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  作者: 長月
運命
2/5

下弦

一ヶ月後。そこは、謎の声が統治したハーゲン国だった。彼は、光輝の体を使い城を攻め落とし、国主になったのだ。彼は玉座に座っていた。足組みをし、頬杖をついたその姿はまるで覇王の雰囲気を醸し出していた。その時、横に居る男が

災仔(さいこ)様。只今全ての地域の治水・開墾・収税完了致しました。」

と男は 、片膝立てをしながら玉座に座る男に言った。この男は全国主で、災仔の温情で今は災仔の側近をやっているのだ。

「うむ、ならば予定通り一週間後に武道会を開くとしよう」

と災仔と呼ばれる男は、何かを企んでる様な顔で言った。

その日の晩。

(良い人材が見つかればいいが…)

災仔は、寝室で下弦の月を見ながら心の中で呟いた。因みにこの国の由来でもある下弦は、常に下弦の月が上るからである。それは他の国の由来でもあるのだ。人口激減と共に起こった異変の一つでもある。

(おいっ、災仔っ!いい加減に俺の失われた記憶を調べろよ。)

心の中で災仔以外の別の声がする。

(それはまだ出来んのだ。我の目的の為にもう少し待つのだ光輝よ。)

そう。もう一つの声は、光輝だった。

(待つのだ、だって?その体は俺のだぞ?)

光輝は、少しイラつきながら言った。

(我は汝と一緒なのだ…)

(そのセリフはもう聞き飽きたよ。)

光輝は、まだ口上途中の災仔の言葉を遮り、続き様に(大体お前は秘密にする事以外には、力を与えてくれてるけど、困れば何時も俺と一心同体とか言って逃げるじゃないか!)と、怒りと呆れた感情が混ざった様な言い方をした。

(すまない。力の戻って無い汝に教えるにはまだ早いのだ。)

災仔は、頭を下げて謝った。

(力?力ならもう完全に戻ってるぞ?今現在もまだまだ漲ってくるしな)

何の問題も無いといった感じで光輝は、災仔にそう言ったが、そんな光輝に災仔は

(違う、汝の力はそんなちっぽけな物ではない。我がしてるのは、汝の元から持ってる力を少しずつ返してるだけなのだ。一気に返せば汝の肉体と精神が持たないのでな)

災仔は、憂いを帯びた顔でそう言った。

(なら何時かは全てを話せよな?)

光輝は憎たらしく言ったが、実は光輝には分かっていた。憂いを帯びた災仔の言葉に一辺の偽りはなく、真摯な気持ちで言った事が。そして光輝は、再び意識の底に戻って行った。

(すまない…)

今の災仔にはそれしか言えなかった。

次の日、目が覚めると光輝の体にちょっとした異変が起きていた。

「失礼します。災仔様、本日の日程ですが…さっ、災仔様っっ!」

城の者が呼びに来た時に、寝ている災仔を見てつい、声を荒げてしまった。それは、髪や目の色等が変わっていたのだ。耳迄だった鮮やかな漆黒の髪は、肩迄伸び、目映いばかりの銀色に。茶色掛かった黒目は金色に変わっていた。

「災仔様!大丈夫ですか?何か御体の具合でも?」

何時もなら起きてる筈の災仔が、寝てるだけでも吃驚した位なのにその上、昨日と比べ身体的に変わっていれば誰しも吃驚するだろう。

「何だ?突然どうした何かあったのか?」

災仔は、自分に吃驚してるとは露とも知らずそう聞きながら、ベッドから下りた。そしてベッドから下りた災仔を見て、城の者は再び驚愕した。

「さ、災仔様!その御体は!?」

そう、災仔の体は昨日夢の中で光輝と会っていた時と同じ体になっていた。最も光輝には、まだ力が戻って無いのもあって漠然とでしか災仔は、見えて無かったから、今の自分の体を見ればさぞかし驚くだろう。

「ん?」と災仔は、自分の体を見た。その体は、黒い幾何学的な文字が施された体だった。

(何故?我の本来の体と同じ模様が?光輝が我に体を一時的とはいえ委ねたのか?)

