第117話 - 胎動 -
ご無沙汰してます。
昨年末の投稿から早2ヶ月経ってしまいました…
年内にもう1話〜とか言ってましたが、本業の方がやはり落ち着かなく無理でした。申し訳ありません。
次話以降については後書きに記させて頂きます。
○久しぶりの皆様へ
少し遡ってから本話を読んで頂けたらと思います。
○初見の方へ
筆者はコロナ禍の多忙で異世界転生しかねませんが、途中でこの物語を投げ出す事はしませんので、よろしければ気長にお付き合いください。
「ここ最近のベルゼは腑抜けてる。今戦ったら私でも勝てる」
"収納"にストックしてある食事の中から選んだ肉料理とサンドイッチを食べながらティアは言う。
ティアが突拍子も無い事を言うのはよくある事だ。さらに言えば、語彙が少ない為、たまに会話が全く読めない時もある。
だが、今回は思い当たる節しかない。
「いや、腑抜けては…」
腑抜けては……いるかもな。
この半年間ひたすらにリエルにかけられた封印魔法の解除方法を探してきた。
この大陸を隅から隅まで飛び回り、高位の魔法についても調べたし、根拠のない噂話にすら飛びついた。
だが、結果は…という訳だ。そんな中、サラから有力な情報を得たが、問題はその素材だ。
世界樹の雫
サラ曰く、初めに万能薬を作って以来、不作続きで世界樹の雫が入手できていないとの事だった。
アールヴにたどり着けたとしても、肝心の雫が入手できなければ何の意味も無い。ましてや、サラほどの者が入手できていないという事は、俺達が簡単に入手するのは難しいだろう。そう考えると…心が沈む。
それだけではない。ここ半年間、朝から晩まで飛び回っても解決方法が分からず、ベルゼの精神は既に疲弊しているのだ。
アールヴへ行けたとして、世界樹の雫が手に入るか分からない。言わばこれが最後の頼みなのだが、もしダメだったら。
そもそもサラの事は信用できない。エリクサーが作れたとてリエルが本当に目醒める保証はない…リエルが…リエルが二度と目醒めないかもしれない…そんな事を考えると…俺は……
前世を含めて、リエルと出会うまで生きる意味を見出せず、のらりくらりと生きてきた。最後に勤めた職場のクソ上司や、別れた元カノがきっかけで他人に対して必要以上に距離を近づかないと決めた。
それが今ではどうだ?他人と本心で話す事も、他人と笑い合う事も増えた。
それは全て彼女が教えてくれた事だ。彼女の笑顔に惹かれ、"悲願"を手伝うと決めた。今、守られてしまった不甲斐なさは嫌というほど考えた。そして彼女を救いたいと思っている。
だが…世界樹の雫が手に入らなければ……
脳内で浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、纏まらない考え。
「そういうとこ」
パンの最後の一欠片を口に放り込みながらティア言った。
「腑抜けてる。頼りない。いつまでうじうじしてるの。本当にリエルを助ける気はあるの」
「あるに決まってるだろ。」
こうして半年間各地を飛び回ってきたというのに。さすがに心外だと思い、語尾が少し強くなってしまった。
「今のベルゼは弱気すぎる。どうせ、もしダメだったら〜とか考えてる」
「そりゃ考えるだろ!ずっと探してきてやっと見つけた解除方法に使う素材が長い間入手困難なら!」
これまで募っていた不安を吐き出してしまった。
ティアにあたるように怒声をぶつけてしまい、慌てて謝ろうとティアの方を見る。
「…立って構えて」
「は?」
そんなティアは既に立ち上がって距離をあける為に、こちらに背を向けながら歩いているが、その背中からは普段より怒気を含んだ声が届いた。
ティアが突拍子が無い事を言うのはよくある。が、今のは全く分からん。
少し距離を取ったティアはこちらへと振り向くと、エターナルイデアに手をかける。
「怒鳴ったのは悪かった。剣にかける手を納めてくれないか。」
おいおい、こんな時になんでお前と斬り合わなきゃいけないんだよ。飯食ったら早くアールヴに行かなきゃ行けないんだろ。
「構えないならこちらからいく」
問答無用。そう言っている顔。
いやいや、待てよ。めっちゃ氣練ってるじゃん。ガチじゃん。殺す気なの?流石に冗談じゃ済まないよそれ!
その居合いの構え、アレじゃん!ガチもガチじゃん!!
「ティア待っ」
「夢想一閃改」
有無を言わさないティアは、練った氣を解放する。
まさか本当に攻撃してくるとは思ってなかった。いやそれを言うのは完全に後の祭り。完全に油断していた!
