第66話 - 黒刀・楳朱 -
ー魔力低下症ー
魔皇歴23年ごろより王都を中心に流行。
発病すると魔力行使が殆ど出来なくなり、その為身体が不自由になる。
患者は徐々に衰弱し、最終的に死に至る。
原因不明の為、治療が極めて難しく不治の病とされていて、当時の王都に恐怖をもたらした事で有名。
かのスクラー博士が治せなかった極めて少ない症例である。
魔力行使が困難になる事から、おそらくは魔力回路の異常ではないかと医療界では現在も研究が進めらめている。
王立ムーサ図書館 所蔵
「医療研究の発展」より抜粋
「じゃあ、リエルはファイストさんに過剰回復付与をお願い。ずっとかけ続けてもらえる?」
「分かった!」
「わ、私は何を!」
「ティアは応援してて?」
「任せてほしい!私も全力を出す。」
泣き出したエリーの涙は止まらなかった。
父ファイストは宥めるようにエリーの頭をゆっくり撫でる。
その手を取って強く握りしめたエリーを見たベルゼは混織霊気を纏う。
「じゃあいきますよ。」
リエルが上位光回復魔法をかけ続ける中、ベルゼは患部に手を当てる。
そして、一呼吸置いてから魔力を込めながらイメージする魔法を発動する。
展開された魔法陣から放たれた魔法は、闇を纏った雷を超収縮して、対象の魔物まで感電させる。ファイストの身体越しであるがリエルの回復魔法で何とか持ち堪えさせる。
そして、感電して弱っている魔物を魔力吸収で留めをさす。
「うぐっ………」
「おどゔざん!!」
エリーの手がファイストの弱った手を強く握りしめる。
「捕まえた。」
そう言ったベルゼは発動していた魔法を解くのと同時に転移魔法を発動させる。
「ふぃー。もう終わりましたよー。」
「「えっ?」」
それは「じゃあいきますよ」からおよそ4秒の出来事だった。
♢
「こいつが俺の中にいた魔物か」
「ええ。それよりも大丈夫なんですか?」
ベルゼの手に置かれた、触手を生やした手のひら大の種みたいな生物。
詳細は謎だが、魔力の流れからして魔物で間違いないだろう。
「ああ、お前さん達のおかげでこの通りだ!」
「もうお父さんったら!まだ安静にしててよ!」
討伐前から涙が止まらなかったエリーだったが、終わった途端、涙が止まった。あっけらかんとした顔だった。
「それは良かったです。」
「感謝してもしきれねえ!そうだエリー!とりあえず何か食べて行ってもらおう!今日はご馳走にしてくれ!」
「もう。分かりましたよっ!」
有無を言わさず強制的に食事に招かれてしまった。
まあ断れそうな雰囲気ではなかったし、午後に王都中心部からここまで来て時刻もいい感じで、お腹空いてたしね。ファイストも元気になってよかった。
魔物低下症。
その実は体内に魔物が入り込んで、人間の魔力の流れを阻害していた。王都で一時期流行ったと言ってたな…。なんか怪しいよなあ。
晩ご飯までの時間で例の魔物を処理しようと、外で燃やし始めたベルゼ。炎魔法で燃やし尽くすと、黒い物体が現れた。
「まあ闇属性だとは思ってたけど、種が石になるかね?」
それは魔力を帯びた漆黒の石だった。
♢
ファイストの家に戻ると良い匂いが立ち込めていた。
先ほどまでの淀んだ空気がまるで嘘のような空間となっていた。
「お!帰ってきたな!それじゃ宴にしようぜ!」
ファイスト…元気だとこういうキャラなのね。
140cmくらいだろうか。背は低いものの、威圧感のある身体つきである。
それにこのテンションが加わって、若干ベルゼは引き気味に頷いたのだった。
「へぇ〜ファイストさんドワーフなんですか。」
「おう!ドワーフは初めてか?」
「そうなんですよ〜。あれ、エリーさんは?」
「エリーは俺と人間の嫁との間に出来た娘だ!ガハハ!」
あれ、そういえば奥さんは見ないな?
