第135話 - アールヴ防衛戦 -
蛇足が長くなって遅くなry
今年度最後であろう休日に頑張って書いてました。
予定より話が進むのが遅いからって戦闘端折り気味にも関わらず蛇足部分はしっかり書いてしまった…
ヴィラとブルゾンの喋り方が似てるので読み辛いかもしれませんがよろしくお願いします。
戦場を分断したのは、驚異的な力を持つドラゴンの存在だった。
藍鉤翼竜はブレスを吐かない下位のドラゴンとして扱われるが、ブレスを吐かない事の他は上位ドラゴンと比べても遜色は無い。
堅すぎる皮膚、ミスリルの防具を紙のように切断する鋭利な爪。振り回せば城壁など木端微塵にする強靭な尻尾。
この世界において食物連鎖の頂点に立つ種。
必然的に一番実力のあるハスカータが受け持ち、残りの魔族3人をヴィラとベイラが対峙する事となった。
無詠唱の白鬼と呼ばれた時代はとっくの昔に過ぎ去り、現在のメイン武器は刀。そして魔法を補助として戦闘を構成している。
年齢を感じさせない身のこなしと、長年培ってきた技術、戦闘勘、桜月流の技を持って、ミスリルよりも遥かに高い硬度を持つ藍鉤翼竜の爪と打ち合っていた。が、やはり圧倒的なドラゴンの前に戦闘を補助する魔法が使えないハスカータは思うように攻勢に出る事はできなかった。
「刀1本だけでは…ちと厳しいやもしれぬな…」
小言を呟きながらも、ハスカータはドラゴンの気をひきつつ街から距離を取っていく一方で、その場に残ったのはヴィラとベイラ、それに魔族が3人。
一見するとただの中級魔族。
本来であれば、戦場で魔法が使えないとは言えそれは相手とて同じ事。中級程度の魔族に遅れを取る事はない。つまりヴィラとベイラの敵ではない存在。
…のはずだったが。
「オラオラ!!どうしたんだよォ!あれだけイキってたのに膝なんか着いちゃってよォォ!!」
「ブルゾン!最後まで油断するでないぞ!」
「ハァハァ……ちっ!!」
「アザゼル殿、そちらはどうか!」
「ええ、万事問題ないわよ」
「はぁ…はぁ…何をしようというのぉ」
戦況は魔族が圧倒的有利。魔族3人は余裕の表情で、膝をつく2人を見下ろしていた。
「ちょっと…はぁ…はぁ…まずいわねぇ〜」
「ハァ…ハァ…クソが!」
思うように事が運ばない戦況に苛立ちを隠せないヴィラ。彼女らの身体はかなりの傷を受け、出血も少なくない。膝を地面に着け、すぐには立ち上がれないほどの傷を負っていた。
というのも、現在この戦場はアンチマジックエリアとして指定されており、故にヴィラとベイラ、もちろん他のエルフは魔法が使えず、実銃で戦うことを余儀なくされている。
普通であれば、相対する魔族3人も魔法が使えないはずなのだがーーー
「魔法無効領域を発動しておきながらテメーらは魔法無効化とはなァ…」
そう、魔族3人は自分らがアールヴ広域に発動した【魔法無効領域】を、グリフォンの瞳から作る魔道具【魔法無効化】で無効化しているのだ。
故に彼らだけはこの場で魔法が使う事ができ、更に彼らの上司から授かった魔道具によって、詠唱の略式化、魔法の威力を極限まで高め、その上で全力の重力魔法を2人にかけて足を止めた上で様々な攻撃魔法で追い詰めていた。
「重力の魔法なんて久方にかけられたわぁ…」
「タネが割れたところでぇー!テメーらは死ぬだけだぜェ!テメーらを片した後は魔物を使ってこの森を蹂躙してやるからなァ!!!」
