ユウとショータと選挙権
二人の少年が、太陽を背に歩いている。時刻的に、下校途中だろう。超重役出勤の可能性も無きにしもあらずだが。
「ショータ、俺らさ」
黒髪の少年が、真面目な顔で連れの茶髪に話題を切り出す。
「どうしたの」
ショータと呼ばれた茶髪の少年は、とりあえず相槌を打つ。黒髪の少年は、話を切り出すときはいつも真面目なような表情を浮かべている。いつも通りの事だ。
「俺らさ、ちゃんと選挙権もらったんだ。この権利を活かさないとな」
黒髪の視線は進行方向に向けられていた。今週末には衆議院議員解散総選挙が行われる。その選挙権の話題と捉えるのが妥当だろう。
「?」
だが、茶髪は黒髪の話の意図がつかめない。
「せっかくの権利、無駄にするわけにはいかない」
茶髪が話についてきていないことは気にせず、黒髪は話を続ける。
「え、でも僕ら十六だよね? 選挙権まだもらえないよね?」
ショータは思わず黒髪の方を見る。
「高校は同級生でも同い年とは限らないぞ」
黒髪はたしなめるような視線を茶髪に向ける。
「中学から同い年だから」
冷静なトーンで黒髪に突っ込みを入れる。
「そうだな」
黒髪は当たり前のように相槌を打つ。
「日本の選挙権がもらえるのは十八からだよ」
「知ってる」
ショータのさらなる追い込みにも動じはしない。
「ユウはなんの選挙権もらっちゃったのさ」
「アイドルかな。CDについているやつ?」
ユウは鞄を持ち替える。
「買ったの?」
「買ってない」
茶髪の問いかけにユウは即答した。
「なんの選挙権もらったの?」
茶髪はもう一度黒髪に問いかける。
「何ももらってなかった。もらったら頑張ろう」
黒髪は悪びれもせず答える。
毎日の帰り道は、こうしたくだらない会話に費やされていく。
END