表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零王ーレイオウー  作者: ぐるこさみん
8/50

影の王

華永区の一角に佇む屋敷の一室で、太った男が醜く体液を撒き散らした状態で死んでいた。男の名前は内山篤志。数日前、江崎透から二人の隷族を購入した華族の男だった。

篤志を刺殺した隷族の、マリーと篤志に名付けられた少女は、裸の幼体を血化粧に染めたまま、膝を抱えて部屋の片隅に座っていた。

その姿は、篤志の趣味として寝室に数多く飾られている、マリー人形と瓜二つであり、悲しいか篤志の最後も、マリーを題材にした物語の冒頭と同じだった。

透という一人目の主人からマリーを買い取った篤志としては、二人目の主人が辿る運命を望んだのだろうが・・・。

「結果としては惨殺。当然よね。『マリーの物語』に、主人に関する注釈は一切なかったけど、こんな糞ブタの気色悪いロリコンデブが、主人なわけないものね」

「ロリじゃなくてペドだよエリー」

「あぁ。そうね。確かにそうだわね。奥手奥手のペ童貞だったわね。でも、卒業の前に卒業したペ童貞は、まだぺ童貞なわけで、ペドではない可能性もあるんじゃない?ねぇマリー」

篤志にエリーと名付けられた少女は、赤色のドレスを翻しながら、早口で講釈をたれた。

この部屋にはマリーに関するものばかりが置かれているのだが、隣の部屋はエリーに関するものばかりが置かれた、エリー専用の寝室となっていた。エリーは、『マリーの物語』において、マリーの妹に該当する。

「どうでもいいよね。そんな事」

「そうね。今はそんな事よりも、このお間抜けなブタを、どう処理するのかが重要だものね。剥製にするにも私の趣味には合わないし、焼いたら焼いたで臭そうだし、放置すればもっと臭いそう。死んでも迷惑掛けるとか、最低よね」

「庭に埋めれば、肥料にはなるよ」

「この溶液を吸った野菜や果物を、マリーは食べたいの?私は要らないわ」

「だったら、バラして袋に詰めてポイしかないよ」

「そうね。それしかなさそうね。ブタを解体する趣味はないけど、ゴミは小さく纏めて捨てないといけないものね」

篤志はマリーとエリーによって解体され、黒のポリ袋の中に捨てられた。

後は特定の場所にゴミとして出したなら、収集車がゴミ処理場へと運んでくれる。

この収集係が普通の華族なり、華族に使える隷族であったなら、懸念すべき事柄は増えるのだろうが、収集は透の息が掛かった者が行っている為、問題はなかった。

といっても、マリーとエリーはそこまで考えてなどいない。彼女達二人が考えているのは、大きな屋敷と華族としての地位を手に入れた、その後についてだった。

「あぁ、そういえば、首の皮を剥ぐのを忘れていたわね。でもいいわよね。あんなブタの皮を、一時的にとはいえ、首に巻かないといけないなんて、とても可哀想だもの。私はこのアクセサリーの持ち主を知らないけれど、こんなデブのやつだったらと、考えただけで気持ちが悪いもの」

「エリー、口が悪過ぎるよ」

「そう?そんな事ないと思うけど?勉強した通り、とても華族らしい話し方だと、私は思うわ」

「エリー。そういう事じゃないよ。私達は華族の勉強もしていなければ、この屋敷にデブなんていなかった。そして、皮のアクセサリーも身に付けてなんてないよ」

マリーはエリーを諭すように言うと、首に付けていた皮のアクセサリーを剥ぎ取った。

マリーとエリーは華族であり隷族ではない。

であれば、エリーの台詞は華族らしくない、とてもおかしな台詞となる。

「そうね。そうだったわね。この家は私達が生まれた時から住んでいる家で、今は両親も居なければ、デブも存在していない。私はどうやら、とてもおかしなことを口走ってしまっていたようね」

「あぁ、やっぱり少し訂正よ。両親はただ帰って来ないだけでいる。そしてデブで気持ち悪い兄も残念だけどやっぱりいる。私達はその妹で、箱入り娘。せっかく用意された設定はしっかり利用しないと駄目よ。エリー」

内山の家は中流華族として華永区に存在しているが、篤志の両親は上流華族として、皇帝領に在籍している。内山姓も捨てている為、篤志との交流はないに等しく、篤志は屋敷にあるものを売り捌く事で、生計を立てていた。

内山家に築かれた財は、一人の男が一生遊んで暮らしていくに十分であり、篤志が死んだ今、この財を今度はマリーとエリーの二人が食潰す事になる。

隷族の印が二人の首元にない以上、周囲に怪しまれる事はないだろうが、上流華族の親やごくつぶしのデブの存在は、しっかりと利用した方がいいというのが、マリーの考えだった。

兄に今まで閉じ込められていたが、兄が隷族を飼い始めた結果、ようやく自由になれたと、そういうもっともらしい設定を使えば、自由の幅はぐっと大きくなる。  

頭の良さも含めて透に選ばれたマリーは、静かに微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