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  作者: 長月
運命
3/5

右弦

ここは、右弦のアンスラ国のとある村。ここに、暴王と呼ばれる男が居た。

暴王と呼ばれる者はいわゆる、ギャングのリーダーであり、世に知られる事の無い義賊でもあった。

青仔(せいこ)、またアンスラ国の奴等が略奪をしやがったぞ。どうする?」

とギャングの副リーダーのコーネルが言った。

「またか、略奪物の場所は特定出来てるのか?」

と溜め息をつきながら、青仔は言った。


「勿論。」

とコーネルは、自身満々に言った。

「なら行くか。」

と気だるそうに青仔は言いながら。その場所に向かって行った。向かいながら青仔はコーネルに言った。

「チームは、大丈夫か?俺がチームに残った方が良いんじゃ無いのか?」

「いつも、俺達でやってるだろ?それに、青仔はただ寒いからやりたく無いだけだろ?サボるなよ暴王。」

とコーネルは、笑いながら青仔に言った。そう、今の季節は冬で、寒いのが苦手な青仔にとって、一番嫌な季節だった。コートに手袋、そしてブーツ。素材は毛皮と革で、唯一顔だけが出てる完全なる防寒着の青仔に対して、コーネルは白で統一されたジャケットと革のパンツだった。そして、青仔は一見して武器を持って無いのに対して、コーネルは背中に日本刀の様な刀を背負っていた。

そんな会話をしながら、やっと目的地に着いた。

「大体、ストーンを持ってれば寒くないだろ?」

とコーネルの言葉に青仔は、「ストーンと相性悪いの知ってて言ってるだろ?あぁ、早く暴れたい。」

と寒さでイライラきた為か、青仔はウズウズし出した。そうこうしてる内に略奪物が大きな荷台一杯に運ばれて来た。

「さて、行くか。」

とコーネルは、青仔に言ったが横には誰も居なく。前を見ると既に青仔は、アンスラ国の兵士達に襲い掛かって居た。

「毎回毎回、人の物取ってんじゃねー!」

と青仔は、右手を前に突き出しショックと言う能力で衝撃波を繰り出した。5、6人居た兵士達はそれをまともにくらい、中には全身の骨が砕かれた兵士も居た。しかし、そんな中で二人だけ無傷な兵士が居た。

「ふん、ならばこれはどうだ?」

と青仔は、走った状態から上に飛んだ。その高さは2メートルはあった。そして、その状態で次は両手を残った二人に向けウ゛ァッサーと言う能力を使った。ウ゛ァッサーを使った青仔の手の平から水の塊が断続的に発射された。発射された水は、兵士達にぶつかる前に気温によって一瞬にして、氷の塊に変わり殺傷能力が増した。氷の塊が二人の兵士に何十発と直撃したが、またしても無傷だった。

「何!?」

と着地してから青仔は言った。

「バカ青仔っ!勝手に行くな!」

と後ろからコーネルが走りながらやって来た。

「そいつらに、能力は殆ど効かねぇよ。最近アンスラ国主がそういう力を持った、ゴーレムと言う遠隔操作出来る忠実な人形を作ったらしいからな。まぁ、まだ試作段階らしいけどな。」

とコーネルは、背中の刀を抜いた。その刀身は桜吹雪だった。桜吹雪とは、桜の花が咲いた様な刀身で、今までそれを造れた刀鍛治は居なかった。あの村正でも成し得なかった伝説級の代物を、コーネルは持っていた。

コーネルは、桜吹雪を右手で持ち、首をコキコキと音を鳴らしてから兵士に向かい歩き出した。

「ここは、俺に任しとけって。」

と青仔に言った後で左手が仄かに光を放ち出した。

「我は命ずる、汝が力を我に貸し与えよ。」

と言い出したとたん、後ろで青仔がぐっと言ったのが聞こえた。それと同時にコーネルは走り出した。コーネルの身体は全身鱗に覆われ、身体能力も格段に上がった。

「行くぞ?」

と兵士に言ったと思いきや、コーネルは兵士の後ろに居た。と同時に兵士は真っ二つに割れ、爆発した。

「さっ、帰ろっか。」

とコーネルは言ったが、それに対して青仔は

「力を使うなら先に言えよ。」

と少し怒りながら言った。

「まぁまぁ、怒るなって。帰るぞ。」

と二人はアジトに帰って行った。

アジトに戻った青仔とコーネル。

「お疲れ様です、えっと…」

とまだ新人なのか、どっちが青仔でコーネルかが分からない様だ。

「バカ野郎!此方が青仔リーダーで、此方がコーネル副リーダーって教えただろうが!」

と新人に言った後で、すかさず先輩ギャングは青仔とコーネルに「すいません!ちゃんと教育しときますので!」と頭を下げた。

「あぁ、別に良いよ、良く間違えられるし。」

と青仔は笑いながら言った。

それもその筈で、青仔は、左目が前髪で隠れていて髪の長さは肩位、髪の色は青色で一見貴族を思わせる容姿で目は澄んだ青色だった。そして、コーネルは青仔とは逆に右目が隠れているだけで、後は瓜二つだった。外見で違うのが、髪の向きだけなら間違えられてもしょうがないだろう。

