残念だか、俺はここまでだ。後はたのむ。
よくあるおっさん物だけど主人公はおっさんではないです。(まだ29)
「すまないが、勇者、俺はパーティーを抜けさせてもらう」
騎士は、勇者にそう言った。勇者は、ただ、無言で肯いた。
「ちょっと、何いっているのよ! 戦力ダウンになるじゃない!」
反対したのは女聖騎士(賢者の能力も持つ)だ。彼女は、きっ! と騎士を睨みつけた。
「しかし、わかるだろう、レベル的にも戦力的にも俺はついていけなくなってきたんだ」
騎士は、三〇才近くに対し、他のメンバーは十代後半。成長率も基礎体力も違う。最近では、彼らについていけない事を感じていた。
騎士は、勿論それだけではないが、と、心の中で呟いた。
「そう。確かに」
女猟兵、狩人の上位職(賢者の能力も持つ)が言葉少なげに言う。
「でも、戦術、野営の設営、アイテム管理、体調管理、あなたが出来る」
「そ、そう、あなたは戦力的にはおちるかもしれないけど、トータル的には必要なのよ」
「だが、絶対必要で はない。お前たちでもできる」
騎士は彼らを見た。その中で、勇者が口を開く。
「……正直、君に抜けられると大変だ。僕らには、経験が足りないし、君は十分それを補足している」
「……では、三カ月待ってくれ」
「三カ月たったら戻ってくるの!」
女聖騎士は笑顔で騎士に聞く。
「いや、優秀な人材を鍛えて送り出します」
「それじゃ困るわ」
「……わかった」
「ち、ちょっと!」
勇者は承諾した。それに対し、女聖騎士は慌てる。かまわす勇者は条件をつけた。
「……ただし、君以上の能力を持つ人材を送ってくれ。でなければ戻ってくる事」
「わかった」
女性陣はなおも反対したそうだったが、勇者の決定に従った。
騎士は、後ろ髪を引かれる思いながらも、勇者たちと別れた。
…………
騎士が首都についた後、その足で王に謁見した。
「つまり、お前の能力が不足しているというのか」
「はい、単純に戦力が不足しています。なので、若手の強い騎士を養成して送り出します。ひいては」
「わかった、我が子の勇者の為だ。騎士団から人材を選び、育成せよ。騎士団長、よいな」
「はっ、ではいくぞ」
「はっ、騎士団長」
二人は連れ立ってその場を離れた。
「すまん、お前も本当なら、勇者たちと戦いたかっただろうに」
「いえ、もう能力的に限界でしたし、それに、こちらの方も大変なのでしょう?」
「ああ、魔王の眷属がここまでやってくる。何とか対応したいが、なかなかうまくいかん」
「とりあえず、一度防衛線をまとめて再配置しましょう。その後、戦力を抽出して遊撃隊を作り、防衛線の弱いところを守りましょう」
「やはり、婿と見込んだ男だ。わしと同じ作戦をたてたな。計画立案は副団長にまかせている。お前は遊撃隊を指揮してくれ。有望な隊員は勇者様のパーティーメンバーにしたまえ」
「わかりました」
「あと、今日、うちにくるか?」
「えっと、すいません。明日寄らせてもらいます。今日は、そう、用事がありますので」
………
翌日の夕方。騎士は、騎士団長の屋敷にむかった。
「よう、遅かったな」
「すいません、団長。あと、先ひ御息女に会わせていただけませんか」
「かまわんが、今、機嫌が悪いぞ」
「すいません、ですが、い、今でないと……」
「……わかった、いってこい。骨は拾ってやる」
騎士は騎士団長の娘の部屋に向かう。
騎士は、娘の部屋の前に来ると、扉の前でしばらく躊躇った。それから顔を上げ、ノックする。扉が開き、少し目付きが鋭い女性が顔を出した。
「何のようですか?」
騎士はしばらく口ごもったが、意を決して話し出した。花束と共に。
