第130話 - 過去のお話 -
祝30万PV!!!
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○本話は過去の回想話です。
*本話は会話が少ないのと、既存の話と食い違う部分が出てくるかもしれませんが、その都度修正いたします。
*50年前の冒険者「ルキフェル」の名前を「ルキフェルト」へと変更統一致します。徐々に修正致しますので、それまで未修正の部分は読者の皆様の暖かい脳内変換でお読み頂けると幸いです。
今から遡ること数十年ほど前。
人族、獣人族、魔族の三つ巴で戦争が起こっていた時代があった。
その内実は当時の魔王が裏で糸を引き、人族と獣人族の間に戦争を起こさせ、消耗した双方を潰し、大陸を制覇しようと企んでいた。という、ありがちなお話が、実際にあったそうだ。
これは現在だから分かっている事だが、当時混乱の渦中にいた者たちはそんな事など知る由もなく、人族と獣人族は戦争によって疲弊していった。
これは後に、伝説の冒険者となる《ルキフェルト》が勇者として異世界より召喚され、魔王を討伐した後、終戦と同時に明らかになった事である。
獣人は、体内に魔力を生成する器官が存在しないため魔法が使えないものの、身体能力は人族よりも遥かに勝り、更に繁殖能力が優れ、数の暴力で戦場を蹂躙し、人族は徐々に形勢が不利になる。
人族の多くが犠牲になり、戦場に出られる数は減る。そして、戦争に参加出来る数は急激に増える事が無い。新しい命が生まれ、戦争に駆り出される年齢になるまで少なくとも十数年はかかる。それを待っていてはとっくに王国は滅びてしまう。
歴戦の猛者達や、王国騎士、名だたる冒険者までもが戦場に導入されるも、近接戦で圧倒的な武力を誇る獣人族を前に、彼らは次々に倒れ、戦力が日に日に低下し、人々は戦争に疲弊していた。
その状況を打破する為に、当時のガヤート王国宮廷魔法使い長を筆頭に、他の世界から優れた人族を引っ張ってくる事を画策し、結果それは成功する。
ことの始まりは、もともと他の世界から何らかの理由でこの世界にやって来る者の存在にスポットライトが当たった事だった。
当時にも少ないながら、そういう者達が存在した。
数こそ少ないものの、何かしらの強力な恩恵を持ち、この世界の人族よりも優れていた為、どうにかこちらから呼び出そうという考えを持った者達がいた。それが当時の宮廷魔法使い長らだった。
当時、歴代最高と名高い宮廷魔法使い長パディンをはじめ、優秀な宮廷魔導士達の功績により、「勇者召喚」は成功していった。
「勇者召喚」された異世界人と呼ばれる者達は、何らかの理由により死亡してこの世界へ転生する者、学校と呼ばれる教育機関のクラスごと転移させられる事が多かったそうだ。
しかし、強い力を持ってこの世界に来てしまった者たちの多くは、この世界に順応できず、訓練や戦闘で亡くなる者や、逃げ出す者も少なくなかった。
それは異世界の歴史において、比較的平和な時代から召喚された者が多く、戦いや、命のやり取りが眼前で行われるこの世界とはかけ離れた環境で育ってきた者達ゆえの事だった。
《ルキフェルト》も「勇者召喚」によりこの世界へと来た一人だった。彼は学校のクラスメイトと一緒に喚ばれた。
勇者として召喚されたものの、勇者どうしで紆余曲折あり、勇者パーティを離脱した彼は、自身の力と旅中で出会った者らと協力し、結果、魔王を討伐するに至る。
結果的に見ると魔王は討伐したものの、《ルキフェルト》は離反した勇者であり、王国が召喚した勇者にあらずと言うことで「勇者としての功績」は残らなかった。
それは彼が名声を拒んだ事もあってである。