「じゃあ、いつもの様に町に略奪物を取りに行ける状態なのを、流布しとけ。因みに今回は暴れ過ぎてちょっと傷が付いてるかも知れんがな。」

とコーネルは、苦笑いしながら言った。おう。と、声を上げ20人程町に行き、残ったのは10人程だった。

「じゃあ、今日も宴会するぞ!」

と青仔は、残った者にそう言った。すると

「よっしゃー!」

と残った10人程で宴会の準備に取り掛かった。

宴会が終わった次の日。またあの報せがきた。

「リーダー!またアンスラ国の奴等が略奪をしました。」

そうこの国では、略奪など毎日の様に起こっているのだ。

「きりがないな。こうなったら戦争だ!」

この突然の言葉に一同は、キョトンとした。

「戦争なんて突然過ぎないか?もっと準備が必要だろ。」

とコーネルは、青仔に諭す様に言った。

「前々から考えてた事だが、それもそうだな。分かった。ならば町の者を煽動して、一週間後に城に攻撃を仕掛けるぞ。」

おう。と、この言葉にチームの全員は、賛同し行動を始めた。この村の人口は青仔達グループを除くと80人程なので、1日あれば優に話しを広げる事は可能なのだ。

「流石に皆動くのが早いなぁ。」

とコーネルは、言ったが

「当たり前だろ?俺達のチームだぞ?」

と青仔は返した。

そして一週間後。

青仔達は、村人達を蜂起させる事に成功し、青仔のグループと合わせて計90人程集まった。参加しなかった者は女子供と老人達が殆どの為、若者達は全て参加していた。そして綿密な作戦会議を繰り返し行なった結果、西、東、北のそれぞれの城壁を攻め、城内の戦力を分断させた上で、正面から青仔らを含む精鋭達10名程で、攻める事にした。


城の周りには兵士が4、5人程度しか居なかった為、簡単に城内に侵入出来た。

「アイツら、大丈夫かな?」

と青仔は、コーネルに言った。

「大丈夫だろ。自分達で動いてんだこの戦いで死んでも、文句は無いだろ。それに俺達が制圧すれば浮かばれるだろうよ。」

「なら、今の俺達の仕事は信じて待つ事だけだな」

と、青仔は頷いてから言った。

「そっ、メインディッシュは最後に来るもんだからな。」

と二人は木陰に隠れながら、互いを落ち着かせていた。

「賊だっ!全員城内に集合ー!」

と能力なのか、拡声器の様な物を使ったのか定かでは無いが、城内から声が響いた。

「行くか。」

と、青仔は言ったがコーネルに止められた。

「まだだ、あいつらなら全員と迄は行かないが倒せる。問題は、この前出てきたゴーレムだけだ。」

と冷徹な表情を浮かべながら、コーネルは言った。

「なぁ、あんたらあのギャングの親玉だろ?何で城を攻撃する事にしたんだ?」

と一人の村人が青仔達に聞いてきた。

「俺達は俺達なりに町を守ってきたんだよ、それを脅かす城の奴等が許せないだけだ。」

青仔は答えた。

「俺達だって、好きで暴れてた訳じゃねぇよ、城の奴等が俺達だけに目を向ける様にしてただけだ。」

コーネルが答える。

「そうだったのか…そうとは知らずに暴王何て呼んで悪かったな。」

と村人は頭を下げた。

「別に気にしてねぇよ。言われてもしょうがないしな。」

やんわりと青仔は答えた。

「まっ、そう言う事。」

コーネルは相槌を打つ様に答えた。

それから20分は経ったで有ろうか、突然コーネルの腰に付けてた石が光りだした。

「何だ?何の光りだコーネル?」

と青仔は、コーネルに聞いた。

「この光りは、ゴーレムが出たら光らせる様に俺の右腕に言ってあったんだよ。」

と言い、コーネルは立ち上がった。

「行くぞっ!」

と後ろに向き直り、後ろで控えてた者達に言った。青仔も立ち上がり、後ろを向き直ってから一言。

「皆、死ぬな。また、生きて逢おう。」

そう言ってから、城に向かって二人は走り出した。そして残りの者も続いて走り出した。

城内に入るとそこは、敵味方合わせて200人程はある死体の絨毯が出来ていた。殆どは城の者の死体なのが青仔達には幸いだったが、それでも居た堪れない気持ちだった。

「必ずこの城を落としてやるからな。」

と小さいが、強い声で青仔は言った。そして青仔は、先頭に立ちこう言った。

「出てこいよ、分かってんだぞ?俺の仲間を殺しといて、てめぇら全て叩き潰してやる!」

と青仔は、珍しく髪が逆立つ程の激昂をした。

「なら、次は俺の力を使え。」

とコーネルは後ろからそう言ったが

「要らん!」

と青仔は、拒否した。

「前も言ったがそいつらに能力は、全く通じ無いぞ?」

「関係ねぇ。」

とコーネルの言葉を聞く気も無い様だ。すると、前方にドスンと大きな音をたてて3体のゴーレムが上から落ちて来た。

「コーネル、こいつらに知能はあんのか?」

と青仔は、ゴーレムから目を離さずにそうコーネルに聞いた。

「知能が有ると言う話しは聞いた事無いが、何故だ?」

コーネルは、逆に青仔に聞いたが、青仔はその問いには答えずただ一言、そうかと言っただけであった。

「なら行くぞ!」

と言い、青仔はゴーレム達に向かって走り出した。突如青仔の背中に、蛇の様なオーラが揺らめき出していた。

そのオーラが青仔の身体に消えて行った時、青仔の肩までだった髪の毛が腰位まで伸びていた。

「汝、古の力をくらうがいい!」

と青仔の両手に蒼い光りが灯されていた。その刹那に青仔の体は消え、ゴーレム達の足下に屈んで居た。

「くらえっ!天竜翔牙」

と青仔は、地面に両手をつけた。すると、地面から青き竜が現れ、天に昇って行った。そしてそこには大きな穴が空いてるだけで、ゴーレム達の姿は消えていた。天竜翔牙を使った青仔の目は、青い爬虫類の様な目に変わっていて、そして口からは蛇の様な鋭い牙が生えていた。

