第85話 - 獣人祭 -
ティアは獣人の国の中心"エクロン"で、獣人の父親と人間の母親の間に生まれた。
幼少の頃から父親とは会うことがなく、母親とひっそりと暮らしていた。
が、やはり亜人は相当な差別を受けており、周囲の嫌がらせに耐えられず、母親と共にエクロンを出ることになった。
幾つかの村や街を転々とし、最終的に流れ着いた所は人間と獣人の国の国境付近にある、人間の小さな村。その頃のティアはすでに母親から教わった変身魔法が使えるようになっていたそうだ。
そのおかげで、人間の母娘として受け入れられ、その後、母親が病死するまでの十数年、その村で育った。
ティアの師匠と出会ったのもその村での事だった。師匠はふらっと現れて、ティアに剣術を教え込み、突然姿を消した。
母親が病気で他界して数年が経ち、冒険者として生計を立てることを決め、村で一緒に育った女の子と共に村を出る。
女の子は魔法を扱い後方支援、ティアは持ち前の身体能力と、氣を存分に発揮し、前衛で戦うスタイルを確立した。2人は戦いにも慣れ、冒険者として依頼を受けながら街を転々としてきた。
ある時、たまたま依頼で居ついていた街で知り合った男と仲良くなり、3人パーティとなり、ついにはティアと付き合う事になったのだが、この男はいけなかった。
ある日、買い物から帰ってきたティアが目にしたのはベッドに入っていた2人だったそうだ。これはいけない。本当に良くない。
目の前が真っ白になり、立ち尽くしていたティアに対して、男も友人も悪びれる様子も無かったそうだ。
ティアは全てに絶望し、怒った。信じていたのに。
そのまま別れも告げず、街を出て八つ当たりの為にダンジョンに潜る事にした。
そうして出会ったのがベルゼとリエルだった。
最初はどうせコイツらも。と少し思っていたが、ベルゼは一向に手を出して来なかったし、リエルも自分の事を妹のように可愛がってくれていた。
次第にティアも心を許すようになり、こんな風にずっと続けば良いな。と思いながら自身が亜人である事を隠していたのだが、ついに、隠している事を申し訳なく思う気持ちが上回り告白する事にしたのだ。
「ベルゼ。」
「ん?」
「ベルゼに酷いこと言った。本当にごめんなさい。」
「ああ、良いよ。気にしてない。」
「でもかなり酷いこと言った。そ、その…お詫びに少しだけ耳…触ってもいいよ…?」
上目遣いで言ってくるのは反則じゃないか?
そう思いながらも、せっかくティアから言い出したのだから失礼しようと猫耳に目をやる。
先ほどまでリエルに咥えられ、べちゃーとなっている耳が目に入る。
なんでこんなべちゃべちゃなんだよ!
「…べちゃべちゃな猫耳なんていらんわ!」
笑いながら断るベルゼだった。
♢
「なあリエル。リエルは亜人に対してどう思ってるの?」
「んー。亜人って差別されてきたって言ってたよね。確かに私の周囲でもたまに見る光景ではあったけど…」
「あったけど?」
「私自身、そんなに気にしてないかな。関係ないっていうか。むしろその耳の分お得だなーって思うけど。」
ああ、そうだった。
リエルさん、動物大好きなんだよね。…特に猫がね。
「差別されてようが、亜人だろうが、ベルゼの言ったようにティアはティアだし、私は大歓迎だけどね。」
「そうだな。」
大歓迎って猫耳的な意味でもなんだろうな。と思ったが、口にはしなかった。
「ベルゼは?ティアの事を知って改めてどう思ってるの?」
「ん、さっき海で言った、ティアはティア。それが俺の本心だし、亜人だと知ったからって特に変化はないけど、むしろ亜人が差別されてるって事を知らなかったから、まだまだ知識が足りないなーって思った。」
「ま、その辺はもっと冒険者として活動してれば分かってくるし、分からなかったら先輩が教えてあげるね!」
先程まで正常とは言えない目でパーティメンバーの耳をモフっていたパイセンの言葉とは思えないベルゼは、苦笑いをしながら「頼むよ」としか言えないのだった。
「でも意外だったのは獣人祭にティアが出ようとしてたことね!」
「ああ。それ、初めて聞いたけど。」
「まさか自分を虐げてきた獣人を見返す為に強くなってレベルも上げたかったなんてね!」
「目標があってレベルと強さに拘ってたなんて考えもしなかったなあ。。ところで獣人祭って?」
「獣人は、もともと好戦的な種族なんだけど、昔は街のあちこちで喧嘩が起こってたんだって。それを見兼ねた獣王が1年に1度、格闘技のお祭りを開く事にしたらしいの。」
「へえ〜」
「年に1度の大会で優勝すると栄誉と豪華な賞品が貰えるからか、それまで多かった街の中で喧嘩する獣人も減ったらしいのよ!」
「ふぅん〜」
「昔は獣人だけしか参加出来なかったけど、戦争が無くなって、他の種族の往来ができるようになったから参加者も多種多様らしいよ。」
「そうなんだ〜」
「あとは多種多様の種族が参加するお祭りだから、屋台もあって、色んな食べ物が」
「よし、俺たちも行こうか!」
「……もう!食べ物の事となるとすぐこれなんだからぁ」
やれやれ。と呆れた顔のリエルであった。




