第113話 - 色の無い世界 -
お待たせしました。
本日より投稿再開致します。
物語において重要な修正を行いましたので、前話をもう一度読んで頂きたく思います。
さてこの度、本小説は1周年を迎える事ができました。
何も考えず、自分の物語を書いてみたいと素人がスタートさせてしまった本小説ですが、皆様のおかげでなんとか続ける事ができました。本当にありがとうございます。
コロナの影響で本職の方が多忙を極めていて、更新速度は遅くなってしまっていますが、投げ出す事なく最後まで書く所存ですので、宜しければ今後ともお付き合い頂けたらと思います。
彼はセレスタンの中央にある噴水でぼんやりと景色を眺めていた。
夕方の賑やかな街の喧騒。
街の中心にある噴水広場。
ベンチに腰掛けた彼は何を見る訳でもなく、その生気が失われた目で色が失われた世界をただぼんやりと眺めていた。
彼を見る通行人も気にかけるような顔をする者はいるが声はかけない。
「............。」
ーーーーー
「君ー!逃げてー!」
「何がパーティよ!助けてよ!」
「またかって何よ!いい加減に私と組みなさいよ!」
「だっで…!にんげんじゃがでないりゅうなんだよ…べるぜがじんじゃっだらやだ!!」
「私ね、前にも言ったけどベルゼとずっと一緒にいたいの。助けてもらったからって訳じゃないけど、ベルゼはかけがえのない人なの。私はベルゼのことが好き。ベルゼと一緒に冒険したいし、どこまででもついていくよ。」
「愛してる」
思い出すのは彼女と過ごしてきた日々。
彼女と共に歩んできた道は彼にとって、彩度の高い毎日だった。
何故彼女があんな目に合わなきゃいけないのか
何故俺は自分が強いと自惚れていたのだろう
何故彼女は俺なんかの為に盾になったのか
何故俺は魔族に勝てると思っていたのか
何故彼女を守る事ができなかったのか
それが何度も浮かんでは消える。
そんな思考をする程に彼は病んでいた。
彼女が隣にいない色褪せた日々は価値のない毎日だった。
ーーーーー
「ベルゼ。陽が落ちる。帰ろう」
傾いた日差しに重なりながら声をかける青髪の少女。彼を心配してここへ迎えに来るのはもう3日も続いていた。
「………うん」
生気ない虚な目で頷くと、彼女に腕を掴まれながら宿へと帰っていく。
♢
ベルゼはアルスロー壊滅から2週間ほど眠った後、目を覚ました。
そこはよく知っている天井。現在拠点を置いているセレスタンの宿だった。
彼は目を覚ました後もしばらく目を瞑って、働いていない頭で状況を整理していた。身体が上手く動かせない事、何故セレスタンにいるのか。リエルやティア、それにあの魔族達にアルスローの事。
だが、全く頭の働いていない頭で考えても答えは出ず、諦めて休む事にした。
その後、彼の様子を見に来るのが日課になっていたティアに目醒めた事が伝わり、少し騒ぎになった。
ティアはアルスローで覚醒したベルゼを目の当たりにし、内心恐怖を覚えていた。今、ベッドで横たわっているベルゼは大丈夫なのか。と不安になりながらも接し始めたところ、ベルゼはいつものノリで「そうか…貴様…見てしまったのか」と冗談で凄んでしまったばかりに、怯えたティアと騒ぎになってしまったのだ。
その後、ベルゼの影から現れたクロと共に、今は通常モードだということと、誤解を解きながらアレについて話した。
グリフォンの時に起こった事、そして魔族を相手にした時のアレの事を、恐る恐るティアとクロに話したが、1人と1匹の反応は予想と正反対のものだった。
自分の内にいるアレ。自身では否定したいが、紛れもなく自分自身である。自分ですらあの破壊衝動に恐怖を覚える。そんな自分に対して他人が嫌悪感を示さない訳が無いと思っていた。
グリフォンの時は大体鮮明に覚えていて、あの後は自分でも気持ち悪かったのをよく覚えているが、今回は、リエルの事で抑えられなかったのか、殆どの記憶はないのだが…。
だが、クロはあれくらい早く飼いならす位になってもらわねば困るといった反応。クロのこの感覚にベルゼは理解し難かったが、闇属性の最上位に位置する魔物ならではの感覚かと思い、何も言わなかった。