「大丈夫か?天竜翔牙なんて使って。」

とコーネルは、心配そうに聞いた。

「大丈夫だ。さぁ、ここからは各々散らばって他の者を助けに行くんだ。俺達は王を殺す。」

と青仔は、コーネル以外の者達に言った。その言葉に従い皆、おう。と、威勢良く散らばって行った。

コーネルは二人だけになってから聞いた。

「なぁ、散らばってたら皆死ぬぞ?」

と疲れて座ってる青仔にそう言った。

「大丈夫だウ゛ァッサーで鎧を作って、皆に掛けてるからな。ちょっとやそっとじゃ死なねーよ。」

とズボンをパンパンと叩きながら、青仔は立ち上がった。

「さて、回復したし王の元に行くぞ。」

と青仔は、歩き出した。


「ねえ、どうして右弦なの?望月って所に行くんじゃないの?」

この言葉に光輝は、こう返した。

「順番が有るんだよ。まぁ、時期が来れば教えるよ。」

もう。と凛は、少し拗ねながらこう言った。

「じゃあ、これから何処に行くの?」

「あの城さ。」

と光輝は、アンスラ城を指差しながら言った。

城に行く途中で光輝は、ある事に気付いた。それは、町中に男が一人も居ない事である。居ても老人・子供・だけで後は女だけだった。

「あの、どうしてこの町には若い男の人が居ないんですか?」

光輝は町に居る女性に聞いた。すると、女性はこう答えた。

「今、城の中で自由を勝ち取る為の戦いに参加してるからよ。だから、城には行っちゃだめよ?」

と、女性は神妙な面持ちの中に笑いを含ませながら言った。そして、光輝は礼を言い足早に城に向かった。

「ちょっと!突然走んないでよ。」

と、凛は光輝の後を走って付いて行った。

城に着いた光輝達は、ゆっくりと城の中に入って行った。そこには、大量の死体が有り、遠くでは大きな影と戦っている、数人の人影が見えた。

「助太刀するぞっ!」

と光輝は、人影に向かい走った。そして、大きな影ゴーレムが所定距離に入った途端に光輝は、サンダーの能力を使った。が、しかし全く能力は効いて無かった。

「何っ!」

光輝は驚いたが、ならばと今度はフォイアーを使った。フォイアーの直撃を喰らったゴーレムは、炎に包まれ一瞬で炭と化した。

「こんな奴は後何体居る?それから、この戦いのリーダーは誰だ?」

と光輝は、戦っていた者達に聞いた。

「恐らく、後二体程です。暴王と呼ばれる町のギャングのリーダーが、この戦いのリーダーです。」

「暴王か、ありがとう。それから、この能力の効かない奴は頭を潰せば倒せる筈だ。勿論物理攻撃でな。」

と光輝は、こう言って城の中心に向かって行った。最後にこう言い残して。

「じゃあな!生きてたらまた逢おうぜ。」

そう言い光輝は、右手を上げながら走って行った。

王の間に移動してる時に、凛は素朴な疑問を投げ掛けた。

「何であの怪物には、物理攻撃で頭を潰したら倒せる事が分かったの?」

「簡単だよ、最後に燃えたのが頭に有る奴の核だったからな。その証拠に核が燃え尽きる迄、奴は動こうとしてたし。」

「良く見えたわね?私には一瞬の出来事にしか見え無かったわ。」

「まぁ、身体能力は変わって無いからな。」

と、一人言の様に小さな声で光輝は言った。

「えっ?何?」

「いや、何でも無いよ。」

「そう言えば二人目って何?」

「二人目は二人目さ。この旅のな。」

「じゃあ、後何人かは居るの?」

「まぁね、後何人居るかは分かんないけどね。」

そうこうしてる内に、王の間に到着した。その時、ドアの向こうから話し声が聞こえた。

「やっと終わったな。」

「ああ、でも立ち聞きしてる礼儀知らずは、残ってるけどな。」

と、突然殺気が放たれ光輝達の方へ向かって来る。

「光輝、こっちに来たよ?」

と凛は少し焦りながら言った。が、その反応とは逆に光輝は、落ち着いた声でこう言った。

「大丈夫だって、この戦いだけは逃れられないんだし、負けられねぇよ。」

と光輝は冷静に言った。

殺気は扉の前で止まり、ゆっくりと扉を開けた。そこには、手ぶらの黒い格好の青仔と刀を背負った赤い格好のコーネルが居た。

「何だ?お前らこんな所に何しに来た?」

と、青仔は光輝達に聞いた。

「お前達に会いに。」

それだけ言うと、光輝はショックと言う、衝撃波を繰り出した。不意を衝かれ、青仔とコーネルは、部屋の中央迄飛ばされた。

「突然何しやがるっ!」

と、コーネルは光輝に言ったが、光輝はこう返した。

「思い出せ、“我等”の使命を。」

「使命…だと?何の事だ?」

と青仔は聞いた。

「やはり、分からんか…。ならば、思い出させよう。」

と光輝は、青仔達にそう言い、右手を青仔達に向けた。

「お前達は、二人で一人なのだ。思い出せ。炎舞(えんぶ)

と言った後に、フォイアーを使った。小さな火が、青仔達を囲みぐるぐると回りだした。


「青仔っ!ウ゛ァッサーを使って防げっ!この技はヤバい!」

と、コーネルは青仔に言った。コーネルの本能がこの囲みから出る事自体が、生死に関わる事と察知したのだろう。

そして、火が一つの輪になった時、青仔達は炎に包まれた。炎が消えた後には、仄かな青い光に包まれた二人の姿が有った。

「くっ、何て攻撃だ。俺の力じゃ完全に抑える事もままならねぇ。」

悔しそうに青仔は言った。

「ならば、俺達の力を一つにしようじゃないか。」

とコーネルは、青仔に言った。

「そうだな、それしか無いな。ならやるぞっ!」

と二人は、互いの両手を繋ぎ合い、何やら呪文の様な言葉を発した。

「我等の力を一つにせんが為、我は桜吹雪を。」

そのコーネルの言葉に青仔はこう続いた。

「我等の力を一つにせんが為、我はウ゛ァッサーの力を。」

「我等、今一つにならんっ」

と、二人は声を揃えた。その時、青き光りが二人を包んだ。

光が消え、そこに居たのは青仔でもコーネルでもなく、一人の者が居た。その者は、背中に蒼き竜の刺青が有り、肩まで伸びた青髪、そして眼は金色の爬虫類の眼をしていた。そして背中には、桜吹雪を背負っていた。