「案ずるな、瞑想しながら力を蓄えた結果がこの体なだけだ。」

とりあえず安心させねばと思い、災仔はそう言った。

「そうですか。では、早速ですが本日の日程ですが宜しいですか?」

少しの戸惑いはあったが、城の者はそう言った。

「うむ。」

災仔は、着替えながらそう答えた。

そして、武道会当日。

「この大会で優勝すると、王の側近になれるらしいぞ」「本当か?俺は莫大な賞金が出るって聞いたぞ?」「この大会を制するのは、俺だー」

そう、この大会は優勝者には何が送られるかを知らせずに開かれたのであった。それでも、参加者は『下弦』の全人口の3分の1の5000人が集まっていた。

それは偏に災仔の話題性である。何故なら未だ嘗てハーゲン国を、僅か3週間で制圧した者は居ないからである。ハーゲン国は、3メートルは有ろうかという城壁に囲まれていて、能力によって作られた外堀は一度落ちれば、先ず抜け出せ無い底無しになっているのだ。そして極めつけは、守護兵団と呼ばれる者達によるアースと呼ばれる地形変化能力とミラージュと呼ばれる幻影能力のコンボで幾多の、争いを凌いできた。正に難攻不落の城なのだ。それを災仔は、僅か3週間でしかも死者は出さずに制圧するという偉業を為し遂げた時の人なのだ。

災仔は、参加者の前に現れた。突如歓声が「災仔様ー。」「災仔様!この大会に優勝すると、何が貰えるんですかー!?」「災仔様!カッコイイー」会場のボルテージは、最高潮に達した。

災仔は、両手を翳ざした。それと同時に会場は、不思議と静まり返った。

「先ずは、参加して戴き有り難う。そして、皆が疑問に思ってるであろう優勝賞品だが、我の付き人になって貰う事だ。そして勝ち残った一名には後日、我の作ったDドールと戦って貰う。Dに勝った者を真の優勝者とする。以上が本大会の優勝条件だ。」

そう言いながら災仔は、参加者全員にフィアーと言う恐怖心を煽る能力を掛けていた。

災仔はフィアーを強めに掛けながら、続けて言った。これをする事により、より強気な者が残る為だ。

「続いて大会ルールだが、必ず優勝する迄に能力を一度は使う事。万が一、相手を殺しても生き残った方が勝者とする。基本的に反則は無い。」そう言い終わる頃には、参加者はたったの10名しか戦意の残っている者は居なかった。そんな中、たった一人災仔に殺気を発する者が居た。その者はフードを深々と被っている為、どんな表情なのか、そして性別すらも分から無かった。

災仔はその者に一瞥しただけで、特に気にした様子も見せずに一言、言った。「では、大会開始だ。皆の幸運を祈る。」そう言って災仔は、この日の為に作らせた椅子に座った。

そして、3時間が経過しやっとの事で残り4人にまで絞られた。そして、やはりと言うべきか、あのフード姿の者も居た。

「では、これより準決勝を始める。」災仔の隣に居た前国主は、そう声を高々と上げて言った。

「では、準決勝第一試合始め!」合図と共に両者の戦いが始まったが、災仔は何よりもフード姿の者が気になり目は試合を見ていたが、精神はフード姿の者を見ていた。言うならば、気配を感じ取っていた。

「勝負有り!!」第一試合が終わり災仔が、ずっと感じていた気配の方を見ると、何故か誰も居ない。(どういう事だ?誰も居ないのに、未だに気配を感じるぞ?これはもしや…)災仔が物思いに耽って居ると「準決勝第二試合始め!」と声が聞こえて、試合の方を見ると、何と始まって間も無いのに試合は終わっていた。勝者はあのフード姿の者だった。

災仔は、試合を見る価値は無いと思い、自分の部屋でDの生成に取り組んでいた。(後2、3回は武道会を開かねば適切な人材は、集まる筈が無いと思っていたが、まさか一回目であれ程の人材が見付かるとは…)

災仔は、当初予定していたDよりも遥かに実戦的なものに改良していた。

そして5分程経ったであろうか、遂にDが完成した。

Dは、災仔が持ってる能力の一部と戦闘能力を与えられ、姿形は180センチ程のスライムの様なモノであった。そして体は自在に変えれる特殊能力と硬度は金剛石に匹敵する程の硬度を持っていた。