対して、人間に限りなく近い感覚のティアは、話を聞くにつれ、青い顔をして色々言いたそうではあったが、しばらく考えた後、息を整えると「天使だろうが悪魔だろうが、人間だろうが、貴方がベルゼという存在に変わりはない。ベルゼが内に何を飼っていようが、ベルゼは私たちのパーティメンバー」といい放ち、ベルゼはその言葉に心底救われる事となった。
以前、ティアが獣人と言う事を打ち明け、迷惑がかかるからと勝手にパーティーを抜けようとした際に、ベルゼが引き留めるために言った言葉に被せたようだ。言った後のティアは少しドヤ顔になっているようにも見えた。
自分の事を話し、アレについてはこれから調べていく事を告げた後、気になっていたリエルの事を勇気を出して聞いてみた。
ティアは先ほどよりも時間をかけて色々考えたが、やはりベルゼは知るべきだろうと考え、ベルゼに肩を貸しながらリエルの部屋を訪れた。
ベッドに横たわっている彼女は、死んではいない。だが、精神を封印する封印呪文にかかった状態であること、その封印の解除方法については、ティアがこの2週間あちこちを走り回って聞き、それらしき解除方法を試しても無駄だったこと、ベルゼも寝たきりだった為、現状で出来る事は一通りやったと聞かされた。
リエルの部屋を訪れた時から目に見えて顔色が悪くなっていたベルゼは、ティアの話を聞くにつれ、どんどん顔面蒼白になり、少し一人にしてくれと言い残し、その後リエルのベッドから離れる事はなかった。
♢
あのベルゼが食事もろくに摂らず、街の噴水広場でぼーっと景色を眺めている毎日となっていたある日、まさかの来客が訪れる。
それは宮殿魔法使い長のミハエルだった。
彼こそが、アルスローで倒れていた3人を救助し、セレスタンへと運ばせた者だった。
彼はリエルのそばで悲しみに暮れているベルゼに悲痛な顔を向ける。以前話した時に感じられた、「は?宮廷魔法使い長?だからなんだよ?」といった生意気な態度は見る影も無く、恐らくここ数日ろくに食事や睡眠を摂っていないだろうと容易に推測できるほど、憔悴しきった顔をしていた。
以前より上級魔族の活動が見られ、戦いに備えて準備していた彼とその部下である宮廷魔法使い、それに騎士たち。
アルスローの北西に位置するエリースから王都へと救難信号が出された時には、いよいよかと意気込んだ。
通常馬車で7日はかかる道のりを、早馬を使い捨て3日でエリースの最寄りの街であり、西部最大の都市アルスローの付近まで到達した。
ミハエルは予期していたが、アルスローまでもが魔族の手に落ちていた。遠くからでも分かる大規模な火災。城壁は所々に崩壊の後が見られる。遠くに見えていた時には、何やら魔法も放たれていたのを確認している。
臨戦態勢でアルスローへと乗り込んだ一団は、その凄惨なアルスローの中で倒れていた3人と、かろうじて判断がついた細切れになっていた魔族を発見。
こうして3人の冒険者は保護され、王都の城門でリエルとの会話でセレスタンを拠点にしているという事を把握していた為、セレスタンのギルドへと身柄が届けられたのだった。
それで今日、宮廷魔法使い達の長である彼がわざわざセレスタンの宿へと赴いた理由は、アルスローならびにエリースの調査報告、王都にて魔族の討伐、撃退の賞賛及び王城で開かれる授賞式への出席要請だった。
ベルゼより先に目覚めていたティアは、回復魔法によりすでに怪我も治っていた為、騎士たちからの聞き取り調査を受けていた。
聞き取り調査の内容とアルスローでの状況から、討伐及び撃退はこの者たちの手によって為されたと判断、既に王都へとその情報はもたらされ、王が一考した結果、付近に在留していたミハエルが王命により通達しにきた、というわけだった。
ティアは聞き取り調査で、ベルゼの転移魔法で飛んで来たのではなく、たまたま依頼でアルスローの近くに来ていて、魔族に応戦したと回答したのは言うまでもない。
授賞式については褒美が貰える事と、たくさんの貴族が見る中での事なので、大貴族に取り込りこんで貰える可能性が高いと話をされた。褒美の内容については現在検討中との事だ。
