第97話 - 魔力磁場 -
話が伸びてしまってますがそろそろ進みたい所です。
「しいて言うならば、サーベストとアルスロー、そしてエリースのちょうど中間にある、"霞の森"で足止めを食らっていたか…じゃな。」
「霞の森?」
初めて聞く森の名前。この世界に来て知識を得ようとそれなりに本を読んできたが、そのような森の名前は初めてだった。
ベルゼが本で得た知識は、基本的なこの世界の情報と、魔力を伴った魔法についてが主だったからだ。
「なんじゃお主、エリースから来たと言うのに知らぬのか?」
「あ、いえ…俺はエリースの出身ではなくて、旅の途中でたまたまエリースに寄ってからまっすぐアルスローに来たので…」
「ふむ…なるほどのう。昔から霞の森は魔力磁場が乱れておるのじゃ。何故なのかは未だに究明されてはおらんがの。」
「魔力磁場…?」
また聞き慣れない言葉が出てきた為、話を折ってしまってすまん…と内心思ったベルゼだったが、アルノルトは意に介さず説明を続ける。
「魔力の源となる魔素が極端に枯渇しておったり、潤沢しておる所があちらこちらにある所じゃな。そのせいで魔力磁場が不安定になっておるのじゃが、魔力磁場が乱れておる所に魔力の多い者が近づくと、狂ってしまうと言われておるのじゃ。」
アルノルトの話によれば、魔力の保有量が多い者ほど精神に影響が出やすいとの事だ。
「へえ、そんな事あるんですね」
「うむ。特に魔族は魔力の保有量が多い者が多いと言われておる。ゆえに、魔族がサーベストからアルスローへ来るためにはかなり遠回りをするしか無いのじゃよ。天然の魔族避けと言ったところかのう。はっはっは!」
ベルゼは素通りしたとはいえ、まさかアルスロー近郊にそのような場所があるとは知らなかった。
「へぇ…そんなところがアルスローの近くに…。え、狂うってどう言う事なんですか?」
「ワシも詳しくは文献や学者に聞いただけじゃが、魔力が多い者ならば、小一時間もあの森に入っておったら精神がやられて廃人になるそうじゃ。文字通りにのう。」
「げ…」
アルスロー、サーベスト、エリースの中間地点にあるその森。
この世界に来て間もない頃の自分が、エリースからアルスローに向かった際、万が一道に迷ってその森に入ってしまっていたら……。
エリースを出発する時、門兵のゾルデに道をきちんと聞いておいて助かった。と内心でヒヤヒヤしたベルゼ。
「まあ、普通の冒険者程度の魔力なら気怠かったり、急に元気になる程度で問題はないそうじゃがのう。」
「普通の冒険者程度の魔力…。普通ってどのくらいの人の事なんですかー?」
「それについてはワシも分からぬ。何せ見聞きしただけじゃからのう。ビエラなら知ってると思うぞい。」
「ビエラ…って…ああ。ギルド長…ですか!」
ベルゼの頭には筋肉隆々の女首領…ではなく筋肉隆々の女ギルド長が浮かんで来た。
以前アルスローを経つ時には、ビエラは王都ルートニオンに出張をしており、別れの挨拶も出来ず終いだったのだ。
なんだか懐かしい。受付嬢のヘレンや、宿屋の"夕暮れの鐘"のご飯も美味しかった記憶があるな。
アルスローを発ってから色々な経験をしてきたけど、実際そこまで経ってないんだよな…?
この世界に来て、初めての街はエリースだったけど、あそこはあんまり良い思い出がない分、やっぱりアルスローには愛着があるよなあ。
懐かしさをしみじみと噛み締め、ベルゼはふと思い付いた事をパーティーメンバーに提案してみる。
「ねえ…今日はさ、アルスローに滞在して行かない?」
「え?…わたしは良いけど…何かあるの?」
「いや、ふと思ったんだけど、俺この街がわりと好きなんだよね。久しぶりに来たし、ビエラさんにも話を聞きたいし、しばらく会ってなかった人達にも挨拶したいなって。」
「んっ、いいね!」
「私この街初めてだから案内して」
「おっけー!」
「ほっほっ!冒険者は自由で良いのう。それではまた顔を見せに来るんじゃぞ!」
「「「はーい!」」」
♢アルスロー ギルド
「ようこそアルスローのギ……えっ!!?」
事務仕事の書類に目を通しながら、受付に来る冒険者の対応をしていたヘレン。
先ほど対応を終えた冒険者は、他の冒険者とのいざこざの仲裁を求めるものだった。正直くだらない。
その前の冒険者は任務完了報告ついでにご飯でも…と誘われたのだが、この冒険者からの誘いは既に三度目。もはや、ついでがどちらなのか分からない。
現在育休で休んでる事務員の仕事を受け持ちつつ、受付嬢としての通常業務もこなす。
が、受付に来る冒険者の面白く無さと、慣れない事務作業につい冒険者への対応が疎かになってしまっていた時だった。
次の冒険者の番になり、一応受付嬢としての応対を。と、お決まりの文言の途中、ふと冒険者に目をやると、そこにはしばらく前にアルスローを出て行った、見た目は自分よりも若い女の子、出自は謎だが、実力はかなりの持ち主である冒険者がそこに立っていた。
「久しぶり、ヘレンさん。」
「うそ…!ベルゼさん!!!?」
まさかこの街を二度も救った冒険者が戻ってくるとは信じられない。そんな顔でベルゼを見るヘレン。
だが、この男は飄々と話を続ける。
「あ、ベルゼですよ…!元気でしたか?」
「元気ですっ!それにリエルさんも!!」
「こんにちはっ!」
リエルも笑顔で応える。
ベルゼ達はアルノルトの屋敷を後にして、この街が初めてというティアの為に、街を案内をしながら最終的にギルドへと赴いたのだ。
以前世話になっていた宿、"夕暮れの鐘"にも寄り、受付の女の子、ミーシャもベルゼとリエルがまた来てくれた事に非常に喜んでいた。が、ティアだけは多少固い表情だった。というのもミーシャは猫の獣人だからだ。
迫害されてきた身としてはかなり思う事があるだろう。
それに気がついたリエルは、ベルゼがチェックインの受付をしてる際、ティアの頭を優しく撫でていた。さすがお姉さん。
とりわけそれ以上の出来事はなく、唐突なベルゼの思いつきも、野宿で終わる事は無くなり、安心してギルドへと向かったのだった。
「今日はビエラさんに用があって来たんですけど、いますか?」
「も、もちろんです!少々お待ち下さい!」
慌てて受付から走り去っていったヘレンを見送り、依頼書が貼られているボードを眺めること数分。ヘレンは先ほどと同様、走って戻ってきた。
「はあ…はあ…お待たせしました!ギルド長がお会いになるようです!こちらに!」
「そんなに急ぎじゃないから慌てなくても良かったのに…」
そう呟きつつ、ヘレンの後に続きギルド長の執務室へと向かった。
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