「さぁ、行くぞ。試合も終わっているだろう。彼の者が遊んでいなければな。」そう言って災仔は、Dを引き連れて会場に戻った。

会場に戻った災仔は、試合を見て愕然とした。

まだ試合をやってるだけでは無く、フード姿の者が相手を触れる事無く甚振っているのだ。(馬鹿な!相手は少なくとも我が今まで見てきた中でも、五本の指に入る程の強者ぞ?)そして、災仔が会場に戻って来たのを確認したフード姿の者は、一瞬にして試合を終わらせた。

「そ、それまで!」そして、一応の決勝戦は終了した。

「このまま、試合を始めるか?それとも、休息が要るか?」と災仔は聞いたが、フード姿の者はただ一言「要らん!早く始めろ!」と言い放った。その声は高く澄んでいた。

「フン!では、行けっ我が僕よ!その者をズタズタにしてやれっ!」その言葉を聞いたDは、人間の男の姿形に成りフード姿の者に襲いかかった。

今、事実上の決勝戦が始まった。

襲いかかるDに対し、フード姿の者は微動だにしない。Dの攻撃が当たる刹那、Dの体は粉々に砕けた…かに見えたが、Dは災仔に与えられた能力の一つのミラージュを使っていた。Dの本体は既にフード姿の者の直ぐ隣で攻撃の体勢に入っていた。

「何っ!」フード姿の者は、辛うじて攻撃を避けたが、フードは破かれてしまった。そして、フードの下から現れた顔を見て思わず災仔は驚きの表情を浮かべた。

「チッ、とうとうバレたか。」

何と、フード姿の者の正体は諭しの泉で死んだ筈の凛だった。

「何故だ?」

流石の災仔も理解出来無かったようだ。

「とりあえず、話しはこのDとか言う奴との試合が終わってからよ。」

そう言って凛は攻撃を避けながら言った。その間Dの攻撃が鋭くなっていく。

「はぁ、これは本気を出さないと、勝てないみたいね。」

と溜め息混じりに凛は言った。しかし、Dは既に攻撃の体勢に入り能力を開放していた。それはまるで、全てを飲み込む津波の様な能力だった。

津波が襲いかかるその刹那、凛の体は消えていった。

攻撃対象の消えたDは、ただ立ち尽くしていた。「カーテン位で我が能力を与えたDを倒せると思うなよ」と災仔は、嘲笑を浮かべながら言った。

突如凛は現れ、Dの背後から攻撃を仕掛けた「終わりよ!」凛は確信を得た様に言った。しかし、Dは振り向き凛の体にサンダーと言う雷の能力を放出した。

思わぬ反撃を食らった凛は、そのまま後方へ吹き飛ばされてしまった。しかし、それと同時にDの体も砕けちっていた。

「フン!相討ちか…まぁ、良くやった方だが勝者が居ないのでは、またこの大会を催さなければな」と災仔が、落胆の表情を浮かべながら言っていたその時である。たった今、Dと相討ちになった筈の凛が砕けちったDの横に現れたのである。

「何!?」「言ったでしょ?本気を出すって。」

これぐらいは、朝飯前だと言わんがばかりの顔で凛は災仔にそう言った。

「どういう事だ?あの瞬間確かに貴様はサンダーを食らって吹き飛ばされた筈だ!何故そこにいる?」

災仔は、自分の予想を遥かに凌駕する凛の戦いに只只驚いていた。

「答えは簡単よインビジブルの能力を使っただけよ。そして、Dが攻撃をした瞬間に私が攻撃をして破壊したのよ。というよりこれぐらいも分からなくて、良くこの城を落とせたわね?」

と少し呆れた感じで、凛は災仔に言った。

「フン!少し過小評価していた様だな。では、汝に我の付き人になってもらうが勿論異論は無いな?」

災仔は、凛を迎える気で居たが、凛は

「あるわ!先ずは光輝に会わせて!それとも、彼はもう…」

凛の目には溢れ落ちそうな位に涙が溜まっていた。

「…先ずは我が付き人になれ、話しはそれからだ。」

「…分かったわ」

凛は渋々了承した。

その日の晩、凛は災仔に部屋に来る様に命じられ、部屋に向かっていた。災仔の部屋は城の中心に位置していた。

(何で城の真ん中に?普通は一番奥でしょ?)