だが、ベルゼは当然のように丁重にお断りした。
王都で開かれる授賞式への列席は王命であるため実質強制参加であり、一般的な冒険者からしたら、大変名誉かつその後の人生に大きく影響がある為、通常は何が何でも出席する。ただ、極めて稀ではあるが断る場合もある。
それは、広い国土ゆえに王都へとたどり着けない場合、なんらかの職務で遠方にいる冒険者が泣く泣く断る場合、そして、怪我や既に死亡してしまっていて物理的に行く事ができない場合のパターンだ。
建前ではあるがベルゼは、怪我とパーティメンバーが病床に伏せている理由で出席要請を断り、褒美等も辞退した。
出席者は代表だけでも問題ないと、ミハエルには言われ、怪我も魔力もほぼ回復したベルゼだけでも十分なのだが、そんな所に行ってしまってはベルゼにとって不都合な未来しか見えない。彼はのんびり冒険者をやっていたいのだ。
そもそもこの世界では誰かの下で働くことはしたくなかった。人柄に惹かれ、気を許したアルノルトならばと仮契約を結んでいたが、彼が死んでしまった今、魔族撃退の功績を作ったベルゼ達を王都の他の貴族に新たに取りこみたいと思う可能性は十分にあり、完全に前世のイメージだが、欲のまみれた貴族ばかりで、アルノルト以外に心を許せる貴族はいないだろうと考えているし、実際のところその通りなのだった。
そんな面倒に巻き込まれるくらいなら、既に遅くなってしまってはいるが、底まで沈んだ気持ちを無理矢理にでも奮い立たせて、すぐさまリエルの封印魔法解除に動くべきであるという思いがかなり強い。
そんな思惑を察したのかは分からないが、ミハエルは特に何をいう訳でもなくあっさりと引き下がった。
そして、最後に彼の要望で部下とティアを退出させた後しばらくベルゼと2人きりで話した後、王都へと帰還していった。
その次の日からベルゼは、昨日までとは別人かのようになった。
目には生気が戻り、色の無い世界で必死に生きようとしていた。全ては彼女のために。
また、意識が回復してからまともに食事を摂っていなかった反動からか、食堂のおばちゃんが悲鳴を上げる程度には食欲も見られた。
ベルゼは最初にティアが調べ検証した事を聞き、再考が必要な内容であればベルゼも試す。
次に新たに封印魔法について調べ、少しでも可能性があると思えば、バレないように転移したり、行った事のない所は、最寄りのポイントまで転移し、そこからこっそりフライで飛んで直接話を聞きに行く。
その封印魔法、永遠の微睡夢は、かなり昔に禁忌魔法に指定され、新たに覚える者はもちろん、その魔法について書された物はだんだんと減り、今では目にする事が限りなく減ってしまった。
当然、ベルゼも魔法書を取り揃えている店や図書館、魔法に精通している者にギルドを通して接触したり、念のため古美術を研究する者や、古い商店を営んでいる老齢な者達に話を聞いたものの、問題を解決できる情報は得られなかった。
そうこうしているうちにあっという間にアルスローが壊滅してから半年が経ってしまっていた。
その間に、国王から民へエリースとアルスローの壊滅と、魔族の襲来が伝えられていた。
恐怖に怯える者、討伐しようと息巻く者、またアルスローに知人がいた者は悲しんだ。様々な反応の後に、既に魔族は撃破されたと伝えると歓声が鳴り止まなかった。中には自分の実力を過信した者もやはり一定数いて、「次は俺が魔族を倒して名を上げてやる」と意気込んでいた。
結局、半年経ってもリエルにかけられた封印魔法を解く手立ては見つからず、それでもベルゼは王国内を出て、大陸の他の国を日夜飛び回っていた。
ティアも当初予定していた今年の獣人祭の参加を見送り、ベルゼ同様解除方法を探し、今年最後になるかもしれない雪の中を走り回っていた。
ご覧頂きありがとうございました。
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次話は近々投稿できる予定です。
どうぞ最後までお付き合い頂けたら幸いです。




