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Lasting Evolve World  作者: 夏瀬懐
1/1

チュートリアル



――Lasting Evolve World――


 「進化し続ける世界」と銘打たれ、世の中へと解き放たれたこのゲームは、所謂VRMMO――その中でも数多くの謎に包まれた作品だった。



 曰く、得体のしれない開発会社。

 この作品をを作り出したのは、無名な新規会社であり、作品に使われた技術の出処は不明。


 曰く、五感の完全再現。

 現実すら凌駕するとまで言われるほど圧倒的で鮮明な五感情報。


 曰く、ゲーム時間の加速。

 ゲームの内部では、現実世界の七倍ほどの速さで時が経つ。


 曰く、膨大なストーリー。

 ゲームで展開される物語は、


 一つ、人間に迫るほど高度に発達したAI

 ゲームに存在するNPCには、高性能な人工知能が搭載されており、人間と遜色ない会話が可能。


 何よりも異常なのは、他のゲームを圧倒するほどのクオリティを誇るこのゲームが何の宣伝もなく発売されたことであり、逆にこのゲームが世間に広まることの遅れた原因である。


 これは、まだ無名のオンラインゲームを購入し、進化し続ける世界を駆け抜ける物語である。



「やっちまったなぁ」


 何枚もあったはずの諭吉が消え、代わりに短いレシートの入った財布を見ながら溜息を吐く。


 数ヶ月前、偶然目にした懸賞に応募し、幸運にも当選したことで最新型のVRマシンが家に届いた――ここまでは順調だったのだ。


 問題が起こったのは、VRマシン用のソフトを探しに入った近場の家電販売店、そこで法外な値段で売られていた一つのソフトである。


 近年若者を中心に人気になりつつあるVRMMO、名前程度は聞いたことのあるようなゲームの中に、「それ」

は隠れていた。


 他のゲームが一万円弱で売られているのに対して五万円(税抜き)という、強気というより狂気に満ちた価格設定に、これまでの常識を嘲笑うような謳い文句。


 冷静に考えれば詐欺だとわかるソフト。しかし、懸賞に当選したことと、財布にあった大金は彼から判断力を奪った。


 我に返ったのは意気揚々と自宅に帰って本日得た戦果を確認し、財布のレシートを見たときだった。


「ま、後悔しても仕方ないさ」


 痛すぎる出費に顔を引きつらせながら、VRマシンを起動。


「レッツー、ゴー!」


 彼はゲームに逃避した。






「はろー。 LEWの世界へようこそ!」


 目が覚めたとき、そこにあったのは真っ白な空間と飛び跳ねるウサギっぽい少女だった。


「いやー、驚いたね。 このゲームが始まってから早十六時間、君が最初のプレイヤーさ! 何が悪かったんだろーね?」

「あの馬鹿げた価格だと思いますよ。 他のゲームの五倍の価格はやりすぎじゃないですか」


 けらけらと笑う少女に思わず苦笑いを返す。おかげでこちらは素寒貧ですよ。


「別にいっかー。 それよりどうも、サポートAIのサラでーす。 とれあえず、アバター名と見た目を決めちゃおっか」


 そう言うと、目の前に自分そっくりのキャラクターが表示される。キャラデザとか、ちょっと面倒だなー。


「あの、サラさん。 これ、おまかせってできますか?」

「うん、できるよー。 なにか希望があれば聞くけど」

「サラさんの趣味でお願いします」

「おっけー。 じゃあ、勝手に弄っちゃうから、どんな顔になるかはあとのお楽しみにしといてね。 あとは、種族、職業、初期スキルが選べるよ」


 楽しそうに笑う彼女から差し出されたのは、種族、職業、初期スキルの乗ったリスト。この中から種族と職業を一つ、初期スキルを五つ選べるらしいのだが。


「滅茶苦茶多いな……」


 種族、職業でさえ十数種類、スキルに至っては百を超えている。


「それが売りのゲームだからねー」


 確かにそのとおりではあるのだが、あまりにも数が多い。それに、ただ真面目に選ぶのも性に合わない。


「これ、ランダムってできますか?」

「正気? 確かにできるし、ランダムで選んだらレアなスキルが混じったりするけど……」

「こういうのって自分で選ぶのも楽しいですけど、ランダムで選んだやつでやってみるのも楽しいと思うんですよ、運任せっていうか」

「別にいいけど、知らないよ―、あとで後悔しても」


 忠告しているとは思えないほどニコニコしているサラさん。だが、心配ない。今日は、懸賞に当たる程度には運がいいのだ。きっとレア種族にレア職業、レアスキルだらけに違いない。


「それじゃあ、これからLEWの世界に転送するよ。 楽しんでね―!」


 嬉しそうに叫ぶサラさんの声が聞こえた途端、視界が白に塗りつぶされる。


 そして彼はLEW――進化し続ける世界に降り立った。




 初めての異邦人を送り出した後。真っ白な空間にウサギ少女――サラの叫び声が響く。


「あー! チュートリアル忘れたー!」

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