第131話 - ティアの強化イベント -
日曜夜に投稿しようと思って、気がつけば月曜になってました。
冒頭より少しフウガ視点です。
ティアと名乗った少女。これが、ティアとフウガの出会いだった。
「ふむ……ティアか。正直に申す。お主は剣の才がある。」
「!…なら」
とりあえずティアと名乗る少女のファーストネームには触れずに、数刻の間で思い知ってしまった剣の才能を褒めるフウガ。
「しかし、我が剣をむざむざ人殺しの道具にされるのは拙者としては許容できぬ」
「ん…」
「この村の者は貧しくとも暗い顔一つせず、明るく生きておる。しかし、黙々と木剣を振るっていたお主の顔には何やら暗いものを感じ、気になって構ってしまったゆえ…。どうだろうか、拙者と少し話をせぬか?」
「ん?」
それから陽が沈むまでの長い間、少女と話す事ができた。
最初はぽつりぽつりと単語だけで話すゆえ、読解が難しかった。が、次第に慣れてきたのか会話にもなった。
拙者も聞いてばかりではござらん。
己の事を包み隠さず、この少女に話したのだ。
それは、『いいか?信用して貰いたい相手にはな、嘘偽りを言わないのはもちろんだが、まずは自分を知って貰う事が大事だ。その点、お前は聞き専で自分の事話さねーだろ?知らん奴からしたら胡散臭くて信用されねえつーの!』と亡き友から教わった事であり、今でも拙者が大事にしている事である。
己の事を包み隠さず話した後より、この少女と会話する事ができた気がするのだ。それは心を許して貰えたような気がするゆえ、やはり友には感謝しなくてはなるまい。
「他の世界から来た勇者?」
「うむ。拙者だけではござらんが、友も勇者と呼ばれておったな」
「魔王倒した人?」
「うむ、とは言っても拙者と友らと、でだがな。」
「ん。すごい」
「友が凄かったゆえのこと」
「んん。獣人と人族の戦争を終わらせたの?」
「うむ。元は魔王が人族と獣人を謀りおってな。それを見抜いた事もさることながら、悪を打ち倒した友らは流石の一言であったな。」
「ん。ありがとう」
「なに、お主に感謝される事はしておらんよ。」
「私、獣人と人族の亜人だから。両方が戦争してるの良い気はしない」
「ふむ。拙者はこの世界の者よりその辺りは鈍感なのだが、良いのか?その…拙者に亜人と打ち明けても」
この世界に来て半世紀以上。亜人の境遇は多少なりに耳に入っている。にも関わらずこの少女は簡単に拙者へ打ち明けた。
「ん。何となく良い気がする」
「そうか。すまぬが拙者は疎い。見たところお主は人の子に見えるが…」
亜人とやらは殆ど人の形をしているが、その特徴的な耳や尻尾があると聞いたことがあり、フウガの視線は少女の頭や後ろを気にしていた。
「ん。魔法で隠してる。」
「なるほど。魔力が扱えるのか」
「ん、殆どないけど。それに氣も使える」
「ほう。」
元々この世界の住人でないフウガは、亜人に対して嫌悪感は持ち合わせていない。
それどころか、数の少ない亜人を見る事も無かった為、むしろ良い意味で好奇心が湧いていたほどだ。
それにティアの魔力も氣も使えるという話は、美味しい何処取りにも聞こえた。
「できれば…で良いのだが、後ほど耳を触らせてはくれぬか…?」
「…………えっち」
時代は違えどやはり日本人の性か。はたまた友である彼の影響かは分からないが、フウガもまた獣耳に興味があったのだ。
そんな事など知らないティアは、いきなり何言い出してんだこの老人は。と言わんばかりに冷たく言い放ち、フウガをしょんぼりさせるのであった。
「………それで、お主の名前。まさかとは思うが仇討ちというのは…」
「ん、獣王。」
「何故…父親ではないのか?」
「ん…」
「まあ良い。言いたく無い事の一つや二つ誰にでもあ…」
「私を産んだお母さんはあの男に捨てられた」
「捨てられた?」
「戦争が終わってお母さんが嫁いだ。でも、未だに亜人は受け入れられない。だから、私を産んだ時、お母さんも追い出された。病気だったのに」
「それで…お主の母は…」
