシュライバーじゃないなら取って食われはしないと思うけど。
「ま、可愛いって言ってくれたしいいわ。ご飯ご飯!」
「チョロいですね」
「チョロいな」
聞こえてるぞ。
この都市もものすごい人混みだ、かき分け手頃な店に入る、店名は『飯所ヨルムンガンド』つよそう。
「わあ、人がいっぱい」
「凄いな」
クーゲルシュライバーやキダ・タローから逃げた村とは大違いだ、店員もいっぱいいて忙しそうに動き回っている。
「みんな強そうな格好ですね」
「そりゃダンジョンタウンだしな」
「エクストラな人達だね、勝手に座っていいのかな?座っちゃえ」
とすんとテーブルにつきツワブキも続く。
「とりあえずおすすめでも頼もっか」
「いいんじゃないか」
「声掛けなよ男の役目でしょ」
「そればっかりだな」
すいませーんと店員を呼ぶツワブキ、ドタドタとエプロンを着た女の子が寄ってきた。
「ご注文は?」
「腹減ってるんだがおすすめってあるか?」
「ありますよ、カキントンのジンジャ焼き定食です」
ジンジャは分かるがカキントンがわからない、まあいいや何となく美味しそうだし。こくんと頷く。
「じゃあそれ二つ」
「はーい、四千ポコ!」
「は!?高くないか?」
「ええ?この辺の店じゃ安い方よ」
いや高いよ、クーゲルシュライバーじゃそれであの魚フルコースのお釣りが来るぞ。これが都会…!
「都会だし物価も高いでしょ。仕方ないよ、ツワブキ」
「払うのは俺だろうが!チッ」
靴を脱ぎ出し踵から何やら取り出した。
「ありがとーございまーす」
「おじいちゃんみたいな隠し金するね」
「俺の虎の子をこんな所で、後で絶対請求するからな」
「ふんふーん」
「外道が」
「非道ですね」
言いたい放題か。
「はーいおまちど!」
木のトレーに運ばれ料理が届いた。肉の薄切りがタレと焼かれた物にジンジャのみじん切りらしき物が乗っている、爽やかな香りと肉の焼ける匂いが交わり胃袋は発狂寸前だ。
「いただきまーす!」
「いただきます」
「ご主人私は」
忘れてた。
「お肉一枚あげるからこっそり食べなさいこっそり」
「わあい」
さあ早速、まずお肉を一枚とりそのままかぶりつく。あまじょっぱい過剰な塩気、そして鼻を抜けるジンジャの香り。たまらずライスをかき込む、肉の味とライスにより塩気が調和され旨味へと変わる。このライスと染みでる脂により薄れる味まで計算された味付けは一朝一夕の研究ではたどり着けないだろう。
「おいしい!」
「ああ、実に俺好みだ」
「ご主人、ライスも欲しいです」
「はいはい」
ライスの器を下げその間ラスラがほじくり食べる。
「わあーおいしいです!疲れた時にはこういう濃いめのがいいですね」
「同感」
「酒が欲しくなるな」
あっという間に平らげごちそうさま、手を合わせ今後の相談だ。
「で、どうしよっか」
「まずは情報収集だろ、俺もそこまで詳しくないがダンジョンを管理する建物があるらしいからそこを目指そう」
「ほーん」
管理……?
「で、まあそんな楽勝な物でもないだろうし宿屋でも探して今日は終わりでいいだろ。俺もまあ実はそろそろ柔らかい布団で眠りたい」
「さんせーい、お風呂があるところがいいなあ」
「お金はあるんですか?」
「洗脳で……」
「そろそろ洗脳に頼るのもやめろ、それに強者揃いのこの街でむやみに魔法は使わない方がいいと思うぞ」
ぐっ、確かに。
「えー?じゃあどうすんのさ」
「まあそのうち考えよう、さあ行こうぜ」
「なんか楽しそうね」
「そりゃあやっとまともに戦えるからな」
バトルジャンキーが。
その肝心のダンジョンはどこぞや、と思い店員に聞いたら街の中心へ行けと言われた。絶賛移動中である。
「ご主人、やっぱりここ物価が高いですねぇ。野菜が50ポコもしますよ」
「凄いね、あっそうだ。どれどれ」
今まで使う機会のなかった魔眼を久々に使う、どうせぼったくりだと思ったが見ると50ポコと出た。
「あれ?普通に50ポコだ」
「ああ、周辺の相場に調節されますよ」
えぇ……?
「そ、そんなの貿易とかでマトモに使えないのでは?」
「あっ」
「嘘でしょ……?」
「ま、まあ。店から宝石とか買う時偽物じゃないかくらいならわかるんじゃないですか?多分」
その店しか周辺に宝石店がなくて全部偽物だったらどうするんだ。精霊のみならず激痛を伴って得た魔眼さえも廃物だったなんて……
「……なんだか今のところラスラと一緒にいるメリットがない気がするんだけど」
「契約精霊にメリットを求めるなんてナンセンスですよ!お喋りも出来て楽しいでしょう!それに言ったでしょう、魔眼は使えば進化するって!」
そのうち契約破棄の方法でも調べよう。
「くだらない会話は済んだか?着いたぞ、多分ここだろ」
「くだらなくなんてないやい、おおここが」
でかでかとした建物、入口の上に『ダンジョン管理ギルド』と書いてある。
「よしよし、では私が偉大なる第一歩を踏み入れよう」
「はいはい」