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夢にまで見た異世界でのんびり冒険者をやりたい人生だった  作者: りるお
第3章 - 上級冒険者編 -
118/142

第118話 - ミハエルの過去 -

ご無沙汰してます。皆様お元気でしょうか…

投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。

本業の合間を縫って少しずつ書き溜めたのを投稿します。


マジでコロナ気をつけてくださいね…ほんとに。



久しぶりすぎるので前話どんなだったよ?ってお話なんですけど、


エリクサーの素材求めてエルフの森「アールヴ」に向かう→ベルゼとティアちょっと喧嘩→少し遡ってベルゼが急に頑張りだしたとこの説明←今ここ


って感じです。

長くなってしまったので次話にも引っ張ります。

早くアールヴ編描きたーい。




 さらに時は戻り、魔族撃退後セレスタンの宿で目を覚ましたベルゼが、封印魔法によってリエルが目を覚さない事に絶望していた頃まで遡る。




 

 目覚めから数日後、動けるまでに回復したベルゼ。リエルの半ば喪失に涙は枯れ、意識も呆然に彼女の眠るベッドの前で座り尽くす毎日。

 見兼ねたティアが時々外へと連れ出すものの、目立った変化もない。


 この時ほどパーティとして辛い事はなかった。そしてリエルを、もちろん自分も含めたパーティメンバーを、彼がどれほど大切にしているか改めて思い知ったと後の彼女は語る。




 そんなある日、転機はいきなり訪れる。

 あの日アルスローから救出してくれたミハエルが宿を訪ねてきたのだ。



 宮廷魔法使い達の長である彼が、わざわざセレスタンの宿へと赴いた理由は、アルスローならびにエリースの調査報告、王都にて魔族の討伐、撃退の賞賛及び王城で開かれる授賞式への出席要請としていた。そう、表向きは。



 彼らの様子が気がかりではなかった。



 立場上、一介の冒険者などを気にかける事はない…が、強大な魔族の1体を討伐、更にもう1体を撃退する程の力を持つ冒険者を慰労するのは建前としては十分。


 そう自身に言い聞かせながら宿屋を訪ねたが、やはり内心はとても穏やかなものではなかった。







ーーーーー

 

 遠目からでも分かる、アルスローの街が戦火に包まれる様子。

 救難信号を受けてから全速力で到達したものの、既に以前の面影はまるでない。



 例の上級魔族の手に落ち、街にいたであろう人間は全て見るも無惨に殺害された後。


 そう誰しもが思っていた矢先、一段と荒れていた街の中心で倒れている3人と細切れの肉片を発見。


 肉片は酷いの一言に尽きたが、部分部分から例の魔族と断定する事が出来た。冒険者については、見覚えのある者達に驚き、早急に保護。

 

 とはいえ、一番軽症の女の子でさえ出血多量で重症。例の彼はHP、MP共に著しく低く、生命の危機に陥っていた。そして一番無事でいて欲しかった彼女。走り寄ってきた部下が残酷に告げる。




 「ミハエル様!最後の女は完全に意識がありません!!」


「なっ!!?」



 すぐさま彼女の元へと向かう。

 傷や痣だらけの彼女は死んだように眠り、目を覚さない。

 すぐさま状態を解析魔法で調べる。宮廷魔法使い師の彼ともなれば、解析に長くかからない。



「そんな…魔法が…?この魔法は…」


「ミハエル様!?」



突如膝から崩れ落ちたミハエルに驚き、部下が慌てて声をかける。





 永遠の微睡夢エターナル・スランバー

 それは禁忌に指定された封印魔法のはず。

 

 自分の前任である元宮廷魔法使い長のパディンが魔族に寝返る際に禁書類を丸ごと盗みだした事件は王宮の人々の記憶に古くはない。


 ミハエルは深い絶望に突き落とされた。





 もう二度と(・・・・・)彼女をこんな目に合わせないと誓ったのにだ。




 "あの日"王都にいる自分にわざわざ会いに来た彼女へ「万が一相対する事があれば気をつけた方がいい。」などと甘い事を言うべきではなかった。戦うな。全力で逃げろ。そう言うべきだった。



