第93話 - 壊滅 -
いつもより少し長くなってしまいました。
「だから!普通の魔物は人間を殺すんだぞ?そんな事ある訳ないだろ!」
「でも実際あの魔物はベルゼさんを攻撃してなかったじゃん!」
「そうだけどさぁ…バナードはどう思う?」
「正直、あの魔物の行動理念が分からない。何か理由があって攻撃しなかったのかもしれないし、たまたまかもそれないしな…」
階下から言い争い…というか議論する声が聞こえる。大方の予想はつくけど。というわけで降りていくか。
「あ!ベルゼさん!!」
「大丈夫なんですか!?」
「大丈夫…ここまで運んでくれてありがとう。」
「気にしないでください!それにしてもびっくりしましたよー!約束の時間になっても来なかったんで、ギルドに聞いて駆けつけてみたら、ベルゼさんは倒れてるし強そうな魔物はいるしで!」
「あぁ…ヒポグリフの討伐依頼だったんだけど、グリフォンがいきなり現れてね。倒したものの魔力が無くなっちゃったみたいで。」
「でも無事でよかったです!それにしてもあの魔物はなんだったんだろうね?」
「シャドウなんちゃら…だったよな?」
「シャドウクリーパー!私達がベルゼさんの名前を呼んでたらいきなり消えて、それから現れないけど…」
ハイク達いわく、晩ご飯の約束していた夕刻にベルゼが現れなかった為、ギルドに問い合わせたところ、討伐依頼で岩地に行ったきり帰ってきていない。との事だったそうだ。
とりあえず万が一の事があっても。と、岩地に確認へと来た3人が見たものは、倒れていたベルゼと寄り添うシャドウクリーパーだったそうだ。
リーナ達は意識を失っているベルゼを気がつかせようと、名前をしきりに呼ぶとシャドウクリーパーは影へと消えたそうだ。
警戒しつつも、気を失ったベルゼをこの宿へと担ぎ戻り、今に至る。…そうだ。それからベルゼは2日半ほど寝たっきりだったそうだ。
「…改めて今回はありがとう。できればで良いんだけど、この件はリエルと、もう一人…ティアには内緒にしてもらえたらなと。魔力が無くなって倒れてたなんて恥ずかしくて言えないからね…」
「「「分かりました!」」」
ベルゼは2日半も寝てしまっていたという事で、ご飯の約束も一緒に狩りにいく約束も守れなかったのだが、お互いしばらくセレスタンに滞在しているとの事なので、リエル達が帰ってきてからみんなで行こうと約束をした。ハイク達はパーティで依頼を受ける為、そこで別れる事となった。
さて、今日はもうすぐティアとリエルが帰ってくる予定だけど、どうしようか。ああ、そういえばヒポグリフの討伐達成の報告は俺からはまだなんだよな。ハイク達が俺を運んでくれたついでに、ヒポグリフとグリフォンをギルドに持っていってくれて討伐達成の報告もしてくれたみたいだけど…今度のご飯会はご馳走しなきゃな。
そう思い立つと、リエル達が帰ってくるまでに自身でギルドへと報告に向かうベルゼだった。
♢
「おい。」
「ああ、アイツだろ?」
「うぅ…俺この前アイツにお嬢ちゃんは下位の依頼板の方だろ?って言っちまったんだ…ぶっ飛ばされねえかな……」
「素直に謝るか、しばらくトンズラだな。」
「ご愁傷様だなお前も!はっはっは!」
「うう……」
ギルドには様々な冒険者が居る。
パーティで議論をしている者達、昼間から酒場で飲んでる者達、難しい顔で依頼板を見つめている者。
俺はギルドの扉を開き、受付に向かって歩いていく。端の方からどこかで聞きいたような声も聞こえたが、この街にはハイク達以外の知り合いはいないのだ。特に気にする事はないだろう。
「ベルゼさん!」
受付まで行くと、俺たち"冥府の使者"が依頼を受ける時にいつも対応してくれる受付嬢だった。彼女はシーサペント討伐の時に心配してくれた人だ。
「もうお身体は大丈夫なんですか!!?」
「はい、もう大丈夫です。」
「良かったです…!ベルゼさんが帰ってこなくて心配していたんですけど、ハイクさん達からベルゼさんが倒れていたと聞いた時は心臓が止まりそうでしたよ!!」
「ちょっと大袈裟じゃないですか…笑 でもご心配をおかけしました。」
「そんなに畏まらないで下さい!冒険者の中には依頼中に命を落としてしまう方もいますが、こうして無事なら良いのです!」
そう言う彼女は何度かそういう出来事に遭遇したのだろうな。と思い、苦笑いを浮かべる事しかできないベルゼだった。
「それで、今日は…?」
「今日はヒポグリフの討伐報告を。ハイク達が言ってくれてたそうですけど、自分からもちゃんと報告をと思いまして。」
「わざわざご丁寧にありがとうございます!"疾風の翼"の方たちのお話と、ヒポグリフの死体も運んで来てくれたので達成として受理してます。こちらが報酬…と、グリフォンについてですが…」
「特に欲しい素材は無いのでそのまま買い取りでお願いできますか?」
「あ、はい!それはもちろん大丈夫なんですけど…よく倒せましたね!Aランクの魔物をソロで討伐したって話題になってますよ!」
だからか。ギルドに入った時から今までより視線を感じたのは。
「ああ…まあ…なんとか……」
「普通はあんな岩地にグリフォンもヒポグリフも現れる事はないんですよね…それにグリフォンは魔族の遣いと言われているので…不吉な事が起こらないか心配です。。」
「不吉なこと?」
「魔族が攻めてくる…とかですかね…その下見にグリフォンが来ていたのかなと思いまして…」
受付嬢は声のボリュームを一段落として話した。
あくまで自分の憶測だから、下手に不安を煽るようなことはしたくないという事だろうか。
しかし宿のおばちゃんもそんなような事を言ってたな。
実際、以前に王都で魔族に遭遇した事もあるし、無い話ではないよなあ…
「でも!勝手な想像ですからね!深く考えないでください!」
「あ、はい…」
そんな深く考えたような顔でもしてたかな?
