第137話 - 対魔族戦① -
4月になったらお仕事落ち着くって言ったの誰ですか。残業50時間軽く超えてるんですけど。お休み無いんですけど。
お待たせしました、、
今話は長めです。話数稼がないでさらさらっとアールヴ編終わりたい…
「いつものベルゼ?あの時のベルゼ?貴方はどっち。」
どっち…とは?
一瞬、ティアが何を言っているのか理解ができなかったが、「あの時の」と言う表情に少し怯えが見えてピンときた。以前ティアがこの表情を見せた時は、俺が魔族を倒して気絶した後、宿で目を覚ました時の事だ。
そうか。深闇の魔力を纏った今、あの俺に見えるのか。だから、離れた所から来たティアは俺だと認識できず攻撃してきたのか。なるほど、他人に今の俺がどう見えているのか分からなかったけど、おそらくそういう事なのだろう。…もしかしてヴィラは俺に怯えて………いや、今はティアだ。なんて答えるかは…そうだな、解答はこうだろうか?
『そうか…貴様…見てしまったのか』
「!!」
溢れ出る深闇の魔力を抑えつつ、そう答えた俺に一瞬の安堵とニヤリと笑うティア。宿で目覚めた時はこう言って騒ぎになったが、それを踏まえた解答は正解だったみたいだ。……ん?いや、お前なんであの抜刀術の構えなんだよ。あれ?つか、ティアこんな魔力あったか?
「ん!!」
あ、なるほどね。俺が試練受けてる間に何かあったんね?で、魔力増えたから試しに俺に受けてみろってか。おけおけ。ならば俺も新しい力を少し試させてもらおうか。魔族?さっきからだんまりで動かないしとりあえず置いておこう。
"収納"から黒刀を取り出し構える。身体を纏う深闇の赤黒い魔力は取り出した黒刀も包む。
「「「「!!!?」」」」
なんか一瞬周りがざわついたけど、今はやる気になってるティアに集中しよう。
「ん!」
その瞬間、ティアの姿がブレて消える。
だが、今の俺はなんかめちゃくちゃ良く視えるんだわ。初動は練り込んだ魔力で身体を強化し爆発的な1歩目。それも体が地面スレスレに沈み込む程の。
なるほど。今までならば魔力ではなく、"氣"で同じ事をしていたが、見違えるほど増えた魔力を試す為に身体強化に使った訳か。効果は明らかに向上しているな。
と、関心してる場合じゃないか。それならば俺も動かせてもらおうか。
爆発的な初動のまま2歩目。迫り来るティアの抜刀まであと2歩。ベルゼはその歩数にあわせて残り1歩の所へ転移するも、眼前に現れたティアは驚いた表情ではなくニヤリと笑っていた。そう、まるでここに来ると見越した上で踏み込んでいた。
ほう、俺がここに来ると踏んでいつもより短い歩数で抜刀か!そんな事もできるのか。…だが、今の俺なら今からでも対処できるんだぜ!
普段より視える眼で捉えるティアの右手は今にも剣を抜く寸前。だが、抜かさなければいい。
ティアが握るエターナルイデアの柄の頭を抑えるために手を伸ばす。
「んっ!」
柄の頭に手が触れる寸前、ティアは技の最後の仕上げと言わんばかりに哂うと、その場から姿を消した。
『なっ!!』
驚いたのはベルゼだった。転移してくる事を見越した歩数管理、更には抜剣阻止を回避する瞬間移動。これは…
魔力が増した事によって[嫉妬する猫の瞬足]のギアをもう一段階上げられるようになった結果か!移動してる瞬間が俺の眼にも視えないって、マジの瞬間移動じゃないか…!