「ゆ、勇者パーティーをやめてきた。その、長い事ほったらかしにしてすまない」
「ほんとにそうね。魔王なんかすぐに討伐できるよとか言ってもう五年。魔王討伐したら結婚しようとか言って、待ってたらもう嫁き遅れ」
「すまない」
「あなたをずっと信じて、で、つかれたの、そんな私を笑いにきたの?」
騎士は、小さな箱を取り出し彼女に差し出す。彼女は中を見る。そして指輪を取り出した。
「今更かもしれないが、結婚してください」
「……」
「俺が馬鹿だった。魔王討伐して、出世して君を迎えたいと思って、つい、ずるずると」
「ばか」
「ごめん」
「ばかばか」
あとは、ごめんとばかをくり返す二人がいた。
そして、少し離れた場所に手持ち無沙汰の騎士団長が立っていた。
………
騎士は少し気落ちした。今日鍛錬場遊撃隊のメンバーが集められ、顔見せをした。しかし。
「どうだ、隊長」
「あ、騎士団長。すいません」
鍛錬場は兵士達が死屍累々と倒れていた。実力を見たいと騎士が手合わせしたのだ。しかし、騎士に勝てる者はいなかった……
それでも何名かは立ち上がろうとする。騎士は、それを見て希望を持った
「で、どうする? 悪いが、訓練している余裕はないぞ」
「わかりました。拠点に武器と食料、資材を備蓄して下さい。訓練しながら任務をこなします」
「大丈夫か?」
「なんとかします。第一、敵地に単独潜行するのに比べたら支援もありますし」
「無理はするな。娘が悲しむ」
「大丈夫です。もう悲しませませんよ」
………
それから、遊撃隊の地獄が始まった。
「隊長、もう走れません!」
「次の目的地までがんばれ!」
………
「隊長! 魔物が多すぎます!」
「前衛は牽制中心で! 後衛は二対一で遠距離攻撃! あわてるな。敵の数、対処できない程じゃない!」
………
「隊長、穴掘り疲れました……」
「テント設営は大事だ! この後休めるぞ!」
………
「隊長、薬草狩りなんて必要ですか?」
「なるべく補給できる物資は現地調達が望ましい。あ、それは毒草だ。おい、もっと丁寧に摘み取れ。ちゃんと分けろよ」
………
「隊長、このスープ、具だくさんでうまいですね」
「ああ、そこら辺の山菜なんかもいれてるからな。あ、あとこれ飲め。薬草茶で身体温める効果があるからな」
「あ、おいしい」
………
元騎士は、遊撃隊についていけない騎士は別の部隊に再配置し、有望そうな兵士は本人の希望を前提に遊撃隊に編入した。再配置した兵士も一般的な兵士より能力は高く、歓迎された。
やがてもうすぐ三ヶ月。騎士はようやく後継者となる人物を育てあげた。
「これから勇者様を頼む」
「はい、わかりました」
まだ若い二人は希望を胸に膨らませていた。そう、残念ながら騎士ほどの能力をもつ人材は育成出来なかったのである。ただし、集団戦術はたたきこんだので連携すれば、その能力は騎士をはるかに凌ぐ。
「しかし、遊撃隊の方は大丈夫か?」
「いえ、紙一重くらいの差しかありませんから」
そう、遊撃隊は王国内でも質、量ともに最強の部隊に成長したのである。
機動力も高く、魔王の部下の魔物もなんなく撃破していく。
更に、魔王の拠点を殲滅し、大打撃を与えたのである。
その為、王国や、その他の国に対する魔物の侵攻は激減した。大勝利である。
「あとは、君たちが勇者様と合流して魔王を討伐したら王国は安泰だ。頼んだぞ」
「はい、隊長!」
騎士の部下二人は元気良く答えた。しかし、その後すぐ騎士の元に伝令がやってきた。
「た、隊長! 勇者様が……」
「どうした!」
騎士は、伝令の兵士の様子が尋常でない事に気づいた。勇者に何があったのかと、兵士にきつく問いただす。