その代わり、当時彼が所属していた冒険者ギルドでは現代にも残る伝説となったが、その話はまたの機会に。
そんな伝説の冒険者達は、ルキフェルトが離反した際、同時に離反した1名を除いてこの世界の者で構成され、それぞれが後に、崇め奉られるほどの実力者となった。
彼は、ルキフェルトと一緒に離反した1人だった。
本名は桜月風雅。彼はルキフェルトと同時に喚ばれた者であるが、異なる時代から来た者だった。
勇者召喚には珍しく、平和な時代の異世界ではなく、それ以前の時代から喚ばれた若い者で、刀を片手にやってきた。後から分かる事だが、刀で殺り合った結果、死亡しこの世界に来たとの事だった。
ルキフェルトが同時に喚ばれた他の勇者達と紆余曲折あった際に、フウガは一緒に離反しその後、ルキフェルトが死亡とされるまで付き従った。
武士らしく、凪のように物静かだったフウガは、ルキフェルトパーティの一員として約50年ほど前、初めてアールヴへと訪れた。
ルキフェルトの、「この世界の隅々まで見てみたい」という冒険心から、パーティメンバー世界中を連れ回した中の1つだった。
そこで、当時アールヴ国防魔法使いを束ねる長として君臨していた《無詠唱の白鬼》ことハスカータに刀を教え、代わりに暇つぶしで極めていた剣を教わった。
自称武士であるフウガが刀を置き、剣を持ったのはこの時からだった。曰く、剣の方が自分のスタイルに合っていた、との事である。そんな理由で命よりも重い刀を置くのは良いのか武士よ。
《ルキフェルト》が死亡とされた数年後、フウガは年齢を理由に冒険者を引退。その後、単身でこの広い世界を旅を続けた。まるで冒険心半ばで夢絶たれたルキフェルトの意思を継ぐかのように。
フウガは、様々な国を巡り、沢山の人々と出会った。人族の街で獣人が営む宿屋、愛想の良い女将が営む料理の美味い食事処、路地で暴漢に襲われていた少女も助けた。
魔物が出没するようになった村に立ち寄った際には討伐を。重税に苦しむ人々を見たら圧政を敷く領主に直談判を。飢餓に苦しんでいた農村では、成長の早い食物の苗を植えた。
そして晩年、彼が旅の途中に訪れたのは獣人国にほど近い人族の小さな村。
そこは何もない小さな集落であり、王都に住むような贅沢な暮らしとはかけ離れていたが、住人達は暗い顔などしてはいなかった。明日に希望を抱いて、その日を生きていた。
その村の長曰く。
「生活はギリギリでも飢える程ではない。着る物も寝る場所も最低限はあるしのう。ワシらの宝はこの子供達じゃ。この子らの成長を見るのが村の者の生きがいなのじゃ。」
その言葉通り、眼前では小さな子から大きな子供まで仲良く遊ぶ姿があった。仲間はずれや、いじめなどは見受けられない。大人達は畑仕事の合間にその姿を微笑ましく眺めている。
そんな中フウガは、輪の中に入らず一人黙々と木剣を振り回している少女に気がつく。
一見、ひたすらに剣の修行をしているようにも見えるが、フウガはその少女の表情から内面に暗い影を見た。
この村では逆に珍しく、暫く目で追ってしまう。
世界中を渡り歩いている彼は、現地で出会った者に対して必要以上に歩み寄る事なかった。
親しい者との別れは、もう味わいたくなかったからだ。
だが、その時彼が少女の振るう木剣に、自身の剣の鞘を合わせたのは、普段ならば絶対にする事はない、ほんの出来心だった。
木剣を振るった瞬間、突如目の前に現れた老人が、鞘で受ける。少女はその一瞬のうちに起きた出来事に驚きながらも、面白がってひたすらフウガに木剣を振る。だが、年老いたとあっても元伝説の冒険者パーティの剣士。当然一撃も貰うことはない。
少女は果敢に木剣を振り回すが、全く当たらない。次第に苛ついた様子で更に振り回すも、それでも一切当たることはない。
