第90話 - グリフォン -
筆者、久しぶりに風邪をひきました。
皆さんも体調管理にお気をつけください。
熱にうなされながら書いたので、誤字脱字があるかもしれません。温かい脳内変換でお読みください…
突如上空から現れた魔物。
Aランクのグリフォンだ。とてつもなく怒っているように見える。
「いやー。Aランクの魔物かぁ…」
普段であればリエルやティア、それにクロや天狐もいるから協力して立ち向かう事が出来るのだが…ちなみにクロは、サラの動向を監視してもらっているため、正真正銘今はベルゼ1人なのだ。
とはいえ、ヒポグリフの亡骸も回収出来ていない上に、簡単には逃してもらえなさそうな雰囲気である。いや、転移で違う街に飛べば簡単に逃げれるのだろうが、セレスタンや近隣の街に被害が出かねない。ここは戦う以外の選択肢はない…か。
グリフォンはヒポグリフの亡骸を守るように立ちこちらをかなりの勢いで威嚇している。
「まさか…親…なのか?」
そうだとしたら本気で怒っているだろう。子を殺されて怒らない親がいるものか。
だが、魔物は基本的に親子の絆などは無く、産んでからは放任と聞いた事がある。しかし、この状況は…。
「グルアアアア!!!」
咆哮と共に氷の矢が飛んで来る。状況を整理しようと、考え込んでいたベルゼは反応が遅れ、魔法障壁で対応しようとする。
「なっ!」
目の前に張った障壁でアイスアローを相殺するつもりだったのだが、相殺どころか矢が貫通してきた。まるで何もなかったかのように。
それでも破源の瞳のおかげで貫通してくるのがスローで見えたため回避行動を取ることができたのだが、矢の一部が右肩に刺さる。
「ぐっ…」
久しぶりの痛みだ。この世界に来てからというもの、スキルによって強力な魔物も、多勢な魔物達も屠ってこれた。完全にスキルに依存した戦闘を行って来たゆえに被弾することが無かったのだ。が、
「どういうことだ…」
魔力が足りず障壁が壊れた訳ではなかった。相殺どころか、貫通してきたのだから、ベルゼは全く理解ができていない。それでも待ってくれるような状況ではない。
「今度はこっちの番だ!」
次の攻撃が来る前に、負傷した右肩を庇いながら牽制のブラックバレットを放つ。
展開された魔法陣から放出された黒い弾丸は一直線にグリフォンに向かい、命中したと思われた弾丸は着弾の寸前に展開された魔法陣によって阻まれ、寸前でかき消された。
「うそだろ……!!」
今までに経験した事のない出来事にもはや理解が追いつかなかった。どういう事なんだってばよ。
魔法障壁を展開した…?いや、それならば着弾の寸前では無くてもう少し手前で発動するはず。ならば、そういう魔法か、能力…か?
ベルゼは、先日のシーサーペントを思い出した。
そうだ。あの時、魔力をいつもより練って、海ごとシーサーペントを斬るつもりで放った斬撃だったけど、全然ダメージが入っていなかったな。
リエルが、シーサーペントは魔法攻撃が効きにくいって言ってたっけな。そういう魔物もいる……そして、今、着弾寸前に展開された魔法陣で、ブラックバレットがかき消された。という事は……
「魔法無効能力持ちか!」
それならば黒弾がかき消されたのも、アイスアローが魔法障壁をすり抜けたのも納得ができる。確証がある訳ではないけど、そう思って動いた方が良いだろうな。と、なると向こうの攻撃は避けるしかないし、こちらの魔法攻撃は効かない…か。面倒だな。
庇っていた右肩から手を離し、黒刀を抜く。とはいえ剣技については、リエルやティアほどの技量がある訳ではない。普段、スキルに依存した魔法主体の戦闘を悔やむ。もう少し練習しておけば。。だが、この期に及んで後悔は遅い。怒り狂ったグリフォンは待ってくれそうにない。
「グルアアアアアア!!!!」
今度は翼を使った爆風とともに放たれる氷の矢がベルゼを襲う。
「くっ」
