デッドオアアライブ
「おーい、大丈夫ー?」
魔法と薬を使い吹っ飛ばされ伸びていた蛮勇君を癒す慈悲深き魔女は私、美少女ムノベーちゃんである。ラスラは起きるまでポケットの中だ。
「うーむ……」
おお起きた、傷が治るだけだと思ったけど気まで取り戻すなんて頑丈な事で。
「はあい、オハヨ。だいじょーぶ?」
ふらふらと目の前で手を振る、目を開けこちらをゆっくりと見てくる蛮勇くん。
「く、クラーケンは……」
「もう無力化したよほら、君のおかげだぞこんちくしょう褒めてつかわす」
ぐぐぐと首を向け大人しいクラーケンを確認、目を一瞬見開くがすぐに安心したよう脱力した。
「流石魔女様、あんな怪物もお茶の子さいさいってか」
「やーもう二度とゴメンだけどね、ああするにはしばらく動けないし前衛いないと無理だわ。こんなの」
「そうか……っておい、鼻血出てるぞ」
「があ」
忘れてた、恥ずかしい花も恥じらう乙女というものが何たる事。杖を振り水でパシャっと顔を洗う、手鏡で確認。
「ふう、よしカワイイ。でしょ?」
「おっ、おう」
なんだその顔は。
「にしてもやっぱり魔女だったんだな、何が新手の教祖だ」
「ふふん、まあね。世にも珍しい魔女様のしかも天才の中の天才ムノベーちゃんとは私の事、頭を垂れてもええんやぞ」
「おう……」
魚屋のオヤジみたいな顔をするな。
「それでなんで助けてくれたの?みーんな逃げちゃったのに、私がいなかったら一人で戦うつもり?」
「いや、逃げようとしたんだが最前線で魔女が戦ってるって聞こえたから」
「ナヌ」
噂が早すぎる、ヤバいぞ目立ちたくない。
「そっかあ、じゃサヨナラ!あとの始末は任せたわ!「クラーケン!これからは人の為に生きること!」じゃっ!」
クラーケンに命じ杖をほうきに、さーてどっちに逃げようか……「待ってくれ!」
「なんでしょ……」
「言ったろ!頼みがあるって、俺も魔法が使えるようにしてくれ!」
「やだよ、じゃね」
ふわりと浮き上がり最高速でほうきを「頼む!」
「ウギャ!」
ローブの端を捕まれべしゃっと顔から落ちる。
「なにすんの!」
「お願いだ!少しでいいから話を聞いてくれ!」
「なんで私がそんな事……」
「…………」
うう、目がマジでちょっと怖い。どーしよぅ……
「へっ、変化!」
「!?」
ぼふんとネズミに変化、何故か金色だ。ぴっちりと蛮族鎧を着てちっちゃい斧を背負っている。……どうして私の周りには金色ばかり集うのだろう、成金みたいでちょっとヤだな。
「大人しくしてなさいね」
同じくポケットに突っ込み今度こそほうきで空へ、認識阻害も忘れずにかけあてもなくひとっ飛び。まったくなんだこの町は、踏んだり蹴ったりだったぞ二度とこない。
磯の香りはすっかり消え、キダ・タローからそれなりに離れた場所に小さな村を見つけたのでそこに降り立つ。今度こそ周りをよく確認し阻害解除、ポケットからおたんこなすを取り出す。ラスラは未だ伸びている。
「戻れ」
ぼふんと元に戻る金髪。
「な、なんだったんださっきのは……」
「ただの変化、とりあえずご飯食べに行こご飯。話はそのあと!」
「あ、ああ……」
食べ損ね続けてるんだこちとら。
さっさと手頃な店を見つけ中に入る。
「へいらっしゃい」
「へーい店主、美味しいご飯ちょうだい」
「何言ってやがる、ウチの店にマズイものなんてねえよ!」
「おーいいね、じゃあおまかせで頼んだ。金に糸目は付けないぜベイベ」
「あいよ」
ガタンとカウンターへ、金髪ものしのし着いてきて座る。
「それでアンタ名前は」
「ツワブキ」
「変な名前」
「うっせえ、気に入ってるんだぞ」
「で、なんだっけ。魔法使えるようになりたいんだっけ」
「ああ、頼む!」
「ヤダよ……」
「なんでだよ!」
「あのさあ、まず魔法使えるようになる方法知ってるの?」
「知ってるとも、何十年ものたゆまぬ努力で得るか魔法使いから直接体に魔力を流し込んで貰うかだろ?」
「まあそうだけど、後者は才能ないと一発で全身から血吹き出して死ぬってのも?」
「知ってる」
「知ってるんだ」
「ああ、だから早速頼む!」
「あんた頭おかしいよ…」
「癒解とか言いながら頭殴って来たり単身クラーケンに挑む奴に言われるとはな」
確かに。
「そもそもなんで魔法使えるようになりたいの?」
「え?そりゃあもっと強くなれるんだったら使えるようになりたいだろ」
「おやじ、お勘定お願い」
「オイ!」
「まだなんも出してねえよ!」
私が悪者なのだろうか、椅子に座り直す。
「いやー普通にやだって、17歳の女の子に人殺しを頼んでるんだよ?おわかり?」
「死なないだろ…多分」
「あいよ、おまちど!」
ドンと鳥の丸焼きが出てきた、わーい美味しそう。
「アヘー鳥の丸焼きだ、この薄いパンで包みながら食ってくれ」
「いいねーいただきまーす。ツワブキも食べなよ」
「じゃあ遠慮はしないぜ」
ナイフで皮をそぎ落とし付け合わせの野菜と共にパンにはさむ、上からたれをかけてそのままかぶりついた。カリッとした皮は噛めば噛む程美味しい脂が沁み出てくる、くどく感じる直前にさっぱりと野菜が打ち消し残るのは旨みのみ。焼きたてのパンはふかふかでたれと脂をよく吸いやみつき度を果てしなく高めている。端的に言えばおいしーい!