ブルゾンの容赦ないその声に反応したのは隣にいるアザゼルだった。
「ちょっと!それ私が言うセリフよ!」
「あぁん?別に俺が言った所でいいじゃねぇかよ!」
「…………まあいいわ。それにしても因縁のエルフがこんなにも弱いとは思ってなかったわ。早々に片付けて私の可愛い魔物達に隅々まで掃除してもらいましょう。」
世紀末覇者ことブルゾンと、女性のような出立ちをしたアザゼルは眼前の2人を完全に見下していた。
「ちっ!まだ魔物が控えてるだと?」
ヴィラとベイラとて、銃の扱いはアールヴで2、3位を争うの猛者である。長い月日を生きる彼女らは、アールヴを護るため幼い頃からサブ武器も修練してきたのだ。
魔と付く種族だが、基本的には魔力量はエルフ族の方が多く、さらに魔法は魔力量がものを言う。実際ヴィラやベイラの方が魔族3人よりも魔力総量は多いのだが、そんな彼女らでも魔法を封じられ魔族3人の扱う魔法に勝てなかった。
重力が普段の数倍以上かかっていて、常人であれば動く事すらままならない状況で、2人は正確に標的を補足した。が、実弾を撃っても、ぶ厚い魔法障壁と硬い防具に阻まれ、逆に3人の大火力な攻撃魔法に立ち上がれない程の傷を負わされていた。
ーーーー
ところで余談ではあるが、魔法銃は、現代地球に存在する銃火器と大きく異なる点が二つある。
一つ目は、実弾と魔力弾のどちらも発射する事ができる点。
二つ目は、実弾と言っても薬莢内に火薬が存在せず、弾頭部分のみで成立している点。
ケースレス弾の実用化と正式配備。
この世界でその方面に詳しい者はもう存在していていないが、銃という武器をこの世界でも作り、伝えた者はこの世界特有の"物"に目をつけた。
そもそも火薬など必要としないこの世界。ならば、ある物で作ろうと試行錯誤した結果、弾倉を魔力に置き換える事で、魔力を凝縮した弾を撃ち出す事に成功。のちに、色の付いた弾を撃つ事で現代地球の物とは破格的に威力の高い物となった。
そして、火薬を魔力に置き換えることで、湿度や排莢等のデメリットが完全に無くなり、弾頭のみで発射する事ができ、さらに偶発的ではあるが魔力量によって弾速が変化させられる事ができるようになったのだ。
ちなみに側から見れば、わざわざ魔力弾が撃てるなら実弾なんていらんくね?と思わなくもないが、完全に制作者の自己満足であり、表舞台から消えたケースレス弾をいつの日か、日の目を見せるという夢を叶えた男のロマンである。そう武器はロマンなのである。
ー閑話休題ー
とはいえ、いくら魔力を込めても彼女らが持つ小銃タイプの弾では魔族の強化障壁を突破できず、逆にガンガン魔法を使ってくる相手に為す術もなく一方的な蹂躙を強いられていた。
「今度はね、全方角から今までの10倍の魔物が来るわよ。楽しくなるわね。」
「「……っ!!」」
アザゼルの言葉が本当ならば、第三ウェーブは今までの10倍…つまり、万を超える数の魔物が全方角の入口に押し寄せる事になる。魔法が使えず、実弾の残弾数からして確実に防ぎきれる数ではない。
「まぁ、せっかく結界魔法を解除したのに森が深すぎるから入口に誘導しなきゃいけないのは面倒よね。次のは結構時間がかかってしまうわ。」
「アザゼル殿、魔物程度の知恵では深い木々を避けて森を抜けるまでに時間がかかり過ぎるから仕方なかろう」