心の中で疑問に思いながら、凛は部屋の前に着いた。すると、何処からともなく災仔の声が聞こえる。

(来たか…では、我の前まで召喚してやろう。)

声が聞こえなくなったのと同時に、凛の足元に突如ブラックホールの様なものが広がり始めた

「何この能力?聞いたことも見たことも無いわ。」

そして、凛を中心に球体を形作り凛を包み込んだ。

「えっ!?何?ちょっ、動けない、まっ…」

凛は飲み込まれ、そこには誰も居なく静寂だけが佇んでいた。

ブラックホールに飲まれた凛は暗闇の中に居た。

「此処は…?」

と辺りを見回すが何も見えず、とりあえず凛は何も見えない中歩く事にした。5分程経ったであろうか、やっと暗闇に目が慣れてきた凛を突如何者かが襲ってきた。

「くっ」

辛うじて攻撃を躱したが、相手は速く動いているのか、凛には場所が特定出来なかった。そこで凛はミラージュを使い分身を作った後にインビジブルで相手を補足しようと思ったが、何故か能力が発動しなかった。

「一体何なのこの空間は?能力を封じられるなんて…。」

落胆してる間もなく見えざる敵は再び凛に襲いかかってきた。流石に今度は軌道が読めたのか、凛は右から来る敵の攻撃を右手で払い、その勢いのまま肘左を相手の脇腹に当て、そして左手を相手の脇の下から通し奥襟を掴み、右手は相手の顎を押し上げる様にし体勢を崩した刹那に、左足で相手の両足を引っ掛け倒した。が、敵はすぐさま後転する反動で立ち上がり、体勢を整えた。

「やるな。」

と見えざる敵は思わず口走った。それと同時に辺りが明るくなった。

「災仔っ!!」

凛は敵の姿を見て思わず声が出ていた。そう。敵の正体は災仔だったのだ。

「中々やるな、正か二撃目で軌道を読むとは侮っていた。」

災仔は、凛に当てられた脇腹を擦りながら言った。

「ったく、何の真似?それにその格好は何?此処は何処なの?」

凛は災仔に呆れながら言った。

「我の…否、光輝の付き人になる資格が本当に有るかを試しただけだ。それにこの姿は、我の真の姿だ。そして、此処は我らの精神世界だ。」

災仔は、本当は自分の付き人探しの為の大会では無いと言うこと、それから精神世界では、自分は本当の姿になる事を告げた。

災仔の姿は、褐色の肌に腰まで有ろうかという程の長い銀髪、そして目は燦然と輝く真紅であった。しかし、体には刺青の様な物は無くただ、細身だが筋肉質な体であった。

「それが、災仔の本当の姿…じゃあ、あの体の刺青みたいなのは何!?」

凛が問い詰めると災仔は、

「それは、後で本人に聞いてみるが良い。今頃自分の場所に戻って居るだろうからな。」

「本人ってもしかして…光輝?」

「それより、汝は何故あの大会に出てきた?」

災仔はその問いには答えず自らの疑問を問いた。

「そんなの決まってる!私は光輝に会いたいの!どうして私が生きてるのか分からないけど、今は何より光輝に会いたい。私がこの国に行くように行ったんだから居るはず。だから、私が目立てばきっと会えると思ったの。」