「この姿だと、加減が出来ないから死んでも知らんぞ?」

と低く透き通った声で、その者は言った。

「面白い、なら俺もそのつもりで行こう。」

と光輝は言った。

「その前にお前の名は?」

光輝は聞いた。

青竜せいりゅうだ。貴様は?」

「光輝だ。望月に行くためには、お前の力が必要なんでね。」

知った事かと言い、青竜は右手を光輝に向けた。すると、右手から黒き竜が光輝に向かって来た。

「くっ!」

と光輝はかろうじて避けたが、続け様に今度は白き竜が向かって来た。白き竜が光輝に直撃した瞬間、光輝の体は陽炎の様に揺らめきながら消えた。

「ふぅ、陽炎を使ってて良かったぜ。次はこっちの番だな。」

と光輝は青竜の後ろに現れ炎舞を使った。先程より早く輪が出来、青竜を包みこんだ。

「今の俺には、効かん!」

と青竜の体に、爬虫類の様な鱗がびっしりと生え、炎を退けた。

「ははは、やるな。」

と光輝は笑いながら言った。

「俺の技を見せてやろう。」

と青竜は、右手を下に左手を上に向けた。

繰竜戯そうりゅうぎ!」

そう言い、青竜は右手を上に上げた。すると地面から先程の黒き竜が現れ、光輝は不意を衝かれ直撃した。

「がはっ!」

光輝は、後ろに1メートル程飛ばされた。青竜は、次に左手を下に下げた。天から先ほどの白き竜が光輝に向かって下りて来た。その時速は、500キロ程は出ていた。

「ちっ!」

光輝は炎舞を自分に掛けた。これにより、白き竜は消えたがそこに光輝の姿は無かった。

「自爆…か?」

青竜は半信半疑で、そう言った。その刹那、背筋に悪寒が走った。

「自爆何てするかよ!」

光輝は後ろに居たが、その姿は3体に別れて居た。

「それも、陽炎と言うやつか?」

青竜は聞いた。

「ご名答。ならば、どれが本物か分かるかな?」

光輝達は走りだした。

「分からずとも、全て消す迄よ。」

今度は、白き竜と黒き竜が同時に襲い掛かってきた。光輝達は消え去った。

「読みが甘いな。」

光輝は、先ほど黒き竜に吹き飛ばされた位置に居た。そしてカーテンを使い、青竜の周りに炎舞を八個作り、青竜の真上で炎が一つになる様にしていた。一つになった炎は、やがて一つの大きな火の玉に成り、それを青竜に落とした。

「くっ!早すぎる、間に合うか?」

青竜は、炎が直撃する寸前で先程と同じ様に鱗で全身を守る事に間に合ったが、それでも多大なダメージを受けた。

「チェックメイトだ。流石に大炎舞は防げなかった様だな。」

光輝は、右手を青竜に向けた状態でカーテンを解いた。

「俺の敗けだ。お前、一体何者だ?」

青竜は聞いた。

「未だ分からないのか?」

光輝は、青竜の額に右手を置いた。

「思い出せ、これが我等の使命だ。」

光輝は、青竜の額に右手を当てながら言った。どうやら、青竜の記憶に関する事を見せてるらしい。

そこはアンスラ国で見た光景に類似していた。そして、あの白衣の男が居た…

男はこう言った。

「お前の右腕はもうあの中だ。」

そう指差した先には大きな円筒形があった。その中には、右腕が培養液のような液体の中で不思議と真ん中にあった。そして、それは見る見るうちに赤き鳥の形を成していった。

「さて、それじゃあ次は左腕だな。左腕は何になるのかな?」

男は無邪気に虫を殺してる子供の様な顔で楽しんでいた。そしてその手には刃渡り50センチ程の錆びた剣が握られていた。そして、その剣を勢いよく振り落とした。突如、意識が遠退く感覚が襲ってきた。目の前は真っ暗になり、遠くで声が聞こえた。

「我が肉体を幾ら切り刻んでも一緒だ。必ずいつかは一つに戻るのだからな。」

「ふん、減らず口も其処までにするんだな。お前の…」

其処で青竜は覚醒した。

「ふっ、そうだったな。我等の使命はあの方の復活の為だな。」

青竜は、記憶を思い出した様だ。が、覚醒とは名ばかりの、現実世界では一秒も経たない刹那とも呼べる程の短い時間だった。まるで走馬灯が駆け巡った様な感じだ。

「思い出したなら、皆に別れを告げろ。明朝に出発するぞ。我等には時間が無い。」

ああ。と青竜は、光輝の言葉に頷いた。

城の中のゴーレムは光輝のアドバイスもあってか、村人達の手によって煎滅された。そして城の中にあった夥しい死体は光輝の手によって悉く火葬された。特筆すべきは光輝のその力加減である。床を焦がす事無く、死体のみを燃やし尽くしたのである。それも全てを一瞬にして…