「一昨年死んだ。ずっと病気と戦いながら私を匿って各地を転々として一人で育ててくれた」
この頃にはティアは俯いて大粒の涙を流していた。
「大変でござったな。」
フウガは、泣いているその少女を優しく抱きしめてやる。
「うゔ…だがらお母さんを見殺じにじだあの男に復讐じだい」
「そうかそうか。」
老人が少女を抱きしめて頭を撫でるその姿は、側から見れば泣きじゃくる孫をあやす祖父のようだった。
フウガはゆっくりとティアの頭を撫でながら思考する。
(はて…確か戦争の時の獣王は引退し、既に隠居済み。獣人とはいえ、終戦時はかなり高齢だったと記憶しているゆえ、この少女が言うのは…獣王を継いだ息子か。アレはなかなかに聡く強かった。幼き頃から戦闘のセンスは抜群。氣とやらの扱いは、成人の頃には先代をも凌駕する程と聞き及ぶ。日々鍛錬を欠かさず行うほど、強さを第一にしていた漢。それでいて考え方が先進的。少女の年齢を考えればちょうど頃合いにも合致いたすが、亜人だからと言って幼な子と病気の妻とを打ち捨てるような狭量の持ち主ではなかったはずなのだが…)
「すまぬが……父親の名は《ウラノス・エクロン》か?」
「ん。」
「ふむ…」
(やはりそうであったか。しかし、あの御仁に何かあったのであるか?……ふむ。とはいえ、今の拙者には分かるまい。そんな事より、あの御仁は獣王にも上り詰めた漢。仇討ちなど簡単に出来るものではない。それどころか強者と闘う事を欲する性格ゆえ、打ち捨てた娘が強くなって戦いを挑んだらどれほど面白い事か。いや、打ち捨てたとは決まってはおらぬが)
ならば己がする事は決まりであろう。と、ニヤリと笑みを浮かべたフウガ。老い先短い残りの人生の終着点を決めた瞬間だった。
「あの御仁は強い。」
「ん。強くなる」
「ふむ…。我が剣、桜月流は辛いからと言って途中で投げ出す事は許さぬぞ」
「!!」
「それでも良ければ拙者の寿命が尽きるまで、剣を、技を、その全てを授けよう」
「ん!!ありがとう」
こうして2人の師弟は誕生し、それからのフウガは村に居座り、毎日のようにティアの面倒を見た。数年後フウガが体調を崩し、死期を悟った末に突然村を出るまで。
ーーーーー
「ふむ。それで修行の途中に体調を崩し、死期を悟った小僧は妾との約束を果たすべくアールヴまで来たのち亡くなったということじゃな。」
「ん。」
「すまぬな。彼奴の事じゃ、別れをするのが辛かったから、何も言わず出て行ったのじゃろう。」
「ん。」
「して、フウガが居なくなった後、お主はどうしたんじゃ?」
「しばらくして、村に住んでた女の子と一緒に冒険者を始めた。」
そう言ったティアの、何か苦々しい思い出があるような表情を見たベイラは「ああ、冒険の途中で悲しい事があったのだろう」と邪推するが、実際は冒険の途中で出来た彼氏をその女に取られて、一緒に組んでいたパーティを抜けたのが真実である。
「なるほどのう。それで"今の"パーティメンバーと共に此処へ来たという訳じゃな。」
ハスカータも何やら察したようだった。
「パーティメンバーの1人が魔族に封印魔法にかけられてしまったのよねぇ〜」
「ん。」
「魔族め。何時の時代も碌なことをせぬな。」
「本当よねぇ〜」
フウガの昔話と、最期について話した一向。ティアは自身のこれまでの事を話し、後日、アールヴではない、離れた地にあるという師匠が眠る墓に連れて行ってもらう約束をした。
「師匠との約束って」
「死ぬ時は妾の元で。とな」
「ん?」
何故?と言う顔のティアに対して、助け舟を出したのはベイラだった。
「最愛の人の元で亡くなる事が、エルフにとってのしきたりなのよぉ〜」
「ん…?」
「つまり、デキてたのよ〜」
「こら、やめんか。孫弟子の前で」
普段の余裕の表情が曇るほど焦ったように言うハスカータ。
「あら〜いいじゃないの。事実なんだし〜」
「それはそうじゃが。…恥ずかしいからのぅ」
初めて見る、頬を赤らめた塩らしいハスカータの表情。師匠とデキてたこともそうだが、大師匠もそういう顔をするのかと思うティア。