そう思った瞬間、探知魔法に見覚えのある反応が示された。これは…
「では俺はこれで。ティアもBランクの試験から帰ってきたみたいなので。グリフォンの素材報酬はそのうち来た時にでも。」
「え?試験は今日終わりますけど…帰ってきたんですか…?」
首を傾げる受付嬢を他所にギルドの扉が勢いよく開けられ走ってくるのは、ティアだ。
「やっぱりベルゼの匂いだった」
「え、俺そんな臭う…?」
「獣…?」
「おい。」
クスクス笑いながら向かってくるティアは相変わらずの感じだった。そうか、猫だから嗅覚は人間よりかなり優れてるのだろうな。…え、おっさん臭くないよね…?大丈夫だよね…?
「おかえり。その様子じゃあ試験は大丈夫だったみたいだな?」
「ふふん!」
ビシッとベルゼの眼前に一枚の紙切れを差し出す。
"右の者はBランク昇級試験において十分な実力を持ち合わせている事が証明されました"
へぇ〜昇級試験で合格するとこういうのが貰えるのか。試験受けないでBランクになっちゃったから初めて知ったな。
「リエルのおかげ。アンデットは光の魔力に弱かったから、簡単に倒せたんだけど…」
「ん、どうしたの?」
「倒しても倒しても無限に出てきた。それこそ何処かから湧いて出てるような感じ。アンデットにしてはおかしいって試験官も言ってた。」
「へえ…でも殲滅できたんだろ?」
「ん。倒しながら出てくる方に進んでったら洞窟の中から出現してた。色々あって原因は分からないけど、出てこないようにはしたから合格になった」
歯切れの悪いティア。原因は不明ってところが引っかかるな。
「なあ、それってど」
『Bランク昇級試験を受けた者で試験官より合格通知を貰った者は受付に集合してください!』
「ん、行ってこなきゃ」
「ああ…行っておいで。」
ティアも色々大変だったみたいだ。それにしても原因が分からないっていうのが気になるな。ま、リエルが帰って来たらゆっくり話しをするか。
リエルもそろそろ帰って……来そうだな。良いタイミングでギルドで合流できそうだな。
……ん?まてよ、リエルの反応、全然気がつかなかったな?
探知魔法にはリエルの反応がギルドの付近にチェックされていた。
普段ならもう少し前に反応できるはずなのだが、やっぱり本調子じゃないからか…?魔力がすっからかんになった反動で未だに身体は重たく感じるし。
「ベルゼ!いるっ!!?」
扉を勢いよく開けたリエルは途端にベルゼを呼ぶ。
距離的に大声での会話になるため、呼ばれた俺は手を上げて存在をアピールすると、リエルも走ってきた。
2人して勢いよく扉を開けて、ギルド内を走ってくるのだから、職員や周囲の冒険者から冷ややかな目を向けられてもおかしくはない。
「ここにいたっ…!宿に居なかったからちょっと探したよ!」
「ああ、ごめんごめん。魔物の討伐報告をしにきてたんだ。アイツには会えたの?」
そう、ストーカー野郎である。
リエルの前世の兄にそっくりなのだそうだ。
「まあ…一応会えたんだけど……それより!西の街"サーベスト"が壊滅したって!」
ん?サーベスト…?
初めて聞く名前の街だが…?
特に俺は行った事もないから縁がある訳でも無いし…
「ベルゼはサーベストの街に行ったこと無いと思うけど!サーベストはガヤート王国西部の辺境の街なの!!」
「そっか…ん、壊滅って?」
リエルの勢いに押されつつ、話が読めないベルゼは困惑しているが、リエルは話を続ける。
「魔族が一晩にして街の住人を一人残らず…。街も壊滅状態なんだって!!」
待ってくれ。リエルのこの慌てようからすると、多分めちゃくちゃ重要な事を伝えたいのだろうけど、テンパってるのか話が読めないな…?
今の話からすると、ガヤート王国西部にある辺境の街、サーベストが魔族の手によって壊滅した。って事か。……ん?西部?
「もしかしてアルスローとかエリースが近い…?」
「そう!!!魔族が狙うとしたら次はそのどっちかだって!!」
「なっ!?」
アルスローは、形だけではあるが俺たちが仕えてるアルノルト・アルスロー侯爵が治める西部最大の街だ。