「お前達の頑張りで俺は次に進める。お前達の魂毎、世界の果て迄連れて行ってやるぜ。」

そう光輝は憂いを帯びた表情で呟いた。


その夜、凛は光輝の部屋に居た。

「ねぇ、そろそろ教えてよ。何で望月って所を目指すの?」

凛は光輝に聞いた。

「それは、泉の時から何故凜が生きてるか思い出せたら分かるよ。」

光輝は、言った。

「何故って、九死に一生を得たんじゃないの?」

「いや、凜は確かにあの時に死んでたよ。」

「じゃあ、何で私は生きてるの?」

「今、俺が言えるのはこれ位だな。後は、望月に行かなければこの世界が危ないんだ。」

光輝は、謎を含んだ言い方をした。

「それじゃあ、分からないよ。」

凛は、少し落ち込んだ言い方をした。

「ごめん。…さぁ、今日はもう寝るぞ。明日からまた出発だしな。」

そう言って光輝は、凛の背中を押しながら部屋から出した。

「ごめんな凛。今はまだ言えないんだ。」

そう呟く様に言い、物憂げな表情のまま床に就いた。

次の日、青竜と光輝、凜の三人は、ギャングのアジトに居た。

「皆世話になったな。俺はこれから、こいつらと旅に出る。皆元気にやって行けよ。」

青竜は、ギャング達にそう言った。

「頑張ってきて下さい。この町に寄る事が有れば、必ず顔出しに来て下さいよ?」

右腕だった男が言った。

「あぁ、必ずな。じゃあ、昨日言った通り今日でこのチームは解散だ!」

そう言った途端、中には泣き出す者も居た。

「皆達者でな。」

そう言って、青竜達はアジトから出ていった。

町に出た三人は、町の人に話しかけられた。

「何処に行くんだい?この町の救世主は。」

町のおばさんはそう言いながら、近寄って来た。

「ちょっと旅にな。」

青竜は答えた。

「あら、そうなのかい?でも暴王なんて呼んで悪かったね。」

おばさんは謝った。

「いや、良いんだ。ギャングなんて物騒なものを立ち上げたしな。でも、今日で解散したし、あいつらの事宜しく頼むよ。」

青竜は言った。

「あぁ、任しときな。あんたも頑張って来るんだよ。」

「あぁ、有難う。」

そして青竜達は、町を出た。

「何で町の人もチームの奴等も、お前が青仔とコーネルって分かったんだ?」

光輝は、素朴な疑問を投げ掛けた。

「町の人は多分、チームの奴等が言ったんだろう。チームの奴等には、昨日経緯を話したからな。」

青竜は答えた。

「ねぇ、青竜は青仔とコーネルに戻る事は、出来ないの?」

凜も素朴な疑問を投げ掛けた。

「記憶が戻ったし、もう無理だな。記憶が戻る前は、二人に戻れたんだがな。ひょっとしたら戻る方法が有るのかも知れんが、もう戻る必要も無いしな。」

うっすらと微笑みを浮かべながら青竜は言った。

「所でお前らは、どうやって海を渡って来れたんだ?」

青竜は、聞いた。

「もうそろそろ着くし、着いたら教えるよ。」

光輝は、歩きながらそう答えた。

20分程歩いただろうか、光輝の言う場所に着いた。

「長いもうちょっとだな。」

青竜は溜め息混じりにそう言った。

「まぁまぁ、説明が難しいから実際見てもらった方が早いと思ってな。あの時代にこれは無かったからな。」

そう言って、光輝はそれを指差した。それは、大きな貯水タンクの様な物が二つあり、その真ん中に丸い祭壇の様な足場が有った。そして上にも同じ物が有った。

光輝達は、丸い足場に乗った。そして、光輝は呪文の様な言葉を発した。

「この地に残る英霊の力よ、我を彼の地に導け。」

しかし、何の変化も無かった。

「何故だ?何がおかしいんだ?」

光輝は、困惑の表情を浮かべた。

「本当にこれで来たのか?」

青竜は、堪らず聞いた。

「本当だ、だが何かがおかしい。」

光輝がそう言った刹那、突如声が響いた。

「汝等、この場所に辿り着き、あまつさえ大陸間移動装置を使うとは、ただの人間では無いな?」

謎の声はそう言った。

「ああ、ただの人間じゃないぜ?その前にお前は誰だ?」

光輝は聞いた。

「我は、この大陸の主とでも言おうか。とにかく、汝等には力が足りん。だから、装置を起動させれんのだ。」

「主?ふっ、なるほどな。道理で青竜が弱いと思った。ならば、姿を現し青竜と戦え。お前の名も青竜だろ?」

光輝は、悟った様に言った。

「何故我の名を?汝は、何者だ?」

謎の声、青竜は驚いた様に言った。

「こっちの青竜に勝てたら、思い出せるだろうよ。お前記憶が飛んでる部分が多いだろ?」

光輝の言葉に、味方の青竜はすかさずこう言った。

「まさか、俺の力の源は奴なのか?」

「ああ。」

光輝は、答えた。

「ふっ、どうやらただの人間では無いのは本当の様だな。良かろう戦ってやろう。」

そして、青竜は姿を現した。

目の前に、紅き眼をした黒髪の青竜が現れた。

「青竜とやら、死んでも知らんぞ?」

黒髪は言った。

「俺の眼と髪の色を変えただけの、馬鹿野郎がぁ!」

青髪の青竜は、ウ゛ァッサーの力を右手に宿しながら、黒髪に襲い掛かった。

「遅いな。」

黒髪は、紙一重で避け、すかさず膝蹴りを鳩尾に入れた。

「がはっ!」

青髪は、カウンターで入った為に一瞬動きが止まってしまった。それもその筈、肋骨に入れば砕ける程の衝撃だったからだ。

「真のウ゛ァッサーは、こんなちゃちな物じゃない。喰らうがいい、真のウ゛ァッサーを。」

そう言って、黒髪はウ゛ァッサーを背中に当てた。

「がっ!」

青髪は、地に叩き付けられる様に倒れた。

「終わったぞ。聞かせて貰おうか?汝が何者なのかを。」

言いながら、黒髪は光輝の方に向かって歩き始めた。

「本当に終わってれば、こっちの青竜は消えてるよ。」

光輝は、冷めた口調でそう返した。黒髪は、歩みを止めこう言った。

「ならば、本当に殺してやろう。」

黒髪はそう言い、後方に跳び右手を青髪の心臓めがけて、貫いた。どすっと言う音と共に、右手は心臓を貫いた。

「何っ!?」

黒髪は、驚きの表情を見せた。それもその筈で有る。音はしたが肉を貫いた感触が全く無かったのである。すると、青髪の体は水に変わり辺り一面に散らばった。突如、何処からか今まで感じた事の無い殺気を感じた。あまりの殺気に、黒髪は蛇に睨まれた蛙の様になっていた。

(動けば死ぬ。)

黒髪は、率直にそう思った。

どんどん殺気が強くなっていく。まるで、四方八方から弓を構えられてる様な、そんな殺気だった。

(一体何処から?)

黒髪は、それしか頭に無かった。場所が特定出来れば、対処出来るという自負があったからである。

(俺が死んだと思うなよ?)

頭に直接、青髪の声が響いた。

(くっ!まさか奴が言った通りまだ生きてるとは…)

「ぐふっ!」

突然黒髪は、吐血した。外からの攻撃を受けた訳では無いのに、何故吐血したのか本人すら分からずにいた。

(早く俺を見つけなきゃ死ぬぞ?)