眼前にいたティアの姿は無い。毎回アレンジを加え独創的な技に昇華させるティアに関心しつつも、振り向き様に抜き身の黒刀を握った左手を伸ばす。探知魔法を発動するより先に身体が動く。ティアがどこに移動したかは予測はできる。そして背後から魔力と氣の反応が感じられる。
左手に握られた黒刀は、ベルゼの背後へ移動したティアが振るった一撃を止め、ハッとした表情を経て苦虫を噛み潰した顔のティアへとニヤリと笑う。が、その瞬間ベルゼにはティアの背後から極大の炎が飛んでくるのが目に入る。
『ちっ…水差しやがって』
ベルゼはティアの腕を掴み、立ち位置を反転させ自分の背に隠し庇うような体勢で、向かってくる炎へと左手を向け咄嗟に相殺の魔法を発動しようとするも、突如眼前に現れた白髪の後ろ姿に、展開寸前の魔法を止める。
『ほう…!』
本物の近距離転移でベルゼの眼前に現れた白髪のエルフは迫り来る極大の炎に向けて半身になった刀を振う。
「可愛い弟子の闘いに横槍は許さぬぞ。桜月流・焔裂き!」
振るわれた刀によって迫り来る極大の炎は、まるで裂かれたようにその火力を消失させた。当然ベルゼやティアに被弾する事は無く。
それまで空気と化していた魔族の1人、ブルゾンが放った極大の炎の弾はハスカータによって無に帰す事になり舌打ちをする。
「チッ!!!ババァがッ!俺様達を無視して随分と楽しんでるじゃねぇかよォ!」
「構ってほしいのか?ん?貴様らは後で相手をしてやるから少し待っておれ!!」
長年の間に培った殺気とエルフ特有の膨大な魔力を纏ったハスカータは、ブルゾンへと刀を向けながら対峙する。
『すげーな、婆ちゃん…』
「ん。師匠。」
『えっ?』
ベルゼの背に守られたティアからの一言。ティアの師匠は男の転生者だったと聞いていたベルゼは困惑したが、半身の刀を鞘に納めベルゼの方へと振り向いたハスカータによってその疑問は解決される。
「ティアの師匠の師匠じゃ」
『…マジかよ。』
「そんな事より貴様は何者じゃ!魔族が攻め入って来た面倒なこの時に、魔王にも劣らぬ殺意を振り撒き乱入し、剰えヴィール様を攻撃するなど!」
ーあ、え、魔族が攻め入って来てたの?…て事は、エルフと魔族がお見合いしてたのはそういう……いや、知らんて!タイミング悪かったかなとは思ったけど!そもそも殺気なんて振り撒いてねえし!何も教えてくれなかったヴィラとお偉いさんに強制的に洞窟に放り込まれて廃人にされる所だったんやぞ!そりゃ奴らにはかなりムカついてたけど!魔力垂れ流しで来たのは悪いと思うけど!ー
「ん。ベルゼ。パーティーメンバー。」
「ほう。貴様がティアの」
『お、おう…』
「ふむ。ティアを見ればお主との仲も伺い知れるが…お主はどちらなんじゃ?エルフの敵となるならば、このハスカータが命に代えてでも貴様も討つぞ?」
ほう…今の俺と殺り合えると?と、口に出そうだったが、それは完全に悪者の台詞であり、これ以上の混乱は避けた方が良いと思いとどまるベルゼ。
『………そもそも俺はエルフに恩があるし、ティアの師匠と言うならアンタとも殺り合うつもりはねえよ。それに…』
「それに、なんじゃ?」
『魔族は死に絶えるまで殺さなきゃ気がすまねえ』
「…そうか。ならば好きにするが良い。生憎と妾達は今、魔法が使えぬが何故お主は魔法を…」
と、そこで突如襲来したベルゼとハスカータ、ティアの戦闘を無言で見ていたベイラが突如話に割って入る。
「ねぇ〜ハスカータ?今アナタ近距離転移したわよね?」
「………!!?そう言われればそうじゃが…何故いきなり魔法が…ティアの戦闘に水を差した魔族共の攻撃じゃったから無意識で…」
「あらぁ〜?私も魔法が使えるわよ〜?」
ベイラも試しにと、詠唱の短い照明の魔法で掌に光を集めていた。
「なんだとッ!?」
「オイ!なんで魔法が使えるようになってンだよォ!!」
「ちっ!面倒ね…」
先程までは確かにアンチマジックエリアの効果で魔法が使えなかったが、ベイラが目の前で魔法を発動させたのを見た魔族は混乱した。
『アンチマジックエリアは解除されたみたいね。』
「そのようじゃ。何故かは分からぬが僥倖。魔族どもめこれからが本番じゃ!」
「そうねえ〜散々やられたから倍にして返させて貰うわよ〜!……あらぁ?」
「しかし何故突然………ん?」
