第87話 - 再会1 -
予定より長くなってしまったため分けました。
次話は手直しをして明後日には投稿出来るかと思います。
翌朝
目覚めるといつも隣で寝てるリエルの姿はなかった。
ああ、そうか。と寝坊した事に気がつく。
昨夜のこと。転移で送るというベルゼの言葉をリエルは断った。たまにはのんびり朝寝坊してのんびりしなよ!と。
そういえば自分の時間は、ここ最近全く無かったなと。薄っすらとする意識の中で思いながら瞼を閉ざしたベルゼだった。男は自分の時間も欲しい生き物なのだ。
隣の部屋を借りているティアも当然、既に試験へと出発しているだろう。
と、ボサボサの寝癖をそのままに泊まっている宿の階下へと降りていく。
「あら、アナタ今日は遅いのね!」
「おはようおばちゃん。」
「もう2人はとっくに出て行ったわよ!…もしかして…フラれちゃったの?」
「ぶはっ」
宿の1階に併設されている飯処に着席して待っていると、宿のおばちゃんがとても言いづらそうな顔で予想だにしない言葉をぶっ込んできた為、お茶を吹き出す。
「あら…ごめんなさいね……」
「いやいやフラれてないから!」
「え、そうなの?」
「銀髪の方はBランクの試験で今日から3日間居なくて、金髪の方はその間お兄さんに会いに行ってるんだよ。」
「なーんだ!そうだったのね!」
「そうそう。3日間だけご飯も、俺1人分で大丈夫だよ。」
「アナタ1人でも、5人分くらいは食べるからね?」
まあ確かに。と思ったのだが、ご飯が美味いのがいけないのだ。特に久しぶりの海鮮である。元日本人としては、やはり毎日でも食べたい。
そういえば、ここ最近食欲が更に増したのだが、それに伴って魔力が微量に増えた気がするんだよな。普段は体外に放出される魔力を抑えてるから気がつかなかったけど、シーサーペントを海ごと斬った時、普段より魔力を練ったからか増減に気がついたんだ。
最近出来てなかった研究も、この3日間にやりながら討伐依頼でも受けてようかな。
「そういえばアナタ聞いた?」
「ん、何を?」
「魔王が魔族を統一したって話よ!」
「へぇ〜」
「やだわ〜魔族が攻めてきたら恐いわね…」
「魔族ってそんなに人間の国に攻め入ってくるの?」
「何アナタ、冒険者なのにそんな事も知らないの?…まあ年齢的に知らなくても不思議じゃないわね。」
世界にきてまだ何年も経ってないからなあ…。
冒険者はみんな知ってる事なのか…?
「昔は魔族と戦争をしてたのよ?よく街や村が魔族に攻め入られて滅んだりもしたのよ。」
「そうなんだ。」
「その当時の魔王は、そもそも戦争が好きだったらしいけど、人間を根絶やしにして世界を統一しようとしてたのよ。」
「平和じゃないなぁ」
「魔王が当時の勇者に倒されてから、魔族は内乱状態だったみたいだけど、最近、魔族を統一した魔王が出てきたってはなし。街中ではもう知ってる人も多いわよ?」
「勇者ねえ…」
ベルゼは以前出会ったアホ勇者を思い出していた。顔は全然思い出せないけど、なんかアホなやつだった気がするな…
「てかおばちゃん詳し過ぎじゃない?」
「そりゃあこの街で宿やってれば情報なんて幾らでも入るわよ!」
王都から南に向かう者は必ず通ると言っても過言ではないこのセレスタン。そんな場所で宿をやっていれば、客や同業の間でも噂や情報は簡単に入手できるのだろう。
情報屋顔負けだな。そう思ったベルゼは、おばちゃんのたわいない話もおかずにご飯を進めるのだった。
♢
さて、朝ごはんもしっかり食べたし俺も2人に負けないよう依頼をこなすか!と意気込んでギルドまでやって来たベルゼ。
Bランクの依頼板を眺めていると、後ろで声がした。
「おいおいお嬢ちゃん!お嬢ちゃんが受けれるのはこっちじゃねえだろ?」
「(どの依頼にしようかなー。護衛で2日かかるこの依頼も良いかな…いや、でも護衛だと自由に動けないから研究できないか。却下だな。)」
「ビビって振り向きもできないか?」
「(うーん。採取でも良いけど、薬草とかあんまり分かんないしなあ。生えてる地域に行っても、見つけられなかったり、上手に採取しないと効能とかダメになるって聞いたしなあ。)」
「お嬢ちゃん!無視は酷くないか!?」
「(うーん…やっぱり討伐だよな。討伐依頼で手頃なのは……)」
「おい!!」
男の手がベルゼの肩を掴む。
「あ?なんだ?」
「聞いてなかったのかよ!この距離で!まあいい。ここはBランクの依頼板だ!お嬢ちゃんみたいなのは向こうの依頼板だぞ!」
男が指を指したのはDランク依頼板だった。
「ああ。親切にどうも。だがここで合ってるよ。」
「は?お嬢ちゃんがBランクだと?笑わせるなよ!」
やれやれ。大体どこのギルドに行ってもこんな感じになるよな。ま、慣れはしたけど。
今のベルゼの見た目は10代前半。中身はアラサーだが。
人を見た目で判断する程度の冒険者は適当に遇らうか、よっぽどしつこく絡まれたら返り討ちにするのが、ルーティンになりつつある。
「人を見かけだけで判断する程度の人間は、実力も知れるよなあ。」
「あん?随分と強気だな?近くに親でもいるのか?親御さんにもご挨拶しなきゃな!!」
「はあ…」
やれやれ。絡んできたのは向こうだし、ギルド職員も見てるからいつも通り正当防衛ですかね。てか職員も見てるなら止めろよ。そう思わずにはいられないベルゼだったが、今のこの状況でわざわざ近づいてくる気配を他に感じていた。