「そうね。いっそ森ごと燃やしてしまった方が早かったかしら?」
「かもしれぬが、そこは指示であるからな。」
どうやら森を覆う結界魔法を無効化したにも関わらず、わざわざ入口に魔物を大挙させたのはこの魔族の仕業であるようだが、高い木々が所狭しと聳え立つアールヴの環境が幸いしたようだ。
「10倍とか!でまかせ言ってんじゃねぇぞ!」
「そんな数の魔物をどうやって動かしてるのかしらぁ」
「私はね、魔物使いと言うスキルを持ってるのよ。ありとあらゆる魔物を使役できるの。第二波までも楽しめたでしょう?」
「…ちっ!!」
状況的にでまかせとは思えないアザゼルの言動にヴィラは思わず舌打ちをする。
確かによくよく考えれば、第一第二ウェーブの魔物は統制されていた。入り組んだ森を通って大挙せず律儀に入口の門へと誘導されていたのだから。
そうなると第三ウェーブも実際に起こり得る。入口は突破される事は必然的である。今すぐにでも住民の避難を…と思えど魔族達はそれをさせてくれる程優しくはない。
「ケッ!魔物を操れるくれェでイキがんなよ!」
「あら…今各方面に向けてる魔物を貴方に宛てても良いのよ?」
「ブルゾン!さっさとくだらぬ問答はやめてカタをつけよ!」
「チッ…!ああァ!分かってる!今詠唱も終わった!」
詠唱の終わったブルゾンは、灼熱に燃える極大の火の玉を掲げた右の手に顕現させているところだった。
「中級魔族が撃てる【地獄の業火】じゃないわねぇ〜」
「普通はなァ!!!それじゃあなァ!!!」
魔法陣が展開しはじめ、自分らを簡単に焼き尽くすであろう業火球が放たれる寸前、膝をつく2人の頭の上を "何か" が通り過ぎた。正確に言えば、誰もがその"何か"が見えた訳ではなく、数瞬後の現実が答えとして示したのだ。
「ぐァっ!」
「なにっ!?」
驚きの声を上げたのはアザゼル。先ほどまで意気揚々と、とどめの一撃を放とうとしていたブルゾンは、目にも見えない速度で飛来した"何か"が眉間に直撃し、その意識を手放していた。
「ったくよォ!お決まりが過ぎるんだよ!」
「まぁ〜いいじゃない〜助かったのだからぁ〜」
「…まあそうなんだが。いや、あのヘルフレア向こうに射出されてねえか…」
「え〜?、、」
気を失ったブルゾンであったが、魔法陣が既に展開され、放出してしまった極大のヘルフレアは、離れた場所ーー具体的に言うとハスカータと藍鉤翼竜が戦闘していた付近ーーへと着弾し、小規模爆発を起こしていた。
「「ハスカータ(殿)!!!!」」
ハスカータとの戦闘で空中に滞空していたドラゴンですら爆風の余波で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられている中、地上にいたハスカータは恐らくモロに受けてしまった事だろう。と、最悪の事態を想像する2人。
「…なんじゃ騒々しい」
「「え……???」」
突然、背後からの声に抜けた声と表情を隠せない2人。
『ふぅ。危なかったわね〜』
「ごめん…ハスカータ…」
「よいよい。と言ってもヴィール様が助けてくれねば、ちと危うかったかもしれぬがのぅ。ドラゴンの爪と打ち合ってたとはいえ、刀がダメになる程の威力じゃったからの。」
「ハスカータの愛刀が……」
右手に握られている愛刀は刀身の半ばで折れてしまっていた。