「おっほん!それでじゃ。お主、技はどこまで習った?」
「ん、型は一通り。奥義は夢想一閃まで」
「ふむ。小僧め中途半端なところで…」
「仕方ない」
「……まあ、そう言っては小僧に申し訳ないかのぅ。」
長寿のエルフとは違い、転生者とは言えフウガは人族。寿命や病気には勝てまい。と諦めた顔のハスカータ。
「ん。」
「しかし、幸い…というか何というか…じゃな」
浮かない声色のハスカータは苦笑いな顔をしていた。
「ん?」
「夢想一閃より先はフウガには教えられんかったはずじゃ」
「ん!?」
「ふむ…………」
ティアの疑問には答えず、腕を組み目を瞑って考える仕草を見せるハスカータ。どうしてかその答えを待つティア。少しの間その状態が続き、そしてハスカータはゆっくりと目を開ける。
「ティア。そなた、"その先"を覚えたいか?」
「ん!」
元よりそのつもり、と言わんばかりの即答。ハスカータから師匠の話を聞く前より師匠の意志を、流派を受け継ぐ覚悟は既に出来ている。むしろこの後、こちらから願うつもりですらいた。
「それが…死ぬ可能性があってもか…?」
「ん!?」
何故、いきなり生死を賭けるのか。それほどに修行が過酷なのか。と目を丸くするティア。
「まずじゃが、夢想一閃より先の奥義は3つ存在する。〈鏡花水月〉〈皓月千里〉そして、最終奥義〈桜花月詠〉。」
「おお。」
未だ見ぬ奥義の名前だけで、今日一のテンションの高さを更新したティア。当然の如く、目はキラッキラしている。
「その全てにおいて何らかの魔法が絡む事になるゆえ、必然的に魔力が必要になるのじゃ。」
「ん……」
テンションは急転直下。キラキラ輝いた目はスーッとハイライトが失われ始めてしまった。
その原因は、魔力。獣人には無く、人族や魔族には普通にあるもの。人族の血を継いだ亜人であるティアも魔力は微量ながら持ち合わせている。
だが、その微量な魔力は亜人の特徴である耳や尻尾を隠す為、必要魔力の少ない変身魔法にしか使えない程だ。もっともアールヴでは亜人に対して差別や偏見がないため解除している。
生まれ持った増やす事のできない魔力。
「などと考えてはおらぬか?」
「ん。」
次の奥義は魔力が必要になると聞いた途端から俯き出し、表情に陰りが見えたティアだったが、考えている事をマルっと言い当てられ、驚きながらもハスカータに向き直る。
「あるにはあるのじゃ。魔力を飛躍的に伸ばす魔法が。。」
「ん!?」
そんな魔法がある…!?それで変身魔法程度にしか使えない自身の魔力が飛躍的に増えるならば…!
喜色の表情を浮かべたティアに、割り込んだベイラが話を折る。
「その魔法はね〜その人の許容量を遥かに超える魔力を流し込んで、無理矢理魔力を定着させる方法なのよ〜」
「ん?」
「うまくいけば、定着した分の魔力はその人のモノ。でも上手く定着できなければ〜」
「許容量に耐え切れぬ身体は、膨張した魔力に内側から破壊され、やがて崩壊する。つまり死ぬのじゃ。それも生優しい死に方ではない。とてつもない痛みが襲うからのう。」
悲痛なハスカータの表情は、「出来ればやりたくないが、方法はあるから一応話した」と物語っていた。過去にその魔法を行使し、失敗した事もあるのだろう。
「ただし、それは人族や魔族において、の話しじゃ。魔力を生成する器官がきちんと備わっておる種族じゃな。当然、この魔法は獣人には使えぬ。そして、お主じゃが…」
「ん。」
人族と獣人族のハーフ。実際のところ、ティアの体内には魔力を生成する器官と、氣を練る為の器官が両方存在する。
いいとこ取りのハイブリッド。フウガが思ったように、そう思う者はいるだろう。
しかし、両方の器官が存在するという事はつまり、それぞれの許容量が少ないという事。そしてそれが、致命的なデメリットになっている。
人族より魔力はかなり少なく、獣人よりも氣を練れる量がかなり少ない。
それがティアの身体なのだ。