「いけるよおやじ!、特にこのたれがいいね」
「あったり前よ、当店秘伝の肉専用たれさァ!」
「おお、うまいな」
しばらく無心で包み続ける。疲れてお腹が空いた時にはこういうガッツリしたものは最高だよね、ひと段落して話を再開。
「それで爆発四散自殺したいって話だっけ?」
「違う、俺に魔力を流し込んでくれ」
「勘弁してよ、私この年で人殺しになりたくないよ」
「大丈夫だってちょっとだけだから、ほら先っちょだけ。な?」
「うわあ」
変態だ……
「クラーケン相手にあれだけ戦えてたじゃん、今でも充分強いよ」
「いやいやまだまだ、俺はもっと高みに行けるはずなんだ」
「じゃあもっと筋肉増やせば」
「これ以上増やすと素早く動けない、今がベストオブ筋肉なんだ」
「そう…」
何言ってるんだろう死ぬほどどうでもいい、適度にあしらって認識阻害で逃げればいっか。
「わかったわかった、じゃあ食べおわったら外でやったげるから」
「本当か!いやあ頼んで見るもんだな!」
満足げだ、と思ったらなんだかポケットがもぞもぞしている。
「ここどこですかー」
ポンとラスラが光りながら出てきた。
「おはよ、クラーケンなら倒して今は別の村だよ」
「おおさすが、むむっしかも美味しそうなものまで。ご主人食べていいです?」
頷く、そのまま肉にかぶりついた。隣で呆けているツワブキ、あらやだわたくしとしたことが忘れてたわ。シュッと杖を抜く。
「今見たものはわす…
「させるか!」
「むぎゅっ!」
口をパンでふさがれる、まずいぞ力じゃかてない。
「黙っといてやるからそうポンポン魔法で俺の体をいじらないでくれ」
一応頷く。
「でも今から魔力で体いじりまくれと言われたんだけどそれは」
「それはそれだ」
「そ」
「しかしお前の弱点もなかなか覚えてきたぞ、人にかける類の魔法は口に出さないと使えないな?」
そんなことない。いや実際はそうだけど、だいぶだいぶだーいぶ無理すれば使える。黙っとこ。
「まーね」
「大きい魔法も動きが止まるみたいだし魔女も万能じゃないんだな」
こっちもまあ本当、例外はあるけど。
「よし!いい事思いついたぞ!」
よくなさそう。
「なによ」
「お前目的があって動いてるか?」
「お金儲けと観光、かな?」
「そうか。ふっふっふ…ならばその旅、俺もついて行ってやる!」
「ゴキブリにへんg…!」
「やめろバカ!いいから話を聞けって」
「軽々しく乙女の口に肉を突っ込むなバカ!」
「軽々しく俺をゴキブリにしようとするなバカ!いいかよく聞け、実はいい金儲けの話を知ってるんだ」
「詳しく」
「なんだお前目つきがさっきと違うぞ」
ラスラのご加護がおそらく自分に効かないとわかった以上もう手段は選ばないのだ、空手で帰るなんてやだぞ。
「ここから思いっきり北に行った所に迷宮都市なるものがある、ここらじゃ遠くて噂が少ないがな」
「ほほう」
「そこでは下に潜れば潜るほどとんでもないお宝があると今話題だ、それで大金持ちになった挑戦者も何人もいる」
「続けて」
「さっき俺はまだまだと言ったがまあ盾としての自信はかなりある、そこにお前の魔法があれば百人力だ。道中俺の魔法の修行をしつつ迷宮で大儲けなんてどうだ、俺は強くなりお前は大金持ちって寸法よ」
「乗った!」
「は、早いな」
「じゃあまずはツワブキの強化だね、魔法を発現させるから腕出して」
「え?いやいやちょっと待て展開が早すぎる、お前どうしたんだ」
「そんな面白そうで美味しそうな話飛びつかない訳には行かないでしょ、ヒマだったしお金稼げるならもう決定よ」
「なんでそんな金が欲しいんだ?」
「美味しいものいっぱい食べれるじゃない」
「???」
「さあ行くよ、デッドオアアライブの準備はよろしくて?」
「ま、待て。流石に外にしよう、万が一選ばれし者じゃなかったらここが悲惨だ」
「死は怖くないのかね」
「いや怖いぞ、優先順位が違うだけだ」
こいつ相当ヤバいな、隙を見せない方が良かったかもしれない。
「おやじ、お勘定!」
「あいよ?なんだその光ってるのは」
「眠れ」
シュッと杖を振り意識を奪う、今度は止めなかったツワブキ。
「じゃ、払っといて。行くよラスラ」
「はーい、美味しかったです」
ラスラに認識阻害をかける。
「なんで俺が!」
「いま一ポコも持ってないのよ」
「ちっ、おやじ。釣りは要らんからここ置いとくぜ」
カウンターに突っ伏しているおやじに心の中で感謝、ごちそうさまでした。
並行連載『今日から俺は転校生ってことで』もよろしくね♡
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