「なるほど。」

災仔は一言そう言い、凛に向かって両手を向け何やらぶつぶつと言葉を紡ぎ出した。

「一体何を…」

そう不安がる凛に向かい災仔は微笑を浮かべ

「会って来い」

そう言ったその瞬間凛は消えた。

「あの時の選択がこうなるとはな。愛とは不可解なものよ…」

災仔はそう言い消えて行った。


そこは、太陽が燦々と降り注ぐ目映いばかりの空間だった。

「っ、眩しい」

と凛は軽く目眩を起こし掛けた。

「あはは、無理も無い。あんな光の差さない様な所から、やって来たんだ。」

と後ろから声が聞こえたので振り返ると、其処にはあの光輝が居た。

「光輝っっ!」

と凛は光輝に駆け寄って抱き付いた。

「うわっ!」

光輝は、突然の事で後ろに倒れ掛けて一歩後退りしたが、何とか倒れずにすんだ。

「光輝会いたかった。ずっと…ずっと探してたんだから。」

凛は泣きながら光輝にそう言った。光輝は、そんな凛を優しく抱きしめ、頭を撫でながら

「うん、ゴメン。」

ただ一言そう言った。

それから、どれぐらいたったであろうか。光輝の胸は、凛の涙で濡れ通っていた。

「ゴメンね?光輝に久々に会ったのに泣いたりして。」

と凛は涙を拭きながら言った。

「気にするな。心配してくれて嬉しいよ。」

うん。と、返事を返しながら涙を拭き終えて、光輝を見た凛は驚きながら言った。

「こ、光輝その体どうしたの?」

光輝は、しみじみとしながら

「どうもこれが俺の本当の姿らしいな…」

と言った。光輝の姿は、身体中に鎖の様な模様の呪印が施されていて、背中には羽根の無い鳥の体が、延髄から尾骨まで描かれていた。まるでその鳥を閉じ込める為の呪印の様に凛は感じた。

その時光輝の体が仄かに光を放ち出した。

「これは…?」

光輝は、自分の体に何が起きたか分からずただ、自分の両手を見ていた。

「これは、まるで初めて光輝を見つけた時の様だわ。」

その時、突然光量が増し光輝は太陽の如く光を放ち出した。そして、それと同時に二人の脳裏に、ある記憶が浮かび上がった。

そこは、いつか見た研究所だった。そして見たことのある白衣の男。

「…よ、お前の力は強大過ぎる。人間の身である私には到底操る事は出来ないだろう。」

と白衣を着た男は、ホルマリン漬けにされた様な男に話し掛けていた。男は手足が無い状態で、しかし生きていた。

「そこで、私は考えた。どうしたらお前を意のままに操れるかをな。それがこの方法だ。」

と白衣の男は、勝ち誇った顔で回りにある男の手足がそれぞれ入ってる4つのカプセルを、男に見せた。

記憶は露と消え、次の記憶に切り替わった。ここは、ハーゲン国謁見の間。そこには、前国主と凛が居た。

「凛よ、我が国の諜報・調略兼隊長を務める者よ、我が国の命運を握る者が[サハラ]に現れると、王国魔導士が突き止めた。そこで、汝にその者を我が国の力になる様に仕向けて欲しいのだが、やってくれるな?」

と前国主は言った。

「この調略率100%の凛にお任せ下さい。」

と片膝立てをしながらそう言い、凛はその場から消えて行った。

そして、光輝達はハーゲン国の国主専用の寝室で目を覚ました。

「そっか、凛は俺を調略するつもりで介抱してくれたんだね?でもどんな理由が有れど、助けてくれてありがとね。」

と光輝は、屈託の無い笑顔で凛にそう言った。だが、凛にはその笑顔が辛かった。

「ごめんなさい。確かに最初は貴方を調略しようと思ったけど、貴方を介抱してる時から何故かその気持ちは薄れていって、いつまにか貴方を一人の男性として見てる自分が居たの。これじゃあ、プロ失格だね…。でも、これだけは信じて?貴方を好きな気持ちに偽りは無いって事を。」