ハスカータとベイラは魔法が使える事に嬉々としたが、今は聞こえる筈も無い聞き慣れたハイエルフの声に言葉を止めた。振り向いた先には、先程ベルゼによって木々を薙ぎ倒しながら、ぶっ飛ばされていったはずのヴィールの姿があった。
「「ええええ!!!ヴィール様!?」」
『なによ2人して』
「先程豪快に吹き飛んでいったのを見ていたのでぇ〜」
『ああ、確かにおでこがちょっと痛かったわね。でも彼は手加減してくれてたし、戻ってきているのはこの子のおかげね』
「あれで手加減………」
そう言うと、ヴィールは視線を足元へと下げる。そこにいたのは、取れてしまうのではないかと思うほど尻尾を降っている影猟狼の姿があった。
ベルゼの覚醒後、クロとの繋りが以前よりも濃くなっており、ここへの移動中に影の無い所からクロの声が聞こえた時は驚いたが、言葉を発せずとも意志を伝達する事が可能になっていた。
ベルゼはデコピンの誤爆でヴィールを吹き飛ばしてしまった後、回収をクロへと依頼していた。
『クロ、ありがとな』
『うむ!影縫いで1人連れてくるなど容易い事!それよりも主!遂に!遂に!!覚醒したのだな!!!』
『…ああ。そのようだが、それは後でじっくり話そう。今はコイツら絞めて早く帰ろう』
『うむ!我は影にいる故、何かあればまた呼ぶのだ!』
そう言うとクロは嬉しそうにベルゼの影へと飛び込んで行った。
「アレはシャドウクリーパーじゃな」
「闇の者に仕えるという…初めて見たわぁ〜」
「物凄く尻尾振ってたね。」
婆ちゃん達がクロを見て何か呟いているけど今はスルーしよう。
『(おそらくアンチマジックエリアが解除されたのは彼が来たおかげね。魔法無効化を持つ彼が、魔法であるアンチマジックエリアの領域壁を破って来た事によって、領域を消失させたのね)』
クロを見送るベルゼの傍ら、ヴィールは魔法無効領域が解除された事について考察する。実際それは正解ではあるが、ベルゼが飛来し到着寸前に何かをぶち割ったのを、アールヴの防御障壁かもしれないと勘違いして非常に焦った事は誰も知る由もない。
『さて、次は黒エルフと言いたい所だが…それは後にするか。今は魔族だな。』
「ん!」
「そうじゃな。」
「魔物の群勢もたくさん控えてるらしいわよぉ〜」
「魔法が使える今なら僕らもまともに戦える!」
『その前に貴方に確認したいのだけど…貴方、何とも無いのね?』
『あん?』
いざ魔族討伐!という所でヴィールの質問が水を差す。
『自我はちゃんとあるようだけど、試練の前と今で何か変わった事はないかしら?』
そりゃあ変わった事と言えば深闇の魔力が使えるようになったな?魔力も湧き出てくるし。あとはいつも以上に他人の動きが良く視えるようになったし、魔力の流れも良く視えるよな。
『今までと違う魔力と身体能力の向上も…』
『ああ、違うわ。私が聞いてるのは外見や能力的な事ではなくて、内面のことよ。意識はしっかりとしているのかしら?何かに取り憑かれたみたいになっていないかしら?』
『……?いや、変化があったのは能力的な事しかないな。見ての通り意識はしっかりとしてるし、もちろん何かに取り憑かれてもない。その辺は変わらないな。』
『そう。……でも…だった…醒を……』
『ん??』
何とも無いという返答に考え込むヴィールの表情は一瞬曇り、独り言の様に呟いた言葉はベルゼには珍しくほとんど聞き取れなかったが、「なら良いわ」という呟きの後、いつも通りの表情へと戻る。
『それで、俺は手を出しても良いのか?』
「「「っ!!!」」」
魔族達はベルゼの参戦に息を飲むが、ベルゼとしては、エルフの森を襲った魔族をさっさと討伐して一刻も早く帰りたいのだ。
『そうね。これ以上の被害は出したくないし、力を貸して欲しいけど…』
ヴィールは話の途中でベイラ達の方へと向く。
「この魔族は私が倒したいわぁ〜」
「そうだね、僕も協力するよ!」
「む、ならば妾はドラゴンを。」
「ん!」
『はぁ……了解。』
圧倒的な力を手に入れたベルゼが戦場に乱入し、味方に着いたと分かるも、エルフ達は自らの敵は自らで倒したいようだ。
ベルゼとしては魔族に対して並々ならぬ感情はあるがここはアールヴ。さらに言えば今の今までエルフ達が戦っていた所に横入りしてまで魔族を倒したいか。と考えたベルゼは、倒したい気持ちを抑えて一旦譲る事にした。
「ちっ!エルフの雑魚が!魔法が使えるようになった所で変わらねェ!また嬲ってやるからなァ!」
「ブルゾン!奴はやばい!奴が大人しくしているうちに全力でエルフを叩くのだぞ!」