…まあ野暮なことは聞かない方がいいか。
せっかく病気から復活したんだし。
「もうお父さんたらそんなに飲んで!」
「こんな日に飲まない奴がいるか!」
「それもそうですね!」
そう言いながらエールの入った樽を持ってくるエリー。
ドワーフと人間のハーフ。
見た目は人間っぽいけど、酒のキャパはテンプレのドワーフなんですねエリーさん…
「そういやあ…あの魔物は燃やしたのか?」
「はい。燃やしたんですけど、種が燃え尽きたらこの石になってました。」
ベルゼは先ほどの黒い石をテーブルへと置く。
「これは…!!黒祅石じゃねえか!!!!」
エール片手に楽しそうだったファイストが一転、石を見た途端、樽のジョッキを乱暴に置くと目がマジになった。
「黒祅石?」
「ああ。魔力を帯びた不思議な石で有名なんだ。その硬さはミスリルをも凌駕すると言われている。滅多に出回らないからそれこそ伝説級の石だ。」
「へえ〜そうなんですか。それお返ししますね。」
「は?」
「いや、ファイストさんの体の一部となってた訳だし…そもそも冒険者の俺が持ってても、ただのガラクタなんで有効に使ってください」
「いいのか…?」
「ええ。あ、調子が良くなったらでいいんですけど、リエルの剣を強化して貰えませんか?」
「お前さんと無口な嬢ちゃんのは良いのか?」
「俺は魔法使いなんで杖をメインに使ってます。なので剣はほぼ使わないんですよ。飾りで持ってるは持ってますけど。ティアの剣も強化できるならお願いします。」
「なるほどな。なら杖をよこしな。俺が強化出来るのは剣だけじゃねえからな!嬢ちゃん!それに無口の嬢ちゃんも剣よこしな!俺が剣を強化してやる!」
半ばぶんどる形で剣と杖が酔っ払いの手中に収まった。
3人は顔を見合わせながらも
「「「ありがとう(ございます)!!」」」
感謝するのだった。
♢翌日
「んっ…知らない…天井……」
なんやかんやで遅くなってしまったベルゼ達は、ハイテンションドワーフに泊まって行けと無理矢理泊まらされたのだった。
「めっちゃ良い匂いする…」
昨夜はリエルも酔っ払ってたし再びの朝チュン案件かと思ったが、これは女の子特有の良い香りではなく、魚が焼けるあの良い匂いだ。匂いを求めて体を動かしていくと、食卓には朝ご飯とは思えない量の食事が並んでいた。
「おはようございまぁす」
「あらベルゼさん!おはようございます!ちょうど今朝ご飯ができたので起こしに行こうとしてたんですよ!」
「朝ご飯まで頂いてしまう事になるとは…すいません。」
「いえいえ!父があんなに元気になったんですから!これくらいさせて頂かなくては!」
「ファイストさんは大丈夫そうですか?」
「ええ!昨日皆さんが寝た後から工房に篭りっきりですけど、それが父の元気な時の姿なんです!」
えぇ…。昨日あんだけ飲んだ後に工房って…絶対剣の強化してるでしょ…昨日2人から剣ぶんどってたもん。
「べるぜおはよお」
「お、天使かな?」
「…ベルゼ、人の家でまでそれをやらないで。私まで恥ずかしい。」
いやいや、寝起きのリエルさんめっちゃ可愛いでしょ!それこそ本当に天使かと思って焦るわ。
「お二人もおはようございます!ご飯食べてください!」
「「「いただきまーす!」」」
「おう!起きたか!剣が出来上がったぞ!!」
「お父さん。今は食事中です。剣は後にしてください。」
「お、おう…」
やっぱハイテンションドワーフのおっさん、徹夜で剣強化してたわ。娘にしかられて、しゅんとなってるファイストだったが、病明けの徹夜明けとは思えない元気っぷりだった。
「これが嬢ちゃんの剣。強化打ちをして、魔力付与のスロット追加するつもりだったんだが、テンションが上がりすぎて、剣自体に風属性が付与されちまった!剣自体がもう新しくなっちまったな。名付けて "颯煌剣" だ!」
「颯煌剣…かっこいい!!ありがとうございます!!」
ちょっと待って。
なにそのテンション上がって属性付くって。
属性解放するって難しいって聞いてだけど…?
「んで、無口な嬢ちゃんの剣。これ程の魔剣は俺も初めてだった!わざわざ手を加えるまでもねえくらいに完成している剣だ。すまねえが切れ味と強度補強くらいしか出来なかった!」
「それで充分。感謝する。」
「そして最後にお前さんの杖なんだが……」
「どうしたんですか?」
「杖の強化に、昨日の黒祅石を使ったらどうかと思ってな…使ってみたんだ…」
「はい…?」
有効に使ってくれって渡した石を俺の杖に使っちゃったよ?
って、自分が死にそうになった原因を早速使っちゃったよ?この人?
「どういう訳か知らねえんだが、石を取り込んだ瞬間から杖が形状を変え出してな。長いこと鍛治をやってるが初めての事で俺も信じられないんだ。」
「まあ、形状に拘りがあった訳じゃないですから全然いいですよ。」
「そうか!なら良かった!」
そう言ってファイストが取り出したのは1本の刀。
え、杖じゃなくて刀じゃね?これ。
「いやいや、流石にうそでしょ!!」
「いや…本当なんだ。鍛治師の名をかけて誓う」
え、ガチなの?
杖に黒い石取り込んだら刀になるの?
え??どういう事??そもそも取り込むって何?
差し出された刀を受け取る。
全体が黒を基調として、所々に赤い模様が入っているのだが、まるでベルゼの頭のようなデザインに苦笑いする。
鞘から抜く。
刀身は完全に漆黒に染まっている。
非常に厨二心を擽る。
「ファイストさん…この刀、何ていう名前にしたんですか?」
「ああ。名前は迷っていたんだが…俺が付けて良いのか?」
「ええ、お願いします。」
「そうだな。。ならば黒刀・楳朱と名付けよう!」
「嘘だろ……」
驚愕した。
こんな事があって良いのか。
この世界にその木は存在しない筈だろ…?
まさか偶々でこんな事があるのか………?
「これが面白くてな。今は刀だが、イメージする形状に変わるみたいでな。俺は剣を扱う事が多いから今はこの形をしているんだが…思う通りの形状になる筈だ!原理は俺にも分からねえ!ガハハ!」
さらに驚愕した。
目の前のオッサンはきっとまだ酒に酔っているんだ。それか治療の後遺症が残ってしまったんだ。でなければそんな意味の分からない事をいう訳がない。うん、そうに違いない。
「おいおい!その顔は信じてねぇな?魔力を込めて他の形をイメージしてみろよ!」
いやいや、そんなバカな事があってたまるか。
そう思いつつもベルゼは握った刀に魔力を込め、杖をイメージする。
「……こんな馬鹿な事があってたまるか!!!」
ベルゼのイメージ通りに形状が変化してしまったその杖は、刀と同じ様に漆黒に光っていたのだった。
イメージする形状に変化するその様は、まるでベルゼの使う魔法のようであった。
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