「ゆ、勇者様が魔王を討伐なさいました」
その報せに、騎士は、驚いた。戦力的には十分ではなかったはずなのに、と。
………
やがて、勇者パーティーが首都に凱旋してきた。勇者たちはまず、騎士に面会をもうしこんだ。
騎士が彼らに会うと、彼らはやつれ、色々な所がほつれ、損傷していた。
「よく、魔王討伐を成功なさいました」
騎士は、自分がいなくとも、魔王討伐を成し遂げた勇者達を誇りに思いながら、寂しい気持ちも感じていた。
「なによ、あなたがいなくなってどれだけ苦労したかわかる? テント設営や水、薬草や消耗品の手配。大変だったんだから……これまでありがとう」
女聖騎士が愚痴を言う。それに、女狙撃士も加わる。
「寒い、暑い、ひもじい、まずい。騎士がいなかったから。これまで、色んな気配りありがとう」
「……君のおかげで快適だったのがわかった。野外でも宿でも細かく気配りしてくれていたのだな。更に、魔王軍の弱体化により討伐も楽にできた。改めて礼を言う」
「いえ、結局、魔王との最終決戦には間に合いませんでした」
勇者は、騎士の答えにしばらく考え、そして言った。
「……ならば、騎士よ。そなたに罰を与える」
「なに言ってるの、勇者!」
「この場合、褒美をとらすべき」
「いかようにも」
女性陣が文句を言うのに対し、騎士は姿勢を正し、勇者の言葉を待つ
勇者は命じた。
「……私の秘書になれ。君の気配りは我が国に必要だ。頼む」
「それは良いことね」
「賢明。了承しろ」
「……御意」
三人の期待の視線に、騎士は屈服した。
そして一年後。
「……今日はもういい、家に帰れ。明日は大変だろう」
勇者こと王太子は言った。
「そうよ、早く帰りなさい。騎士団長も心配するわ」
女聖騎士こと、王太子妃兼将軍は言った。
「やること、ここはない。君の家にある。帰れ」
女狙撃士こと、王太子妃兼宮廷魔導士長はぶっきらぼうに言った。
「しかし……」
騎士兼王太子秘書は口を濁す。
勇者こと王太子は、王や周りの助言を受けながら、
王国国内の改革を行っていった。魔王討伐の際に見聞きした国内の問題点、改良点を提起し、臣下に対策を立案、実行させた。
騎士兼王太子秘書は、その際に関係者の根回し、調整、不満や愚痴聞きを行い、対策がスムーズに進むよう補佐を行っていた。更に、王太子と王太子妃、その周辺の環境に配慮し、快適に生活できるよう管理している。今のところ、関係者全員が高評価である。
「……明日は君の結婚式だろう。私達も出席する」
「そうよ、あなたの事だから手抜かりはないだろうけど、帰って準備しなさい」
「結婚式期待大。早く準備。帰れ」
「わかりました。では、失礼します」
騎士はその場を出ていった。
とは言うものの。
「今更手伝うって! はっきり言って足手まとい。邪魔! 屋敷で父さんとぐーたらしてて!」
騎士団長の娘、騎士の妻となる女性は、会場設営の手配や段取りの確認に忙しそうだ。騎士からしたら、色々不備があるが、まあ、彼女が楽しそうだから、とその場を去る。その前に、彼女の目が届かない所にこっそり根回しを色々してからの事ではあったが。
屋敷に行くと、騎士団長が剣の素振りをしていた。騎士はなんとなく一緒に素振りしたり、帰ってきた騎士団長の娘に呆れられたりした。
そして翌日。
きちんとした制服に着られている騎士と。
美しい花嫁衣装に身を包んだややとうがたっている騎士団長の娘は。
祝福されながら、結婚式を挙げた。
その後、王国は色々ありながらも平和であり。
騎士とその妻は、笑ったり泣いたり喧嘩したり困ったり怒ったり損したり儲けたりしながらくらしたという。
まあ、ハッピーエンドってことさ。