第1章 【労働契約の力】
「ん・・・」
目が覚める。目だけを動かし周辺を見てみるが暗くてよく見えない。
体を起こして改めて周囲を見渡す。
「なんだ・・・?俺は車を運転してたはず・・・。えっ?」
徐々に暗さに目が慣れ、周囲の風景が見えてきた。どうやら森の中のようだ。
「どうなってんだ・・・。車は・・・」
立ち上がり周囲を捜索するが車は見当たらない。ふと空を見上げると信じられない光景が目に飛び込んできた。
「おいおい・・・嘘だろ。。。」
真っ赤な月があり、月明かりが森を薄暗く照らしていた。
「これは・・・。まさかな・・・。ステータスオープン」
普段から異世界転移ファンタジー小説をよく読む方だった黒谷は冗談交じりに唱えてみた。
「うぉ!」
【ステータス画面を起動します】
頭の中に声が響き、RPGゲームでよく見るステータス画面が前方に浮かび上がった。
「はは・・・ありえねぇ・・・本当に異世界転移かよ・・・」
王道異世界転移なら神だの女神だのに会うはずだが目が覚める前の記憶は発狂しながら交差点に突っ込んだ記憶しか無い。
だからこそ現状の自分の状況が如何にありえない状況なのかよく分かり異世界転移と断定するのにそう時間はかからなかった。
「テンプレだとこの後戦闘イベント発生チート発動になるか要人救出イベントかね。小林・・・今回ばかりはお前に感謝するよ」
黒谷の脳裏にはチートスキルでハーレムウハウハな光景が浮かんでいる。
「とりあえず、ステータスを確認しないと」
名前:黒谷クロヤ 純ジュン
LV1 HP25 MP:30
力:7
知:8
体力:5
敏捷:4
幸運:4
固有スキル
労働契約LVMAX
(双方の同意があれば労働契約を締結出来る。LVが高いほど相手の同意が無くても労働契約を締結出来るようになる。LVMAX達成ボーナス:契約期間中の契約破棄不可)
契約期間満了ボーナスLVMAX
(契約期間満了もしくは契約期間内に契約内容を達成出来ればボーナスが支給される。LVが高いほどボーナスUP。LVMAX達成ボーナス:ボーナス発生時、雇用主・労働者双方に支給される)
「ステータス低っく!武器もないし魔法もない。ゴブリンにも勝てるか分からんな・・・」
「固有スキルもなんか微妙だなー。契約破棄出来ないなら契約に従わなければいいだけだし。ボーナスとか貰ってみないと判断がつかん」
チートスキルが無い事でまた怒りが湧いてくる。
「コバヤシィィィ!マジで許さん。あいつに感謝したさっきの俺を殺してやりたい」
「ゴブッ」
「うん?」
なんか後ろで豚鼻鳴らしてる奴いるな。
「ゴブッゴブッ」
「え、何この緑の猿みたいなの」
「ゴブッ!」
「危ねぇ!何すんだこの糞猿がっ!」
頭に振り下ろされた何かを反射的に避け、緑の猿をよく見ると木の棒を持っている。
「あ・・・こいつゴブリンか。小林お前マジで疫病神だわ。呪われてんのか?なんでお前の名前叫んだとたんこうなるんだ?」
「ゴブッゴブッゴガア!」
「ちょ!タイム!ターイム!そんなんで頭どつかれたら死ぬわっ!」
【労働契約を締結致しました】
契約内容:待機 契約期間:無期
「は?」
頭の中に声が響いた瞬間、ゴブリンが動きを止めた。
声を出してもがいているがその場から動けないようだ。
「どうなってんだ・・・。まさか、契約内容に強制力があるのか?もしそうだとしたら恐ろしいチートスキルだぞこれ」