ミスリルの防具を紙切れの如く切り裂くドラゴンの爪と打ち合っていたのだ、そもそも消耗しているところに先程の地獄の業火である。
ハスカータの使う桜月流の技に[焔裂き]という、文字通り炎を切り裂く手段があるのだが、ハスカータは瞬時に状況を判断し行使した。
どうにか爆風と業火を切り抜けられたのは、桜月流の技と長年連れ添った愛刀のおかげであった。
「気にするでない、そもそも不慮の事。小僧の形見ゆえ愛着はあったが、命には代えられん。それよりもあの距離からあのタイミングで眉間を撃ち抜くとは…成長したのぅラギア。」
『さすがアールヴ1のウデマエを待つ我が子〜♪』
「お母様、みんなの前だから!」
ヴィラとベイラが振り向くと、そこには別の戦場にいるはずの3人の姿があった。
「ヴィール様、にラギア!?それにハスカータ殿もご無事で!!」
「勢揃いねえ〜?」
「うむ、ヴィール様が助けてくれてな。ドラゴンは倒せなかったがの」
「ど、どうやって…。今し方まであそこら辺で闘っていましたよね…」
「ヴィール様が間一髪で来てくれたんじゃよ」
『時の大精霊の加護でハスカータとラギアを拾ってここまで来たってわけっ!』
「ああ!なるほど、加護で…!」
「そっ!本来転移目的には使わない時の大精霊の加護で転移すれば膨大な魔力を使用するけど、転移魔法が使えない今はこれしか無かったのよ。加護なら魔法無効領域内でも使えるから。でも、[西口]からラギアとハスカータの所に寄ってここへ来たから、私の魔力はすっからかんね…」
ヴィールは気丈に振る舞ってはいるが、その顔には膨大な魔力を消費した疲労感が隠せていなかった。
「クク…!我らはツイてるようだ。わざわざハイエルフが首を置きにきたのだからな!」
「ええ。それにしてもコレが起きて無くてよかったわ。さらに五月蝿くなってたでしょうからね。」
ーーーーーー
[西口]の魔物が漸く落ち着きを見せ始めた頃には、既にヴィールの魔力は半分近く消耗していた。彼女に寄り添う大精霊達の加護をフルに使用して、全く途切れる事のない魔物の群勢をほぼ一人で殴殺したのだ。
大精霊の加護には攻撃手段に使える加護も存在し、ヴィールは自身の魔力と引き換えに加護の力で数千体の魔物を打ち破っていたのだ。
ただし本来の予定では、西口が落ち着き次第ドラゴンの所へとくるつもりでいたのだが、急ぎの寄り道により放出魔力がさらに増加してしまったのだ。
ハイエルフの魔力が枯渇するほど消耗する、時の大精霊の加護で救われたハスカータだった。
失くせなかったのだ。国の長として、部下として、そして何より数少ない気の許せる友であるハスカータの事を。
『というわけで私は戦力にならないから!ごめん!』
「とんでもないです!!我々こそ不甲斐なく、申し訳ありません!これ以上ヴィール様のお手を煩わせる事なく、すぐに片付けます!」
「拾われた命じゃ、タダではくたばらぬぞ」
「ヴィール様が見てるなら更に頑張らなきゃねぇ〜」
「援護は任せて!」
戦場にはアールヴの強者が上から5人揃った。
だが、1人は魔力切れで戦闘不可、1人は武器の破損、2人はこれまでの戦闘で負った傷がかなり重症。そして残りの1人は前衛ではなくあからさまな後衛タイプ。
対する敵は魔族2人とドラゴン。残りの1人は先程、遠距離からの狙撃を受け……
「っっってえなあ!!!!!ゴラァァァア!!!