「それでなくとも、魔力を定着する際に死ぬほどの痛みが全身を襲う。無理矢理に定着させるからのう。じゃが恐らく、この魔法を使い上手くゆけば、お主の魔素を魔力へと変換する器官は肥大し、今よりも魔力を得る事になろう。」
「やって」
「そうじゃのう…妾も流石に死ぬかもしれぬ魔法を使ってまで…」
「は?」
「え?」
「ん?」
迷った様子も無しに彼女は即答し、力強くこう続けた。
「師匠の意志を継ぐ覚悟はとっくにしてある」
その目は絶対に譲れない何かを決めた者の目だった。
「お主……」
「もちろん死ぬのは怖い。痛いのも嫌。でもあの男に復讐するまで死ねない。でも今のままじゃきっと勝てない。ベルゼにもリエルにもいつまで経っても全然追いつけないから。ならば私は、ちーとも、師匠の遺した技も両方手に入れる。」
「ベルゼとリエルが何奴かは知らぬが…お主…死ぬかもしれぬのじゃぞ?」
「ん。でも大丈夫な気がする。」
「まて、何を根拠に…」
「ハスカータは師匠の師匠。大師匠を信じない弟子がいるものか」
それはハスカータが自身に言った「又弟子の事を信じぬ師匠がいるものか」に被せた言葉。言い放った彼女は渾身のドヤ顔だったが、瞳には迷いが無かった。
もちろん、幼き頃に定めた決意を成し遂げるまで当然彼女は死ぬつもりはない。いくら剣を振るっても成長は緩やかで、パーティメンバーに追いつけない現状。そしてそれに嫉妬する日々。そんな自分に本気で嫌気がさしていた。
それならば、どこかで一気にパワーアップしたいと常々思っている所はあった。
それに師匠が遺した技や、想いを継ぐのは当然自分の役目だと思っていて、自分がこの命を賭けてもやりたい事なのだ。
師匠の師匠。彼女はそれを託すに値する。というのがティアの本音であった。重ねて言うがティアは死ぬ気など毛頭ない。自身の崇拝していた師匠。その師匠が失敗する訳などないと信じきっているティア。
「お主…まったく…」
「さすが貴女のお弟子さんねえ〜。50年ぶりに"無詠唱の白鬼"の本気が見れるわね〜!」
呆れた顔のハスカータと、納得顔のベイラである。
「ん?」
「妾は元々魔法使いじゃからな。」
「そうよ〜!しかもこの世界に3人しかいない無詠唱使いなのよお〜!」
「ん…?」
確かに世間一般ではそう言われてが、1人はなんとパーティメンバーのリエル、1人はガヤート王国の宮廷魔法使い、もう1人は何処かの国の魔法使い長だったと記憶していたティア。
まさか大師匠がその人だとは。剣士である師匠の師匠だというのに。と、もはや師匠らへの信仰心が加速するが、同時にベルゼも魔法を使う時は詠唱していない事に疑問を持つものの、その思考を中断させるかのように会話は続く。
「まあ、魔法より刀の方が面白いからここ50年は殆ど使っておらぬがのう。」
「たかだか50年くらい問題ないでしょう〜?」
2人の会話に、つくづくエルフは時間感覚が自分とズレていると思うティアだった。
「ティアよ。お主が本気で望むならば、妾も本気で応えるつもりじゃが…失敗する可能性も高い。更に言えばお主は亜人。仮に成功したとて、妾達程には魔力は増えぬはずじゃ。奥義に使い得る魔力量にすら足りぬ可能性もある。しかも死ぬほどの苦痛に耐えてじゃ。……それでも…やるか?」
「ん。お願いします。」
ハスカータの声は震えていた気がする。ティアを案じてくれている事が重々伝わってくる。だが、ティアとて、いつまで剣を振る事ができるか分からない。長くないかもしれない剣士人生。現状のままでは、ベルゼやリエルと肩を並べられるイメージですら到底見えてこない。
そんな状態で、あの男に勝てるとでも?答えは否だろう。
ならば、せっかく得たこの機会。掴まない訳にはいかないだろう。
そう意気込むティアであったが、彼女は短絡的な、また、衝動的な一面を持ち合わせているが故に、リスクよりもリターンを優先した即断即決であった。
「……良かろう。久しぶりに本気を出すとしようかの。」
弟子を思って、渋っていたハスカータも心を決め、ティアに向き合うのだった。
本日もご覧頂きありがとうございました。
次話もよろしくお願いします。