青髪は、嘲笑しながら言った。

(くっ!水になって消えた筈なのに…まてよ、水?そうか!)

黒髪は、自分の敵が何処に居るのかが特定出来た。そして黒髪の青竜は、自分の体にウ゛ァッサーを使い凍り付かせた。

(この短時間で良く気付いたな。ならば、お前の精神世界で決着を付けてやるよ。)

青髪の青竜は、そう言い黒髪の青竜の精神世界に潜り込んだ。

黒髪の精神世界は、何も無い荒野の様だった。

「なぁ、青髪よ。この勝負に勝った方が、本当の力と記憶を手に入れれるのだろう?ならば、それまではお互いを青竜として名乗るのを止め無いか?」

「あぁ、良いぜ。どうせ勝つのは俺だしな。」

青髪は、そう言いながら全身をウ゛ァッサーで覆った。

「ふん、そんなちゃちなウ゛ァッサーでは我には勝てぬ。」

同じく黒髪もウ゛ァッサーで全身を覆った。青髪のウ゛ァッサーは仄かに光る程度なのに対して、黒髪は無色透明だった。そして、力が凝縮されてるのが良く分かった。

(くっ!これ程に力の差があるとは…しかし、俺は負ける訳には行かねぇ!あの方の為にっ!)

青髪は、深呼吸した後に黒髪に向かって走った。

「食らえっ!氷竜散滅波!」

青髪は、黒髪迄5歩と言う所で飛び上がり、手の平を併せてその指先を黒髪に向けて氷竜散滅波ひょうりゅうさんめつはと言う技を繰り出した。そして、それは黒髪に直撃した。冷気が消え、少し位のダメージを受けてると思ってた青髪に、衝撃の姿があった。

「少しは効くと思ったが、擦り傷一つ付かんわ。」

何と、黒髪は無傷で立って居た。

「右手に白竜の力、左手に黒竜の力、汝等の力よ我に宿れ。」

青髪は、何やら呪文めいた言葉を発し力を増幅させた。

「ほう。分竜力(ぶんりゅうりょく)まで使えるとは、驚きだな。面白い、それなら対等に戦えるかもしれんな。」

黒髪は、笑顔を浮かべながら言った。

そう言い黒髪は左手を青髪に向け、蒼き竜を放った。青髪は、咄嗟に両腕を体の前で十字に交差させた。

「ぐはっ!」

しかし、それでも黒髪の力が圧倒的だった為に吹き飛ばされてしまった。しかし、諦めずと青髪は、黒髪に向かって走り出した。すると、黒髪は左手を下ろし、右手を前に突き出した。

「防げぬなら避けるまで!」

そう言い、青髪は前からの攻撃に集中しながら向かって行く。すると突然、後ろから衝撃が来て、青髪は右に吹き飛ばされた。

「がはっ!な、何が起きた?」

青髪は、何故自分が吹き飛ばされたか理解出来ずにいた。そして立ち上がり、口元の血を拭きながら、冷静に考えていた。

(左手は放出。そして右は?…なるほどな、ならば性質を利用するしか無いな。ならば桜吹雪の能力を使うか。)

そして、青髪は黒髪に向かい走り出した。そして黒髪は先程と同じ様に左手を突き出す。それを先程と同じ様に避け、黒髪は右手を突き出し、左手を下に下ろした。

そして、後ろから青髪を吹き飛ばした何かが、やってきた。その瞬間、青髪は叫んだ。

「桜の舞!」

すると青髪の背中の桜吹雪からキラキラと光る、桜が舞いだした。その刹那に青髪の右斜め前に、爆発が起こった。

「何っ!?」

流石の黒髪もこれには、驚きを隠せずにいた。なぜならば、この攻撃を今まで防がれた事が無かったからである。

「この桜は、反射の効果があるんでね。それにその攻撃は、放出時は竜だが、戻って来る時は竜の力を残した状態で、大気中の水分を吸収しながら右手に戻るブーメランの様な物だ。しかも、光の力を8割にしないとあの速度は出ないからな。だから、桜の舞で反射したんだよ。」

そして、青髪は黒髪の前までやってきた。

青髪は、両手を黒髪の両脇腹に当て、白と黒の竜を解放した。

「ぐはっ!…こしゃくなっ!」

黒髪は、右手で殴り掛かったが、既に青髪の姿は無く後方に居た。

(くっ、速いっ!何故だ?)

突然の速さの上がり方に、黒髪は理解が出来ず逡巡した。その間に青髪は飛び上がり、桜吹雪を逆手で持ち、頭上から突き刺す様に黒髪に落下してきた。

「くっ!」

黒髪は、後方宙返りをしなんとか避ける事が出来た。桜吹雪が地面に突き刺さった刹那、其処を中心にいつの間にか置かれた六つのストーンによって、六亡星が描かれた。六亡星が光り出したその時、青髪はマリオネットで桜吹雪とストーンを、黒髪を中心に囲む様に移動させた。

「バカな!移動が早すぎる!」

黒髪が驚くのも無理は無く、マリオネットを熟練者が使った時の速さとは、比べ物にならない位の速さだったのである。

足元に移動してきた六亡星の光量が増し、黒髪は白い光りに飲み込まれた。

「はぁ、はぁ、はぁ。終わった…か?」

青髪は、力を使い果たした様にその場に座りこんだ。

それから暫しの静寂が辺りを包む。

青髪の呼吸も整い、ふと疑問が頭を過った。

(何の変化も無いって事は、倒せて無いのか?)

