第114話 - 次の目的地 -
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ブックマークや高評価も増え力になってます。
予定より長くなってしまいましたが、本投稿にて第二章完結です。
第三章も随時投稿していきます。
第三章以降については活動報告に少し記載させて頂こうと思いますので、そちらをご覧ください。
転機が訪れたのはそんな冬の終わり、春の日差しが差し込むような日だった。
その日は午前中から封印魔法の解除方法を知っている者がいると話に聞き、大陸の端に位置する大きくはない教国の司祭を訪ねていたのだが、実際話を聞くと邪神の封印を解く方法を知っているという与太話だった。
「今は邪神なんかに構ってられないんだわな」
フライで戻ってる最中、あの司祭の何かに取り憑かれたような顔を思い出して、げんなりしながらセレスタンへと帰ったのだった。
春の暖かい日差しがさす昼下がり。セレスタンへと帰って来たベルゼは、眠るリエルを横目に窓の外に見える緑を眺めていた。
『…!主!!』
何かを察したのか、いきなりクロがベルゼの影から出現し、天狐のカノミンも光の狭間から出てリエルを守るように構える。
「....ああ。」と答えたベルゼは探知魔法に久しぶりに引っ掛かったその色から、奴がここへ向かって来ているのを察した。
コンコンと鳴る部屋のドア。
殺気と威圧を出し鳴らされたノックに応えた。
「おいおい。久しぶりに会ったというのに、大層なお出迎えじゃないか?」
部屋の外にも漏れ出ているであろう殺気と威圧を物ともせず、何事もなかったかのように入室してきた彼女は飄々としている。
「まったく。君の殺気は宿にいる者すら怯えさせてしまうぞ。」
スレンダーな体型に腰の高さまで伸びた綺麗な髪。彼女は約1年ほど前、ベルゼを研究対象にしようとしていたSランク冒険者である、サラだった。
「…ん?お前…」
「そう殺気立つな。私が研究に没頭している間に数少ない友人が倒れたと聞いて来たんだ。君を捕まえて研究しようとは今はしていないよ。安心したまえ。」
そうは言っても、以前捕らえられた記憶があるため、そう簡単に警戒を解くことはしない。それに、コイツには気になる事がある。
「…ふむ。永遠の微睡夢か。久しいな。」
以前のことなど全く気にしない素振りを見せながら、寝ているリエルのベッドへと歩き出し、顎に手をやりながら数瞬考えたサラが言い放ったその一言に、ベルゼは脳天を撃ち抜かれた気持ちになった。
「お前…リエルにかけられた魔法を知ってるのか…?」
「ああ、知っているとも。なにせこの魔法は私が開発したんだからな。」
「なっ!!!?」
あろう事か、目の前にいるサラから思ってもみなかった言葉が飛び出して来たのだ。それも何事もないかのようにサラっと。
嘘でも言ってるんじゃないか?と、普段なら少なくとも疑ったであろうが、今は、心にゆとりが無いせいか、一縷の希望と共に一瞬にして殺意が湧いた。お前がこんな魔法を開発しなければリエルは…!と。
『落ち着くのだ主。』
「やあワンコ君。そちらも久しいな。それに天狐は初めましてだね。」
クロの肉球がベルゼのおでこに押しつけられる。その途端、何故か急に落ち着き取り戻す事ができたベルゼはサラの言葉に違和感を覚えた。
「クロ、コイツに会った事あるの?」
「私を監視していただろう?こうやって対面するのは初めてだよ。」
『我が影縫いの中にいたというのに察知できたというのか?』
ちなみにクロの言葉は、パーティを組んでないサラには聞こえていないはずである。
クロの驚嘆の声を聞いて内心驚きはしたが、Sランクともなれば魔物の気配にも敏感だろうし、そのくらい出来てもおかしくはないか。と判断したベルゼは話を続ける。
「この封印魔法はかなり昔に禁忌魔法に指定されたって聞いたけど?お前今何歳なんだよ」
かなり昔に禁忌魔法に指定された。というのはベルゼが便宜的に言っているのだが、実際は約50年程前に禁忌指定されていた。
それ以前にこの魔法を作ったということは、50歳以上になるはずだが、どう見てもこの目の前のサラは、20代後半〜30代前半だろう。やはり嘘だろう。
「そう易々とレディに年齢を聞くものではないぞ。だがまあ…確かにこの見た目から判断したら嘘でも言っていると思われても不思議ではない…か。ふむ。」