気絶していた筈であった。
ブルゾンは眉間を撃ち込まれたものの、魔力障壁により威力が軽減され、死ぬ事なく一瞬気を失っていただけに留まっていた。
「テメーらマジで殺すッッ!!!」
もともとの性格上怒り易いとはいえ、視認外の攻撃で気絶させられた事で輪を掛けて怒りを増していた。
「…そのままくたばってれば良かったのに。」
「遊んでいるから痛い目を見るのだ。さっさと殺っておけば良いものを。」
怒り狂ったブルゾンに対して辛辣な意見を述べるのは、味方であるはずのアザゼルとエルゴス。
アザゼルに関しては、今回の任務で一緒になった同族というだけで、ブルゾンの性格と折りが合わない事はこれまでで判っていた。
エルゴスは同じ上司を持つ同僚の立場であるが、ブルゾンの日頃の言動からつい小言を放ってしまうが、漸く殺る気になったブルゾンをサポートする為、詠唱する動きを見せている。
「死ね死ね死ねぇぇえええ!!!」
怒りに任せた魔力は、先程の【地獄の業火】よりも高まっていた。
恐らく残りの全魔力を注ぎ込み、その一撃で終わらせるつもりなのだろう。
「チッ!くたばって無かったのかよ!!」
「これは本当にまずいわよ〜」
「誰かどうにかならんかの?」
「無理だよ!ハスカータ!」
『う〜ん。私ならなんとか受け止める事は出来ると思うけど、かなり生命力を使うわね。』
「ヴィール様!!何の気なしに言ってますけど!それだけはお辞めください!!!」
「そうだよお母様!!!」
『でもそうしなければ皆んなが死んじゃうのよ?』
「なに、妾はヴィール様と共に逝けるならば良いがな」
「ハスカータ殿まで…!くっ!!」
何か策は無いか。アールヴの策士ことヴィラは思考を巡らす。
が、この緊迫した状況により冷静な決断ができずにいた。長年仕えたヴィールからの提案は到底受け入れられない。この方が死ぬ事だけはあってはならない。
ヴィール様が先程言ったのは、ヴィール様にしか使えない秘術[生魔反転]で生命力を魔力に変換し、大精霊に魔力を供給して魔族の魔法を止める事だろう。だが、あの怒りが篭った極大魔法を止める為には生命力が持たないはず。
その間にも詠唱が進み、異常な魔力が高まってる。せめて詠唱の妨害ができれば…と視線を凝らすも、詠唱中のブルゾンは無防備だが、側に控えている2人の魔族が魔力障壁を張り直しながらこちらの様子を伺い、油断無くブルゾンをアシストしている。その為、こちら側の誰もが動けない。そして、その側には爆風に叩きつけられながらも戻ってきたドラゴンが控えている。
あのドラゴンがだ。
先程の話からしてこのドラゴンは魔族に使役されていると考えるのが普通だろう。この時代にドラゴンを使役できる魔族がいるとは…。
改めて自分らがいかにこの魔族達を舐めていたかと歯噛みしながらも思考を続ける。
お守りしなければならないヴィール様は魔力が枯渇状態。それでなくとも戦闘どころかまともには動けない。自分とベイラは先程までの戦闘で重症。ハスカータ殿は愛刀が半ばで折れており戦闘力が大幅にダウン。あれではドラゴンと再びやり合う事は難しいだろう。そして、まともに動けるラギアは銃がメイン。
……ならば。選択肢はコレしかないだろう。
例え無謀にも向かって行けば、ミスリルの防具すら切り裂くドラゴンの爪によって、自身は紙切れの如く細切れになるだろう。だろうが。今できる最善を選ぶべきだ。覚悟は決まっている!
「私が突撃します。ベイラはアシストを。ラギアは最大火力で詠唱を中断させ、ハスカータ殿はヴィール様をお守りし戦場から離脱し…」
してください!