その時である、先程六亡星が有った場所の空間が歪み出した。

「ぐっ…おおぉぉぉ!」

と歪んだ空間から、両手の指で左右にこじ開けようとする黒髪が現れた。

「ば、馬鹿なっ!あの六亡星は、次元の狭間に追い遣る禁断の力だぞっ?」

「ぐあぁぁぁ!」

ばりばりという耳をつんざかんばかりの音と共に、次元の狭間から黒髪は現れた。しかし、次元を超える為に殆どの力を使った黒髪も瀕死だった。

「正かこんな力を秘めてるとは…。」

片膝立ての状態で、黒髪はそう言った。

「ならば、我も本気をだそう。」

そう言うと黒髪の体から、意味不明な言葉の羅列が、あたかも元から刻まれていたかの様に浮き出てきた。

「我の身体に、汝の力を貸し与え給え。」

そう言うと、天からとてつもなく大きく目映い白き龍が現れ、黒髪の身体に口を開けながら垂直に落下し、黒髪の身体を呑み込んだ。そして2分程経ち、龍の尾びれがやっとその穿たれた穴に消えた刹那、突如その穴から光りが発せられた。まるで、其処に太陽が出現したと思う程の光量だった。

そしてその光りの中から、異形の者の姿が現れた。それは、両方の下腕から死神の鎌の様な物が付いていて、頭には龍の角の様な物が生えていた。

「まさか、この姿に成らなければならないとはな。この力は分竜力によって、黒龍の力と我の力を融合させたものだ。我の力にあり余る力でな、そう長くは持たんのだよ。だが…」

そう言って黒髪元い、黒竜は青髪元い青竜の後ろに瞬時に移動した。

「貴様を倒すには、十分だ!」

そう言って、黒竜は青竜の背中に蹴りを入れた。

「がはっ!いつの間にっ!」

青竜は2メートル程飛ばされたが、空中で体を反転させ、黒竜の方に向き直り倒れる事無く踏ん張った。

「アレを使うか?いや、アレを使うにはまだ早い。」

「何を言っている?まだ何か有るのなら、勿体ぶらずに早く出したらどうだ?」

突如青竜の目の前に、黒竜が現れた。しかし先程とは違い、何もせず悠然と立っていた。

「桜の舞!」

青竜がそう言った途端に、先程の桜吹雪が再び舞った。しかし、今度は青竜を包み込んでいた。

「ほう。」

黒竜は距離を開け、腕組みをしながら面白い物を見るようにそう言った。

すると、桜吹雪が氾濫した様に黒竜に襲い掛かった。しかし、黒竜は微動だにせずそれを見ていた。桜吹雪に飲み込まれた黒竜は、黒髪の時よりは防御力が数段に上がってる為、効かないと思っていたのだろう。そして、桜吹雪は黒竜を飲み込んだ状態で、停滞した。

(何だ?我を閉じ込めて、時間稼ぎでもする気か?くっ!何だ?体に何かが入って来る。これは…桜か?くっ!まさかこの状態ですら食らうとは!しかもこれはさっきと違い内部破壊する技か。)

数分の内に、桜は半分位迄減ったが、内部からの圧力で全て吹き飛ばされた。

中から現れた黒竜の姿は、ぼろぼろだった。角は片方が折れ、もう片方にはひびが入り、下腕の鎌は刃が全体的に欠けていた。恐らく、圧力に耐えられ無かったのだろう。

それは偏に、桜吹雪の堅固さを物語っていた。其処までの圧力をしないと吹き飛ばす事が出来なかったからである。その上、内部に侵入する速度も速かった。その結果が黒竜の姿である。

「100%の力でやってやる!もう理性が飛んでもいい、貴様を殺せるならな!」

そう言うと、体にある意味不明な言葉の羅列が黒き龍の形に変わった。その龍は、黒竜の体に巻き付く形で現れた。すると黒竜の後ろに、黒いオーラの様な物が現れた。そのオーラが黒竜の体に入ったその時に、黒竜の体は瞬く間に全快した。そして、体には先程の龍が消え、空気から殺気を感じ取る事が出来る程に、力が爆発的に上がっていた。

「俺の名は黒龍、奴の願い通りこの体と引き換えに貴様を殺す。と言っても、奴はもう表に出てくる事は無いがな。」

「どう言う事だ?」

「契約だ。奴の力と俺の力を融合させ、力の強い方に精神ごとこの身体に吸収されてるって訳だ。」

そう言いながら、黒龍は青竜に歩きながら向かって来た。

そのあまりの威圧感に青竜は、思わず後退りした。

(くっ!姿以外さっきと殺気から全て違うじゃねぇか!)

青竜は、初めての恐怖をその身に感じて居た。その初めての恐怖にどうする事も出来ず、ただ下がる事しか出来無かった。

「どうした?逃げる事しか出来ないのか?これぐらいの距離位何時でも縮めれるんだぞ?」

この時黒龍と青竜の距離は約200メートル、これを一瞬で縮める事が出来ると言う自信を黒龍は、持っていた。

「くっ、どうすれば。」

そう言った刹那に、青竜の前に黒龍は現れた。

「どうもこうも、()り合うだけだろ?」

そう言って黒龍の周り、つまり青竜を巻き込んで黒龍を中心としたクレーターが出来た。

「がはっ!」

この攻撃で青竜は、精神的に追い詰められた。何故ならば、力を解放しただけでこれ程の圧力を持っているからである。力を持たず、記憶だけでこの力の持ち主を倒す事が出来るか?それが青竜に思考の混乱を招いて居た。

(何迷ってんだ?俺達の力を使えよ?)

心の中から青仔の声が聞こえた。

(お前等の力…)

「考える暇は無いぞ?ウ゛ァッサー!」

黒龍の突き出した手の平から、渦巻いた水流が出てきた。その攻撃に対して青竜は、背中の桜吹雪を水流に向かって縦に振り下ろした。すると水流は、まるで桜吹雪にモーゼの力が宿った様に、刃に当たって無いのにも関わらず真っ二つに割れ、青竜の後方にどんと言う音と共に弾けた。

「面白い。ならばこれはどうだ?」

黒龍は、右手を天に向かいウ゛ァッサーを放出した。そして、その次に青竜に向かい放出し、自身も青竜に向かって走り出した。

「俺には効かない。」

そう言い桜吹雪をバトンの様に回転させ、桜吹雪を再び舞わせた。そして、ウ゛ァッサーを使いウ゛ァッサーと桜吹雪のタペストリーを紡ぎ出し。その身に纏いつつ、前方から来る水流にぶつけた。