「剣は無闇に手先だけで振るうものではござらん。身体の全てを使い一振りに集中するのだ。」
突然老人からの注意。
剣の素人、ましてや素振りをしている所にいきなり割って入ってきた知らない者にそんな事を言われ、少しムッとした表情の幼子。
「むう」
「力が入りすぎている。剣は優しく包み込むように軽く握るのだ。」
「ん」
「ほれ、足がふらついているぞ。」
「ん」
「また手先だけで振っている。」
「ん」
「腰を落とせ。下半身から力を作るのだ。」
「ん」
「その力を上半身、腕に、手先に伝えるのだ。」
「ん」
「ふむ。大振りも悪くないが、小さく振るうのと混ぜてみるが良い。」
「身体全身に気を巡らせるのだ。一振り一振りに集中を。」
「ん」
「呼吸を整えるのだ。」
「ふぅ」
「きちんと相手の隙を狙うのだ。」
「ん」
「狙った所にきちんと打ち込めるようになってきたな。」
「ん!」
「ふむ。剣筋が良くなってきたな。どれ、面白いか?」
「ん!!」
「そうかそうか。なら良か…ん?お主の顔どこかで似た…」
「ん。剣もっと教えて」
「何?」
「強くなりたい」
「ほう。何故強さを求めるのだ?」
「…殺す」
「ん?聞こえぬ。はっきり物を言うのだ。」
「……私は、強くなって、お母さんをあんな目に合わせたあの男を殺したい!!」
いきなりの告白。
それは絶叫に近い、少女の願いだった。
何かの聞き間違いかと思ったが、その目は冗談ではなく、覚悟の決まった目。少女の見た目から察するに5.6歳の少女。そんな年頃の少女が望む願いは母親の敵討ち。
当然、フウガは困惑した。その年頃の少女が言う願いでは到底無いからだ。
自身の人生も終盤に差し掛かっている。今まで数多の者に剣や刀を教えた。
だが、この目の前にいる少女はその誰よりも飲み込みが早い事は、ほんの少しの立ち合いだけで分かってしまった。いや、あのエルフの物好き婆とは同等かもしれないが。
ド素人の少女がだ。少し注意するとすぐさま少女なりに修正してきた。それも丁寧な指導ではなく、ダメな所を淡々と言っただけで。正直異常な飲み込みの早さ。あとどの位指導したら、十分に剣を振れるようになるのか。
あのたった数刻だけの立ち合いだけでそれが分かってしまったのだ。
正直、面白い。と老いたフウガは年甲斐もなく躍るものを感じた。感じてしまったのだ。
だが、少女が願うのは仇討ち。つまり人を殺すという事だ。
自身が剣を教えて一番面白いと思った人材だ。我が流派の後継者として育てるのも一興と思えど、わざわざ人殺しをさせるために自身の剣を授けるのは、些か躊躇いがある。
もちろん己は魔物や魔族、人族ですら斬ってきた。だが、彼女は幼い女。
理由はどうあれ、幼くとも人殺しともなればお縄につくことになる。万が一、上手い事逃げ仰せたとてお尋ね者になるのは間違いない。
業を背負って生きるにはあまりに幼すぎる。
それでも、やはり己の武士としての血も騒いでいる。教えるべきか辞めておくべきか…
「拙者は桜月風雅。皆からはフウガと呼ばれておる。お主、名は?」
迷った末に、とりあえず会話をしてみる事にした。人殺しを切望する理由も知れるかもしれない。
もしかしたら、どうにか諭して己の後継者として育てる事も叶うやもしれぬと。
だが、フウガは名前を聞いたことに少々後悔することになる。少女が名乗った名前には何処かで聞いた覚えのあるワードがあり、後にフウガは頭を悩ませる事になったからだ。
「ティア。ティアーナ・エクロン。」
と、彼女はそう名乗ったのだった。
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