意味深な事を言うとサラはパチンと指を鳴らし、突然現れた1冊の本をベルゼに見せる。
「この書は、永遠の微睡夢を作り上げた時に記したものだ。魔法の詳細、必要な詠唱、魔力量…もちろん解除方法も載っている。今となっては死蔵なのだがな。」
「解除方法!!!」
その言葉を聞き、サラの言う事が真実であり、本当に彼女がこの魔法を作り、書に記したものであれば喉から手が出るほど欲しい。というか、彼女の言葉が真実か嘘か考える間もなく、書へと手は伸びていた。
「おっと。この書は禁忌にされて以来、出回っていたコピーの多くが焼却処分されてしまってね。おそらく残っているのは、この書と、他に1冊だけしかない貴重な物なのだ。それに禁忌指定の書を一般人にそう易々と渡す訳にはいかないな。」
ベルゼの伸びた手から遠ざけるように本を引く。「ちっ」と聞こえたベルゼの舌打ちは抑える気は無かったのだろう。
「なにが…何が望みなんだ」
「話が早くて助かる…が。つい先日、8ヶ月かかった研究も終わってしまってね。これと言って興味がある物が無いのだよ今はね。」
つくづくイライラさせてくれる。この女に対してベルゼが思う事はそれだけだ。
「なら残るもう1冊を」
「ああ、それはやめておきたまえ。何せ残る1冊は、魔族に寝返った元宮廷魔法使い長のパディンが持って行ってしまったからね」
ベルゼの言葉に被せるように放たれた詰みのお知らせ。パディンという名は初めて聞いたが、ミハエルの前の宮廷魔法使い長は、突然ある日魔族側に寝返ったというのは聞いた事があった。しかも現在は魔王の側近にまでなっているという噂もある。
上級魔族2人にあそこまでボコられ、リエルは現在も意識が戻らない現状。魔王の側近とやらに挑んでも、今の状態ではかなり不利な戦いになるだろう。それなら今、目の前にあるこの書をどうにかして手に入れた方が早いだろう。
「ああ、一応念の為に言っておくが、私を殺して奪い取るとかはやめてくれよ。この手が力んで書が燃えてしまうかもしれないだろうからな。」
釘を刺すかのようなサラの言葉。苦虫を噛み潰したような顔で思考を巡らせたベルゼは、はあ。と大きなため息の後に諦めた顔で呟く。
「……どうしても解除方法が知りたい。その本を譲ってくれないか。」
コイツに頭を下げるのは癪だが、今はそうも言っていられない。この半年、様々な情報や噂を頼りに王国、大陸中を飛び回っても手に入らなかった解除の方法。不確かではあるが、それが今、目の前にある。
リエルの事を思えば、自分を研究材料にしようとした者に頭を下げる事くらいどうと言う事はなかった。
ニタァとい嫌な笑みを浮かべたサラは、わざとらしく考える素振りを見せた後、ベルゼにとっては拍子抜けの言葉をいう。
「本当に今は興味を惹かれるものがないんだ。すまないがね。だが、この書は君に譲ろう。そのかわり、研究に君が必要になった時に、力を貸す。それでどうだろう?」
そう言って本を差し出して来たサラに少々驚きながら、何か裏があるんだろ。と思ったベルゼだが、素直に本を受け取る。
「本の信憑性については、私の研究者としての全てを賭けても良い。その代わり、時が来た時、必ず私の研究に協力してくれたまえよ?」
「…ああ。」
無理矢理にでも自分を研究対象にしようとしていたサラがそこまで言うなら、この書は本物なのでは…?
「よろしい。解除方法については26ページ目に書いてある。」
そう言われて、受け取った本をすぐさまめくり始める。確かに新しい紙ではないし、インクもところどころ掠れている。書かれてから50年以上経ってると言われても不思議ではない年季の入り方。古い書物独特の匂い。そんな事を考えながらも指定された26ページを開き、すぐさま読み始める。
それをニヤニヤしながら眺めるサラ。そしてそんなサラを気持ち悪そうな目で見るクロとカノミン。
「………世界樹の雫」
言われた26ページには封印の解除方法が記載されていた。
それは、テンプレ通りエルフの森に聳える1本の大樹 "世界樹" から採る事ができる神秘の液体が、封印されている精神をこじ開ける鍵となる。と記されおり、次の目的地が決定した瞬間だった。
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