「外に待機させてる魔物は一万を超えたわ!数で押すなら可能性があるわ!」
対する魔族もベルゼがエルフ側だと分かりつつも、エルフに戦闘を譲ると見るや、逃げようとはせず自分らの責務を全うするつもりのようだ。
『そうか。ならば俺はその辺にいる魔物でも片付け…ん?』
サクッと魔族を片してティアと帰りたかったベルゼだが、異常な数の魔物を探知魔法で捉えていた。魔族を片付けても魔物の処理が終わらなければ、気持ち良くは帰れないだろうと判断し、自分は先にそちらの対処をしようとするが、魔族をよく見ると見覚えのある顔に気がつく。
『おい、お前ら…前に王都で会った魔族だよな?』
「「「………!!?」」」
その言葉に魔族2人も漸く気がつく。
「まさか…あの時の…」
「ああん?エルゴス!こんな奴知り合いにいたのかよ?」
「我らが…王都ルートニオンで任務に失敗した時の…奴だ。」
「は!?あの時のって…俺様が一瞬で気絶させられたアイツかッ!!……いや、こんな奴だったか!?」
「容姿が多少変わってはいるが…間違いない!」
「貴方は自分が負けた相手すらも覚えていられないのかしら?ああ、一瞬で気絶させられたんだったわね?」
「チッ!!男女は黙ってろッ!」
「あら、怖い怖い」
『…覚えててくれて嬉しいぜ。おめおめと逃げ果せたのにまた会っちまったなぁ?もう転移で逃さねえからな?』
「ちっ!アザゼル殿!!」
「ええ、了解したわ!」
途端に顔色を変えたエルゴスはアザゼルを促す。
アザゼルの指揮によってアールヴの外に待機していた魔物、その数約一万がアールヴ内部へと静かに進行を開始した。
と、そこで魔族のやり取りを見ていたラギアがベルゼへと話しかける。
「ベルゼ君!君はこの魔族と知り合いなのか?」
『知り合いって訳では無えが…前にコイツらが王都に潜伏してた時に戦いになって逃げられたんだよ。まあ今回は譲っても良かったんだが、やっぱり逃した敵だし何より早く帰りてえから、魔物を全て倒し終わってもコイツらが生きてたら俺も手を出すぜ?』
いいよな?と、ラギアではなく隣に居たヴィールへと顔を向けると、コクリと頷く。
ラギアとの会話の途中、この魔族を倒したいと言っていたベイラをチラリと見ると、普段のおっとりした雰囲気は無く、完全にやる気の雰囲気をしていた為、とりあえずは譲る判断をしたベルゼ。倒せない敵ではないだろうが、やられて悔しい思いをして、やり返したいという表情で訴えられたら譲る他なかろう。だが、ちんたら戦っているのを見学する程時間に余裕があるわけでも無い。
「ありがとう。だが、魔物の数は多い。むしろこちらが先に終わ…」
『いや、5分てとこだな』
「え?」
ベルゼの左掌には真っ黒の渦が渦巻いている。それは徐々に収束し、一つの黒い塊となる。
『5分だ。それ以上はかからねえ。ぐずぐずしてると俺が全部持ってくぞ』
「わ、わかった!君が言うならば…!5分以内に決着をつけよう!」
一万の魔物をたった5分で殲滅させる。普通に考えれば到底無理な話ではある…あるのだが、今のベルゼを下手に刺激して万が一敵にまわってしまったら、今の現状的にアールヴは本当に終焉を迎えかねない。
それならば、例え五分で殲滅という冗談でも、加勢してくれる内に自分も再びの戦闘に備え、専念するべきと考えたラギアの咄嗟の判断は賞賛に値する。
ベルゼの言葉によって、急いで銃に装填を始めヴィールと共に射撃ポイントへと移動するラギア。ヴィールは戦闘に巻き込まれる可能性が低い射撃ポイントに居た方が安全だろう。と、判断したベルゼの傍らには依然ヴィラが転がっていた。
『おいヴィラ!オメーはいつまでそうしてるつもりだ?あ?他のエルフが殺る気になってんのにテメーは寝てんのか?』
「ひゃいいいっ!!」
『戦うならばオメーへの一撃は後だ。戦わねえなら今すぐにくれてやるが…』
「たたたかいましゅっ!!!!」
『よーし良い返事だ。気張ってこいよ』
「ああああありがとうございます!」
今し方までベルゼの殺気にやられ、全身から水分を吹き出してガタガタ震えていたヴィラは、一目散にベイラの元へと走っていった。色々と思う事は多くなったベイラだが、とりあえず着替えなくて大丈夫なのだろうか。………いや、今はそんな心配をしている場合ではないか。
『さて…今回も俺の勝ちだな?』
「むう。あの靄もその眼もずるい。」
『それは前からだろ。』