流石にこれだけの範囲、身体強化した足でも避けきれないだろう。直接の魔法攻撃が無効化され、転移魔法は使える事を願いながら転移する。
「ぐぅ…!」
使えるは使える。だが、明らかに距離が制限されている。…あの木まで跳ぼうとしていたからな。
ある程度の範囲内になると直接の魔法でなくても効果が無効…か、弱くなるのか。いよいよもって防戦一方だとマズいな。
ベルゼが試みた転移魔法だが、強制的に跳べる範囲が短くなってしまった為、大氷風の一部をまともに受けてしまう。痛みに顔を顰めながらも考える事は止めない。
せめて反撃のきっかけが欲しい。
こんな事なら、ヒポグリフを調べるのに図鑑を読んだ時、隣のページにあったグリフォンについても流し読むだけじゃなくて、ちゃんと読んでおくべきだったな。
「グルアアア!」
咆哮と共に爆炎が迫りくる。
反射的に避けようと身体が反応する。も、ベルゼは思い止まり、炎に向かって走り出す。
精霊の加護がある今、炎に関しては避けなくても良いのだ。絵面的に馬鹿正直に受けたくないというだけで。それならば炎を吐いてる今が攻撃のチャンス。向こうにそれが分かる訳が無いからな。だが正直なところ、どうなるか分からない。炎を抜けて斬り込んでも斬れるのか分からない…が、やってみない事には状況が打破出来ないのだ。
分かっていたことだが、やはり炎の渦中にいるのにダメージはない。それどころか、普通に息もできるし、服も燃えない。加護の有り難さを実感した。
炎の渦を抜けると目の前にはグリフォンの顔があった。グリフォンは、自身が吐いた炎の中からベルゼが突如出てきた事に当然驚く。
そんな驚いた顔を目の前で見たベルゼは、にやりとしながら、黒刀を振るった。
「グアアア!」
流石にこの距離で避けきれるほどの反射速度は持ち合わせていないようだ。幸いこの刀でも刃が通る。
Aランクの魔物とはいえ、ほぼ0距離からの奇襲攻撃に完全に対応できる訳ではないようだ。ベルゼの振るった刀によって顔を斬りつけられたグリフォンはたじろぎながら斬られた事に対して更に怒りを増した顔になる。
上手く行った…とはいえ、炎の攻撃だったからで、そうそう何度も同じ攻撃ができるかと言われたらそうでもないだろう。ここは一旦距離を稼いで、次の攻撃に備えつつ突破口を考えなくては。
そう思ったベルゼが後ろに飛んだ瞬間、腹部に今までに感じた事のない強烈な痛みが走った。
「ぐふっ…!!!」
痛みのする方に目を向けると大きな氷の矢が、己の腹部を貫いていた。
「な…んで…いつ…」
腹部から流れ出る大量の血液に動じる。破源の瞳を持ってしても見えなかった攻撃。
実際にはグリフォンの顔を斬りつけた際、不慣れな刀を無我夢中で振った為、グリフォンがベルゼの背後に展開した魔法陣に気がつかなったのだ。流石に死角からの攻撃はその眼を持ってしても見えない。
「ぐっ…」
迂闊だった。今までスキルに頼ってばかりだったのがいけなかった。どんどん全身から力が抜けていく。次第に痛みも消えてくると、ああ、これが死ぬのか。と実感する。
不遇で悩まされた前世は、交通事故で一瞬だったけど…。せっかく特典を持って転生させてもらえたのに、今世はのんびりと緩く冒険者にでもなろうと考えてたのになあ。そんな事をぼんやり考えるも、視界が定まらない。目蓋も重くなってきた。
閉じ行く目蓋。俺が死んだらリエルやティアは悲しむだろうか。悲しむだろうな。いや、そうであって欲しいな。前世のクソ上司には、お前なんか居なくなった方が清々すると言われ、誰かに必要とされる人間になりたいと思ってたけど、今世はそうなれただろうか。。
カランカランと刀が落ちた音がする。はは、もう力が入らない。もう何も考えられないや。ごめん、リエル。ティア。
2人を守り抜く為に生きようと思ったのに、随分と先に死ぬ事になったな。ごめん。
最後にそう思い目蓋を閉じるベルゼだった。