瞬時に"収納"から黒刀を取り出し構える…ここまで0.1秒。ティアの動きは視えている。色々考えていたせいで反応は遅れたがまだ間に合う。
"夢想一閃"は前に見たが、単純に超高速の居合い。練った氣を瞬時に開放して爆発的な初動を生み出し、その勢いは瞬く間に最高速度を叩き出す。獣人ならではのパワープレイ。
最高速に到達したティアは、その勢いのまま柄に手をかけた右手を振り抜く。だが右手の角度、振り抜かれた剣筋の軌道に合わせて黒刀をあわせる。これで夢想一閃は防げる。
「な!?」
そう思っていたのは浅はかだったかもしれない。
ティアは右手で抜剣した直後、それまで隠していた左手で鞘を抜き、右手の剣と違う軌道で振るってきたのだ。
眼では視えてる。だが、今の俺には対応ができないっ!
魔族アガレスとの戦闘で失った左手。その空になった袖を見る余裕はない。
せめて油断していなければ身体強化で防御力を上げて、衝撃を殺すこともできたかもしれない。つーか鞘とはいえ絶対痛いだろ。下手すると頭吹き飛ぶんじゃないかこれ。え、流石に仲間の頭を吹き飛ばすような事はしないよな?
あーあ。ティアの言った通り負けだ。
迫り来る鞘を前にそんな事を思う。もはや抵抗はしない。術がないのだから。せめて頭は吹き飛ばないでほしいなと考えるベルゼ。
「……見損なった」
それはティアにとって最高速の別れの言葉だった。彼女は一切勢いを殺さず鞘を振り抜く。
(ドクン…)
一瞬時が止まる感覚。
見損なった?
なんで俺が見損なわれなきゃいけないんだ。
リエルの解決策だって必要に探し回ってるじゃないか。
だが、この状況で負けるのは間違いない……いや。
俺はまた負けるのか?リエルを守れず負け散らかして、また負けるのか?
アイツとの約束も守れずまた地に伏せるのか?
何度も何度も殺されてたまるかよ。
負ける?ふざけんじゃねえ!
例えそれが仲間であっても許容できないだろ!!
腑抜けるな!リエルを守る為に生きるんだろ!!!
刹那の攻防。
その一瞬、僅かに聞こえた言葉がトリガーとなる。
最高速で振り抜かれた鞘はそのままベルゼの左側頭部に直撃する……事はなかった。
「.....一閃じゃないじゃんか。」
はらりと落ちる右眼の眼帯。鞘とはいえ、超高速で振られた風圧により眼帯を結んでいた紐が解けるほどだった。
「ん。やっぱりベルゼはやればできる子」
満足そうに呟くティアは、ベルゼの金色に輝く右眼を真っ直ぐに捉える。
頭を吹き飛ばす勢いで振られた鞘は"あの時"見た黒い靄の左手に受け止められていた。
「…完全に頭吹き飛ばすつもりだったろ。」
「ん。ベルゼなら大丈夫」
「いやいや!俺人間だからね!!頭無くなったら死ぬよね!?」
「そしたらその右眼もらう」
「お前なぁ!」
ティアに先ほどまでの怒気はない。あれは一体なんだったんだ…と思うベルゼ。
今はもう冗談を言う普段通りのティアだったからだ。
「……クロから聞いた。魔族と戦う前にベルゼ死にかけたって」
「ん…?」
クロから?魔族の前に死にかけた?
またコイツは突拍子もない事を……ん?
「ああ…グリフォンの時か。」
「ん。クロがあんなに動揺するところ初めて見た。それほど心配してた」
あの時の事は"疾風の風"のメンバーには口止めしてたけど…心配をかけるかもしれないから言わないでほしかった。おやつ暫く抜くか。
しょんぼり尻尾を項垂れる姿は想像に容易い。
「うーん。確かに死んでたかもしれ…」
「私達を遺して勝手に死ぬのは許さない」
「お、おう…」
「あと好きな女がいるのに腑抜けるのも許さない」
「......ああ。そうだな。」
流石に本気レベルの攻防をする必要があったのかは分からないが、不甲斐ない俺を奮い立たせようとした…のか。
確かに弱気になりすぎてた。物事は最後まで諦めたらダメだ…。これは感謝しかないな。
「それにしても、鞘でパーティメンバーの頭を吹き飛ばそうとするのはどうかと思うぞ」
「お腹に穴が空いても死なないなら頭が無くなっても大丈夫。…試してみる?」
「普通に遠慮するわ!!」
「なら早くアールヴへ行く」
「ちょ、おまえ!切り替え早!」
何か確信があるわけではない。だが、きっとベルゼはもう大丈夫。そんな予感を胸にティアは目的地へと彼を急かすのだった。
本日もご覧頂きありがとうございました。
まだ暫く(というかコロナが落ち着かない限り)、このような投稿頻度になってしまうかと思いますが、気長にお待ち頂ければと思います。
一応次話の構成はある程度進んでいるので、3月中に投稿したい所存です…
皆様もお身体に気をつけながら気長にお待ちください。。