水流は、そのまま向きを変え黒龍に直撃した。

「なっ…」

黒龍はその攻撃に飲み込まれたが、青竜の上からは先程の黒龍が天に放ったウ゛ァッサーが降って来た。しかし、その水流を逆に操り黒龍の方へ放ち、青竜は構えを解き黒龍の方へ歩き出した。二つの攻撃が直撃した黒龍は、仰向けに倒れて居た。

(何て攻撃だ。まるで手も足も出ない。)

何とか生きては居たものの、黒龍は瀕死だった。それを見透かした様に青竜は黒龍の前に立ち、桜吹雪を喉元に宛がりながらこう言った。

「まだやるか?」

「はぁ、はぁ、はぁ。殺せ!情けは要らん。」

「そうか。」

そう言って青竜は、黒龍の首を跳ねた。

暫しの沈黙が続いた。青竜は、その場で倒れ込み息を整えて居た。

「はぁ…はぁ…はぁ…。やっと終わったな。さて、現実世界に戻るか。」

と青竜が立ち上がったその時である。後ろから、手を叩く音が聞こえた。

「ウ″ンダーバール!」

後ろを振り向くと、先程倒した筈の黒龍が、さっきまで無かった壁に座りながらそう言って居た。

驚いた青竜は、思わず先ほど倒した筈の黒龍を見たが、首と胴体が離されたままだった。

「貴様どうやって?確かに首を跳ねた感触は有ったのに。それに、その壁は何だ?」

青竜は、怒気を含ませた声でそう言った。

「はぁ、質問は一回ずつにしろよ、覚えれねぇだろ?」

含み笑いを浮かばせながら、黒龍はそう答えた。

「さて、質問の答えだが、先ずお前が殺したのは俺が作った人形だ。後は、この壁だったな?この壁は俺が今作った。俺の精神世界だからな。」

「馬鹿な!(いや、しかしそう考え無ければこいつの正体の説明が出来ないな。)まぁ良い、とりあえずお前が本物ならば、お前を殺すだけだ。」

「まぁ、待て。俺がさっき言った言葉の意味が分からないのか?」

「さっき?ウ″ンダーバールの事か?素晴らしいって意味だろ?それがどうしたと言うんだ!」

青竜には、理解出来無かった。何故なら、今不利な状態に有るのは青竜で、黒龍は自分の体を使わず、言わば分身だけで青竜の力の大半を削ったからである。なのに黒龍は、不利な状態の者が自分のペースに戻す様に、会話で場を落ち着けようとしているのだ。

「あの人形は、俺の力の半分以上を注ぎ込んだ力作だ。あれだけの力を持ってるんだ、恐らく俺がやっても負けてただろうな。」

黒龍は、何故か嬉しそうに言った。

「ただ、一つ分からない事がある。後半で見せたあの力は何だ?何故あれを最初から使わない?」

「あの力?あぁ、桜吹雪とウ゛ァッサーの融合技か。あれは、俺だけの力じゃない。青仔とコーネルの力だ。途中から助けて貰ったんでな、最初からは使え無かったさ。」

青竜は、自分一人の力で戦って無かった事を理解していた。

「ふっ、なるほどな。それでお前の力は不安定だったのか。つまり3人で戦ってたんだな。それじゃあ、勝てる訳無いな。」

黒龍は笑いながらそう言った。

「では、敗者は勝者の言う事を聞こうか。何が望みだ?」

「お前の力を全て俺に渡せ。」

「やれやれ、それでは俺の存在が消えるでは無いか。まぁ良いどっち道、敗者に選択権は無いからな。」

とため息混じりに黒龍は言った。

「お前の存在は消えるのだろうが、黒髪の青竜と黒龍お前の力は俺の一部になって、生き続けるから安心しろ。」

と微笑みながら青竜はそう言った。

「お前は右弦の主だな?俺の力を手に入れて一部にするなど、ただの人間の力では無理だからな。それに、それほどの力を持つ者はこの地には居ない筈だからな。」

「あぁ、俺は右弦の主として、そして[あの方]の(しもべ)として黒髪の青竜とお前の力が必要なんだ。じゃないと、大陸間移動装置を発動出来無いんでな。」

「ならば、何故光輝とやらはこの地にやって来れたのだ?」

「それは奴が下弦の主だからだ。さぁ、もう良いだろう?早く力を寄越せ。」

青竜は、少し苛立ちながらそう言った。

「あぁ。何をする気かは知らんがお前なら、間違えた力の使い方はしないだろう。お前が俺の半身で良かった。」

「おっ、気付いたみたいだぞ。」

青竜が目覚めたその視線の先には、光輝と凛が居た。

「俺は精神世界から戻って来れたのか?」

まだ意識が混濁してるのか、光輝達を見てもいまいち現実世界か精神世界かが分からないようだった。

「戻って来れたから、私達が居るんじゃない。」

微笑みを浮かべながら凛がそう言った。

「それもそうだな。」

と青竜は起き上がった。

「ん?」

「どうした?」

「いや、いまいち力が戻ってるのか実感が湧かなくてな。体に変化が有る訳でもなさそうだし。」

「大丈夫だって。とりあえず、力が戻ってるかどうかは、移動装置を発動させれば分かるさ。」

そう言って光輝は青竜の肩を軽く叩いた。

「あぁ、そうだな。」

そして今度は三人で移動装置に乗った。

「この地に残る英霊の力よ、我を彼の地に導け」

光輝がそう言った刹那、祭壇の様な足場が光を放ち出した。

「こ、これは?」

「これが大陸間移動装置の発動時さ。つまり、発動出来るって事は青竜、お前の力が戻ってるって事でもある訳さ。」

青竜の目を見据えながら、光輝は言った。

「ねぇ、次は何処に行くの?」

「次は左弦だよ。その次に上弦。そして、最後に望月さ。」

凛の問いに笑顔で答える光輝であった。そして三人の体は光に包まれ、木々達が風に揺られながら、三人を見送る様に優しい調べを奏でていた。

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