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第0章 【派遣社員小林】

「黒谷さん、小林さんが現場に来てないんですけど連絡ありました?」

「いえ・・・連絡は入ってないんですけど、通勤途中に何かあったのかもしれないのでこれからすぐに自宅に伺って安否確認します」

「そうですね。お願いします」

ふと時計を見ると針は夜22時を指している。

(・・・・・・。はあー。めんどくせえ。夜勤ブチんなよ・・・)

どうせ行っても居留守使われて朝に死にそうな声で体調が悪くてだの風邪ひいて寝込んでただの言うと思うが。

「まあ、万が一の事もあるし様子を見に行くか」

取り合えず車を飛ばして小林宅へ向かう事にし、身支度を整える。

・・・・・・・

「くそ、もう0時過ぎてんじゃねえか」

小林宅についた時には0時20分。時計を見て悪態をつく。

木造アパートの202号室が小林の家だ。

階段を上がる前に裏に回って202号室の部屋の窓をみるとカーテンの隙間から明かりが漏れていた。

「なんだよ、やっぱ家にいんのかよ」

とりあえず通勤災害では無く、無事な事にほっと胸を撫でおろし、正面に回り深夜なので足音に気を使いそっと階段を上がる。

(さて、連絡無しで仕事ブッチした理由にどんな芸をしてくれる事やら)

インターホンが壊れているようでボタンを押しても反応がない。深夜なので気が引けたがドアをノックする事にする。

コンコン。

・・・・・反応無し。

ゴンゴン。

・・・・・反応無し。

ドアに聞き耳を立ててみるが物音がしない。しばらく待っても反応が無いのでポスト窓を開けて室内を確認してみるが暗くてよく見えない。

(野郎、電気消しやがったな)

「はあー。もうこうなったら何をしても出て来ないな」

車に戻り派遣先に連絡を入れる。時計を見ると0時40分になっていた。

「はい、製造2課」

「お世話になります。株式会社ジャパンワークスタッフ黒谷です」

「あー。どうも。どうでした?」

「ええ、家にはいるみたいなんですが出て来ないですね。申し訳ありませんが今日の出勤は難しいかと・・・」

「まあ、連絡が無い時点で期待はしてなかったよ。今日は休みでいいけど明日からの出勤確認よろしく」

(分かってんなら明日の朝電話して来いよ。今何時だと思ってんだ)

「分かりました。ご迷惑をおかけして申し訳御座いません。明日以降の出勤については本人と連絡がつき次第ご連絡させて頂きます」

「明日も休むようならもう来なくていいって伝えといて。んじゃよろしく」

(もう来なくていいって。まだ契約期間1か月残ってるんですけど。1か月前の解雇通知無しで解雇するとか意味分かって言ってんのかこのアホは)

「はい。本人の意思を確認した後、改めてご連絡致します。申し訳御座いませんでした」

電話を切り、深い溜息をつく。

しばらく小林の今後の事を考えてから時計を見ると午前1時を少し過ぎていた。

時計を見てもう一度溜息をつくと車に乗り込みエンジンをかける。

「こっちも明日朝から仕事だっつーの。あ、もう今日か」

愚痴をこぼしながら道がすいていた事もあって家まで結構なスピードで車を飛ばして帰る。

プルルルルル。プルルルルル。

携帯に着信が入り、運転しながら名前を確認すると小林からだった。

車を道端に停車させようか迷ったが早く帰りたい気持ちもあって運転中はダメだと思いつつも電話に出る。

「お疲れ様です。黒谷です」

「小林です。すいません母が倒れて今病院なんですよ。連絡したかったんですけどバタバタして連絡出来なくて・・・。母についててあげたいんで明日も仕事休ませて下さい」

(小林よ・・・俺が自宅に訪問したの分かってないとその言葉は出てこんぞ)

「・・・・・小林さんの自宅に伺ったんですけど不在なのはそういう事だったんですねー。お母さんの容体は?」

「そうですか。こんな時間にわざわざすいません。母はしばらく安静にすれば大丈夫だと医者が言っているので心配ないと思います。現場にも連絡出来ず申し訳ありません」

「いえいえ、これが仕事ですから。お母さん心配ないんでしたら明日は出勤して頂けませんか?現場の方からも明日は出勤して欲しいとお願いされているので」

「うーん。母のそばにいてあげたいんですが・・・。分かりました。黒谷さんも困ると思うので明日は出勤します」

「そうして頂けると助かります。大変な時にご無理を言って申し訳ありませんがよろしくお願いします」

「黒谷さんに頼まれたら僕も断れませんよ。ではまた」

「そう言って下さるとありがたいです。では」

電話を切り、イライラがピークになり携帯を助手席に投げつける。

「くそが、家に居ただろうが。なんで母が倒れたのに俺の為に仕方なく明日出勤してあげる風になってんだ。お前明日出勤しなきゃクビなんだぞ。」

叫びながら車のスピードを上げ、赤信号に気付かず交差点に差し掛かった所で俺の意識は途絶えた。


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