「ん。でも少し変わった」
『ん?変わった?』
「ん。」
「ティア…話の途中にすまぬが…ベルゼとやら、お主には色々聞きたい事が多過ぎるが、今はとりあえずエルフの為に力を貸してくれる事に礼を言った方が良いかの。」
ベルゼの傍らに最後に残っていたのは、ティアとハスカータだった。
『いや、俺の都合で早く終わらせたいだけだ。礼を言われる事はしてねえよ。』
「ふむ…ならば良いが』
「ん!」
『ん?』
ティアは自身の愛剣をベルゼへと差し出す。
『ああ、ティアも戦うってか。残ってんのはあのドラゴンだけだが、大丈夫なのか?』
「ん!」
若干不安を覚えながらも差し出されたエターナルイデアに自身の魔力を注ぐベルゼ。
『まあ、いざとなったら…』
「いや。妾とティアで討とうぞ」
『…ああ。さっきも言ったが時間が惜しい。俺が魔物を倒した後にドラゴンと戯れてるようなら手を出す。』
「うむ。よかろう。」
『それと…婆ちゃん。俺あんまり刀に詳しくないんだけど、エルフは折れた刀で闘うのか?』
「これは先程まで戦っておった時に折れたのじゃ!」
『あ、なるほどね』
一つの疑問が漸く解けたベルゼ。それならばと自身の腰に提げていた黒刀を差し出そうとするも、ハスカータに止められる。
「いや、その刀は何と言うか…お主以外が持ったら良くない気がするでな…ああ、腰から抜かんで良い。いや!本当に大丈夫じゃから!それを使うならばコレで戦うからの…」
『そうか…』
必死に止めるハスカータにそんなに黒刀はダメかと、チラ見するが、当の黒刀は他者を拒んでいるかのように赤黒いオーラを纏っている。
「ん…」
『いや、もう誰にも貸さんから!』
ティアも黒刀に対して、一歩後ずさる。そんなに嫌か!俺の刀は!と毒付くベルゼだったが、ふと"収納"の肥やしになっている物を思い出す。
『ああ…そうだ』
"収納"から取り出したのは、一振りの刀。鮮やかな蒼緑の鞘に収められた刀は、以前ベルゼ自身が倒した 藍鉤翼竜の鉤爪を刀身に使用した物。
討伐したドラゴンの素材の大半はギルドへと売却したものの、当時まともな武器を持っていなかったベルゼが「やっぱ冒険には刀だろ!」という謎理論で、ギルド経由で紹介してもらった鍛治師に大変無茶を言って加工して作ってもらった一振りであるが、その後すぐにアルノルトから杖(現黒刀・楳朱)を貰い、お蔵入りになっていたのである。
「お主今どこから…」
『これなら大丈夫か?』
「……これは!」
何故か恐る恐る受け取ったハスカータは、刀を鞘から抜き、青黒く光る刀身にうっとりとした表情で眺める。
「これはまさか…ドラゴンの…爪かの…?」
『良くわかったな。作ってもらったものの、すぐにコレが手に入ったから使ってなかったんだわ』
現在、腰に提げている黒刀・楳朱は刀の形状になっているが、元々はアルノルトから貰った杖だ。勿体ないとは思いながらドラゴンの素材から作った刀よりも、今は亡き唯一の仕え人から貰った物を側に置いておきたかったベルゼは、この鮮やかな刀を殆ど使用する事はなく、しまっていたのだ。
「なんというか…こんな刀を未使用とは……いや、お主にも色々あったのじゃろう。ありがたく借り受けるとしよう。」
黒刀を見るベルゼの表情に何かを察したのか、ハスカータは言葉を途中で止め、すんなりと借り受ける。
『ああ。ティアを頼むよ』
「もちろんじゃ。彼奴が遺した忘れ形見をこの様なところで失う訳にはいかぬからの。」
『ん。ティアも無理はするなよ』
「ん!」
魔力の充填が終わったエターナルイデアを軽く振うとティアは氣と魔力を練り始める。
『…………。』
その様子を見たベルゼは、一瞬何か考える様子を見せたが、ハスカータをチラリと見ると2人を送り出す。
『さて、俺もさっさと終わらせるか。』
左掌に収束していた黒い塊を宙に浮かべ、ベルゼの頭上で無数に分裂する。
『■■■■■』
発動と共に、小さくなった黒い塊は弾丸のように飛び回る。真っ黒な意識の沼で見たような闇夜に流れる流星群のように、意思を持っているかの様に標的へと一目散に飛び立っていった。
『コレに技名を付けるなら深淵帝の流星群でどうだろうか。…ちょっとクサイか?』
既に戦場では再び闘いが始まり、あちこちに飛び交う喧騒の中ベルゼの独り言はもう誰の耳にも届いていなかった。
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