 悔やんでも悔やみきれない。

 自身の甘さに地面を殴る拳に力が入る。




「魔法使い長…大丈夫ですか…?」


「ああ…」


 力なく答えるミハエル。既に拳から地面へと血が滴っている。



「この者達は冒険者だ…セレスタンに拠点を置いていると言っていた…誰か送り届けてもらえないか…」


「はっ!私の部下に送らせます!」


「すまんな。残った者で周囲の捜索だ。指揮はお前が執れ。」


「かしこまりました!」


「助かる。すまんが、俺は少し外させてもらう。」


「私らだけで問題ありません!…どうか気を落とさないで下さい」


「ああ。ありがとう。」



 部下は彼女らとの関係など知る由もない。だが、明らかに豹変した自分を見て知り合いだと察してくれたのだろう。気が利いて助かる。虚ながらにそう思ったミハエルだった。




ーーーーー





 分かっていた事ではあった。

 宿屋を訪ねて、目を覚さない彼女を再び見るのはどう考えても酷である…が、ここまで来たのだからとリエルの部屋の扉を開ける。


 

 部屋を開けると、すぐに飛び込んでくる光景。


 簡素な部屋には必要な物しか無く、彼女らしい性格は昔から変わっていない。

 

 彼女は大声で呼んだら起きそうなほど普通に眠っているように見えた。白い肌、柔らかな日差しに照らされた自分と同じ金色の髪。

 そしてそのベッドに寄りかかり蹲る人影。



「失礼…するよ」


「………」



 蹲る彼から返答はない。

 気にせず隣へと、そして眠るような彼女を見る。



 目から溢れるものを感じる。

 視界はぼやけ、もはや彼女すらはっりきと見えない。


 涙などいつぶりだろうか。いや、はっきり覚えているのは"あの日"以来だろう。



 再び彼女の事で涙する日が来るとは思いもしなかった。



 様々な感情と思いが交差し、数分なのか数時間なのか分からない時間が過ぎていった。


 しばらく感情の整理に時間を費やしだが、蹲る者は未だ一切微動だにしない。




「.......してくれ」


 突如、蹲る者から微かに聞こえた声は鼻声でよく聞きとれなかった。


「すまない…なんと言った?」


「俺を…殺してくれ」


「………。」



 驚きはしなかった。むしろその悲壮感は、そう言われてもおかしくないほど部屋に充満している。


 だが、はいそうですかと首を刎ねるのもおかしな話だが、鼻声は続ける。



「俺は…守れなかった…リエルを、一番大事な人を…守れないどころか守られてしまった…」


「………」


「無理だ…リエルのいない世界なんて、俺には生きられない…いっそ殺してくれ…たのむ…」



 悲壮感が紡ぐ言葉は本当の絶望を伴い彼に投げかけられる。彼が冗談ではなく本気で生に絶望しいているのは十二分に伝わった。だが同時にミハエルは、強い苛立ちを覚えた。



「情け無い。人一人くらい守れなかった程度で己を殺してくれだと?そんなに死にたければ自ら命を絶てばよかろう。」


「…無理なんだ…何度も試したけどアレ(・・)が邪魔をするんだ…」



 なにを訳の分からない事を。

 大方、死にたがりは自ら命を絶つ事が怖いから他人に縋り、求める。

 信じて彼女を託した男はその程度の小物だったのかと。心底苛立ち、同時にこの男に失望したのだった。



「お前ならできるだろ…たのむ…」



 我慢の限界だった。

 未だ彼女のベッドに突っ伏し、見窄らしく縋る鼻声に歩み寄る



「彼女に守られておきながら!彼女を救いたいと思わないのか!貴様ほど力を持っている者が簡単に諦めるなど、お前にとって彼女はそんな程度だったのか!!」


「………」


「その上!彼女を遺し俺に殺せと言うのか!俺がどんな気持ちで彼女をお前に託したか!懇意にしていた他の者たちを差し置いて!貴様は自分だけ楽になろうとしてるのだぞ!!!」