と凛はありのままの自分を光輝にぶつけた。

「ありがとう凛。でも、今の俺には凛の気持ちに答えられ無い。ごめん。」

と光輝は、頭を下げた。

「ううん。良いの、私は光輝が喜ぶ顔が見れたらそれだけで良いから。だから頭を上げて。ね?」

と凛は笑顔でそう言った。

凛は気になってた、疑問を光輝に聞いてみた。

「そう言えば、光輝の体のその刺青みたいなのは何?災仔が光輝に聞けって。」

「これは、災仔の力が反映されてる証拠だよ。」

「でも、災仔の体には無かったよ?」

凛はあの精神世界での出来事を話した。

「なるほどね。災仔は、今も色々と力を使って弱ってるからな。俺に力を渡したりをずっとしてるから…だから、凛が見た災仔は弱ってる災仔なんだよ。」

どこか憂いを帯びた表情でそう光輝は言った。

「そうなんだ、じゃあ今の災仔にはこの城を制圧した力は無いのね?」

「そうかもね。」

後は他愛の無い話をして、お互いの部屋に戻り就寝した。

そして、数日経ったある日の夢に災仔が現れた。

「久しぶりに会う感じだな。其処まで精神的にも肉体的にも強くなれば、もう良い頃だろう。汝の力を返す時がきたようだ。さぁ、今こそ一つに成るとき。」

と災仔は、両手を左右に広げ最後にこう告げた。

「我の記憶も捧げる、そうすれば汝の失われし記憶も完全に蘇るだろう。何としても完全復活して奴の野望を打ち砕いて見せようぞ。それと、凜は任しておけ、“次“は我の番だからな。まさか汝があの様な方法を使えるとは思ってもいなかっぞ。道理で最近力の減り具合が早いと思ってた。」

と災仔は感心する様に言った。

「では、また少し汝の力を少し借りるぞ。さらばだ光輝よ、我等が神に選ばれし者よ。短い間だったが楽しませて貰ったぞ。ひょっとしたら今度は違う形で会えるかも知れんな。」

と言い残し災仔は、陽炎の様に揺らめきながら消えた。

目が覚めるともう朝だった。光輝の体にある筈のあの、鎖の様な模様の呪印は消えていて。鳥の体は朱く色付けされていた。髪はあか色で、目は災仔の様に輝く事は無いが、その分力強さが凝縮された様な朱だった。そして、全てを思い出した光輝は謁見の間に行った。謁見の間に城の主要な人物ばかりを集め、光輝は言った。

「今から私は、この城を少しの間不在にする。そこで私の分身を作るので、それを私の代わりにして欲しい。」

その言葉に城の者達は驚きを隠せずに居た。しかし、光輝の体の変わり様に誰一人疑問に思う者は居なかった。恐らく、災仔の瞑想しての変化と同じだと思ったのだろう。

「私は、私のやるべき使命を思い出したのだ。どうか理解して欲しい。」

と光輝は、王の身でありながら頭を下げた。

「お、王!頭を上げて下さい。」

と臣下達は慌てて言った。

「理解してくれるなら、頭を上げよう。」

これでは、了承するしか道は無く、臣下達は「分かりました。ですから王、頭を上げて下さい。」と、まるで子供の我が侭に押しきられた親の様な光景に、凛は光輝の隣で一人クスクスと笑って居た。

では、と光輝は、右手を前に出し掌を下に向けたままで、何やらぶつぶつ言い出した。すると、其処から光輝に瓜二つの分身が現れた。


「では、コイツを王にして待っててくれ。力はそんなに強くは無いが、王としての働きはそう変わらないだろう。」

そう言い、光輝と凛は臣下達の横を通り過ぎ、共にドアの前で止まり。

「今まで色々と苦労を掛けたが、私は色々と充実させて貰った。ありがとう。」

と頭を下げた。

「王、そんな最後の挨拶みたいにしないで下さい。貴方が新しい王になってからは、今まで自分の保身の為に動いてた事に気付かされました。また、保身の為に動くかも知れません。ですから、またこの城を統治しに帰って来て下さい。」

と側近の一人が言った。その言葉に光輝は微笑みながらこう言った。

「分かった。必ずまたお前達の所に戻って来る。それまでに、この城を色々と改善しといてくれ。…では、行って来る。」

と光輝は、ドアを開けたその時後ろから声が聞こえた。

「王!今までありがとうございました!また会える日を楽しみにしながら、我々は待って居ます!」

と前国主はそう言い、頭を下げた。そしてそれにならう様に全ての臣下達も頭を下げた。中には涙を浮かべる者も居た。それほどに、災仔の統治は心地良かったのだろう。光輝達はその言葉を背に城を出て行った。


「これから、何処行くの?」

と凛は聞いた。

「北だ、[望月]に向かう。」

「望月?」

と凛はオウム返しに聞いた。何故ならこの世界にそんな場所がある事を、聞いた事が無かったからだ。

「[望月]は、四つの大陸の真ん中に位置する大陸だ。まぁ、行けば分かるさ。その道のりは遠いけどな。」

そう言って、光輝と凛は北に向かい歩いて行った。

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