ヴィラはその言葉を最後まで言う事が出来なかった。
攻撃を受けた訳でもなく、話を遮られた訳でもなく、単に言葉を発する事すら止められたのだ。
この場にいる者ではない、姿すら見えない者の、負のエネルギーを全開にした悍ましい殺気によって。
「「「「「「「「…っ!!!!!」」」」」」」」
それは、戦場にいる全ての者が容易に感じ取れる程の殺気であった。
殺気に触れ嘔吐する者、身体中から汗が噴き出る者、意識を刈り取られ卒倒する者も中にはいた。
『こんなタイミングで…最悪だわ…』
ハイエルフのヴィールは、殺気を放った者を即座に特定し、最悪の事態に頭を抱えた。
「なんだァ…この殺気は…エルフ共か…!?」
ブルゾンは強烈な殺気に、怒りを込めて練り上げた魔力と詠唱を全て破棄し身構える。彼が瞬時に怒りを忘れ詠唱を止めるほどの殺気。
「い…や、ハイエルフですらあの顔…恐らく違う者…でしょう」
「な…何なのだ…魔王様と同じ程の力を……持った者がいるのか…」
魔族3人は冷や汗を掻きながら、突然の状況に困惑しながらも推察をする。
「ヴ、ヴィール様よ。久方にこんな殺気を感じたのじゃが…魔王でも来ておるのか…?」
『いいえ、魔王では無いわ。』
「こんな殺気…一体誰が…」
「………ね、ねえ。ヴィラ、貴女大丈夫…?」
同じくエルフの上位者達も、強烈な殺気に晒されながらも状況の把握に努めていた。ただ、1人を除いて。
「ここここ…こ…殺…され……る………」
その1人、ヴィラはこの瞬間、自身が命の危機に晒されている事を本能で感じていた。
先程まで巡らせていた思考や焦燥は完全に消え失せ、地面に膝と手をつきガタガタと震えていた。
粘着的で執拗に絡みつくような悍ましい殺気は、ヴィラ本人に向けられていたのだ。他の者が感じたものはその余波である。
長い長い時を生きる彼女が、殺気にあてられただけにも関わらず、自力で立つ事すら出来ず、目の焦点も合わず、身体はガタガタと震え、全身から汗が吹き出し、吐き気を催す。
この状況であれば、いっそのこと殺してくれた方が楽であった。そう思えるほどの殺気。
『………彼だわ。』
ヴィールは全てを察し、そして数十年前の悪夢のが再び起こってしまったと悟った。最悪の想定が予定通りになってしまった事。そして自身の魔力が回復していない現状からアールヴの終末を想定する。魔力が全開であればアレを止める望みはあったというのに。魔力切れの気怠さの中で歯噛みする。
「彼ってまさか…!」
「彼とは一体、誰の事を言っておるんじゃ…」
「闇の解放者がね…試練を受けてたのよぉ…」
「なんじゃと!?」
その瞬間、ハスカータもヴィールと同じく最悪の結末に辿り着く。彼女もまた数十年前の当事者なのだから。
「皆…様…逃げて……くだ……」
ヴィラの言葉は、突如聞こえた「バリィィイイン!!!」と何かが割れる大き過ぎる音にまたもかき消され、そして次の瞬間その場に居た者は、殺気の圧によって地面に膝を付ける事になった。
「「「「!?!!?」」」」
殺気にあてられ、立ち上がる事ができず吹き出す汗を拭う事すら出来ず、四つん這いでなっているヴィラの目の前にそれはいつの間にか存在していた。
この一瞬の間に突如現れた黒い物体ーーいや、凶悪な殺気を振り撒いている元凶だと一瞬にして理解できる存在。
先程まで感じていた殺気よりも遥かに明確で濃密で重厚な殺気を辺りに撒き散らしているその存在。それはエルフの上位者達が地面に膝を付いてしまう程の圧力。
漆黒の闇を纏い、数刻程前までの様子とは明らかに異変があるその人物は、四つん這いになっているヴィラの首元を真っ黒な腕が掴み、自分の眼前へと持ち上げた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃいいい!!ああああああああああ…………ご、ごごご…ごめ…ごめ……ななさ……!!!」
膨大な殺気に晒されてもはや精神崩壊寸前のヴィラは黒い存在を確かめるように視線を漂わせ、目と目が合うと、生暖かい液体が足を伝い滴り落ち、地面に染みを作りながらも生存本能のままに謝罪の言葉を出そうとするが、恐怖で口がうまく回らない。
そんなヴィラの様子を暫く観察していた黒い存在は、ヴィラの言葉を謝罪と受け取ったのだろうか、半ば満足した様子で口を半月の様に歪め、遂に言葉を紡ぐ。
『エルフを皆殺しにするか、俺の一発を受け入れるか選べよ』
そう言った黒い存在は、真っ黒に染まった中指をヴィラの目の前に立てたのだった。
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