 溜まり溜まっていた感情の全てを目の前の蹲る人影にぶつける



「…禁忌指定の魔法で解除方法も分からない…」



 普段の姿からは全く想像できないほど、堪忍袋が完全にブチぎれたミハエルはついに蹲る人影に手を伸ばし、纏っている服の肩付近を掴む。



「貴様まだ…!!!」



この期に及んで!!と、ついに我慢の限界を越えた右手が彼の右頬に直撃する……ことはなかった。

 ミハエルの右フックが直撃する前、無いはずの左手の代わりに黒い靄がパンチを受け止めたのだ。


 そして顔面を殴ろうと正面に向けた彼の眼は、右眼だけ金色に輝いている事に気がつく。


 以前王都で邂逅した時、彼の瞳は赤みがかった茶色だったはず。だが目の前の、死んだ目をしている男の右の瞳は金色に輝いている。


 それに俺のパンチを防いだこの黒い()は一体…この男が魔族(アガレス)との闘いで左手を失っているのは自分でも確認している。

 魔法…?いや、スキルか?だが、失った左手(・・・・・)を模した形状で出力するスキル…?



「この靄のせいで…自分でも死ねないんだ…」


「なんだと…どういう事だ…?」



 ミハエルの疑問の答えは、辿々しくも彼の口から紡がれる事になる。



曰く、右眼は魔族に奪われた自身の刀によって刺された

曰く、左腕も同様に腕から斬られてしまった。

曰く、身を呈して守ってくれた彼女の喪失がトリガーとなり今までとは違う謎の力によって目は修復したが左腕は使う事が無かったのか修復されず。

曰く、右眼を開いている間はHP(体力)が削られるが、最後の1で止まってしまう。

曰く、黒い靄は自分で制御できず勝手に出てくる時と全く出てこない時がある。




「まさかそのような魔眼の力が…」


「今回開眼したって訳ではないんだ。その…少し前から開眼してはいだんだけど…」


「なんだ?」


 先ほどまでの虚無感は若干落ち着いてはきたが、相変わらず歯切れが悪い…いや、少し躊躇っているかのような



「魔眼を使ってる時…というか通常時は他の能力なんだが…感情が…大きく動くと俺が俺じゃなくなるんだ…」


「どういう事だ?」


 意味がわからない。俺が俺じゃなくなる?


 彼は朧げながら開眼した時から、先の魔族を討伐した時の事を話し始めた。




「なるほど…負の感情が極まると内なるお前が身体の主導権を握る…と。」


「…意識はあるけど乗っ取られるとは少し違う…明らかに制御出来ていなかった…とティアに聞いた…それに…あの魔族がこの眼を…邪眼と言ってた」


「邪眼…?」



 この世に生を受け、宮廷魔法使い長にまで上り詰めた(ミハエル)だが、邪眼という言葉は初耳だ。もちろんそう言った書物なども見た事がない。


 そもそもこんな状態の人間が嘘をつくとは到底考えられない。と、するならば戦闘中の出来事でハイになってたからか…?

 もし彼の言う事が本当であるならば、ただの魔眼とは異なる。なにか特殊な状態なのか、それが邪眼とやら故の事なのか。

 そもそも魔眼持ちすらこの世には多くないが、流石に潜在意識に身体の支配権を奪われるなど、前代未聞のことだ。

 



「どうしたものか…」


「……………」


「先に言うがお前を殺すつもりは無い。」


「………ああ」



 正直面倒だな、とミハエルは思った。

 話が本当であるならば、キレたら(・・・・)魔族をも屠る力を有するが、暴発する可能性も捨てきれない。正体不明の謎の力。だが…我々(・・)が上手く扱えるならば…。いや、そんな事を考えるよりも彼女(・・)の事だ。そう、己は何の為にこの生(・・・)を過ごしているんだ。



 しばらくの間、様々な葛藤と、考えを巡らせたミハエルはようやく口を開く。



「眼の事は他言するな。常にソレなら隠しておけ。それとこれから話す事も絶対に他言無用だ。」



 つまり隠匿。王宮にこの話を持ち帰れば、この者はおろか、下手をすれば国を挙げた厄介事になるのは間違いない。


 だがミハエルは、自身の立場を考慮したら到底許されない行為、自身の目的に彼を使う…いや、協力してもらう事に覚悟を決めたのだった。




 

本日もご覧頂きありがとうございます。

とりあえず次話分まではストックがあるので近々投稿できるかと思いますのでよろしくお願いします。

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