ハッピ男の誘導
O阪梅D周辺
ゆかりは男に連れられ、30分程度電車に電車に揺られ梅Dに来ていた。ここの辺りに「支部」と言うのがあると言う。
(なんの支部よ)
「本当にこんなところにあるんでしょうね。まさかいかがわしいところに…」
「いやいや、それはさすがにまだ…ね」
「まだ!?まだって言った!?このケダモノ!」
「ぐへへ、覚悟しときなねーちゃん。っと冗談はそこまでにしてと、ゆかりちゃんいま携帯持ってる?」
「あ、あるわよ?」
「貸してもらえます?あぁどうもありがとう。えぇと、あー、ゆかりちゃん…写真はどこで撮るんだっけ?こうゆうの苦手で」
はははと苦笑いした。
「あぁここね。よしじゃあこれで」
パシャっとゆかりを撮り始めた。
「な、なにとってんのよ!」
「はい、これが今のゆかりさんだよ」
そういって、男はゆかりにさきほどとった写真を見せた。
そこには先週短くしたショートカットの自分はおらず。スーツを着た中年のくたびれた男が驚いた顔をして映っていた。
「こ、これが今の私ぃいいい!?」
「ははは、そうだね。これが今の世界に認識されているゆかりさん。見事なほどまでおじさんだねぇ、僕より年上みたいだねぇ、ははは」
「ちょ、え、どうすんの?」
「どうもしませーん。当分世間的にはおじさんだねぇ」
「まじか…」
「よかったね。」
ニコリと男が微笑む。
(うざ)
「なにが?」
普段より低い声で聞き返した。
「い、いやなんでもないよ」
H通り周辺
男side
「さて、ゆかりちゃんこのビルにはいるよ〜」
「え、こんなボロいビル?」
苦笑いしている彼女(容姿はおじさん)を連れて古い雑居ビルに入っていった。
(そういえばまだ名乗ってなかったな)
「ゆかりちゃん。僕の名m「それ」どれ?」
「そのゆかり『ちゃん』やめてくれない?」
「なんで?」
(「ちゃん」可愛いじゃないか)
「あなたみたいな人からちゃん付けで呼ばれると寒気がする」
「ひどいね。まぁいいや「よくない!」僕の名前はねぇ「人の話聞け!」五十嵐マコト(いがらし)だよ」
「見た目に似合わずホストにいそうな名前ね」
(見た目に似合わず…ひどい。泣そう、せっかくあの人から貰った名前なのに)
「顔は整ってる方だと思うよ〜?」
「後はダメダメね」
「厳しい…」
雑居ビルの中は全体的に暗く、足元がよく見えない。五十嵐に連れられて階段を登りもう3階付近の踊り場まで来ていた。
どの階層にもどこも入っていないようで無人のようだった。
「このビルがあなたの言う支部なの?妄想癖さん」
「あー、4階に着いてから今の暴言を聞きたかったな、ゆかりちゃん」
チッと舌打ちが聞こえた。
(おーこわい)
(早く4階にいこっと)
「さて4階に着いたけど、どこにも人がいないわよ?」
「ゆかりちゃんは疑問に思わなかった?「なんでこのバカハッピ下駄野郎はエレベーターを使わないのか?」…ぐっ、その通りだよ」
バカは傷ついた…今日の晩飯は焼き鳥でも食べて元気だそ。
「この4階にはエレベーターが付いててここから一気に地下まで下がるんだよ」
「地下?地下なんて行けるの?」
「地下は4階にある壁の1部分を押さないと出てこないエレベーターに乗らないといけないからねぇ」
と言いながら壁を触りながらこそこそと動き回ってる姿は変態そのものだ。
(僕は変態の素質がありそうだねぇ、ふふ)
ガコンと音が静かに響く。
壁一部分が自動で開きエレベーターが現れた。
「秘密基地は男のロマンだよね」
「あーはいはい。よかったですね。この変態さん。さっさと行きましょう?」
「人に言われるとやっぱり傷つくなぁ。じゃ行こっか」
静かにしかし確実に下に向かっているのを身体に感じながら、この少女のいく末を考える。
(僕が担当したのだから死なずにこの世界の終末までなんとか生き延びて欲しいもんだなぁ)
地下
「さぁ、ようこそ!ここが梅D支部だよ!まぁ僕はここの支部じゃないからようこそなんて言えないんだけどね、あはは」
エレベーターを降りた先は大きな広間となっており、木製の大テーブルと椅子がいくつか置かれていた。ほとんどの椅子の方は無造作に置かれていたことから、誰かか使っていたと推測でき、支部というのは100人単位の組織であるとゆかりは考えた。
「あら?五十嵐くん?久しぶりね。この支部に転属になったのかしら?」
「あー!久しぶりだねぇ、沙織さん。この子新しく隔離症になった子。てかさっきなったほんの1時間前ね」
おっとりした雰囲気の可憐な女性が五十嵐に気づき話しかける。
茶色の髪をシュシュで束ね右肩の方に流している。
「あらあらあら、まぁ!そうなのね?私は沖沙織よ。よろしくお願いしますね?」
沖は頭を丁寧にゆかりへと下げた。ゆかりはプルンと聞こえそうな胸の動きに驚きを隠せない。
(こんな胸の持ち主、たまにコンビニで見かける雑誌のグラビアでしか見たことないわよ。いやあのグラビア共よりありそうね。…はっ自己紹介しなくちゃ)
「よ、よろしくお願いします。え、えっと時雨ゆかりと言います」
「ゆかりちゃん、緊張してるの?」五十嵐は尋ねる。
「うっさい」
「僕と沙織さんで態度が違う…お兄さん悲しい」
「変態には罵倒の言葉がお似合いよ」
「あらあら、楽しそうねぇ。おねぇさんも混ぜて?」
「さ、沙織さんには言えませんよ…」
五十嵐は瞬時に把握した。ゆかりは沖に弱いのだと。なにかあった時は沖を盾にすれば暴言の嵐から抜け出しそうだと一人うんうんと頷いていると身につけていた腕時計から「ピピピ」と音が聞こえた。
次の合図だ。
「あ、そういえば沙織さん。僕次の子迎えに行かないといけないから、ゆかりちゃんに色々教えてあげてもらえない?」
「あらあら、いいわよぉ。おねぇさんにまっかせて!」
ニコリの微笑みながらガッツポーズをしてみせる。
(沙織さんはいつもかわいいなぁ)
「じゃ、よろしくねぇ」
「はーい」
沖はエレベーターに乗る五十嵐を見送るとくるりとゆかりの方を向き
「じゃ、ゆかりちゃん。おねぇさんがいろいろおしえてあげる!どうせ五十嵐くんはなにも詳しくは教えてないんでしょ?」
この場にいない男のことを思い浮かべて少し呆れた表情をしながらしかし優しく尋ねた。
「はい…えっと。今日いきなり、目が見えなくなって…あの人に「隔離症」って言われて…あ!自分の姿がいつの間にか変わってて、天使やら神やら抹殺やら…あの私どうすれば?」
聞きたいことはたくさんあった。しかしこの1、2時間で劇的な身の回りの変化にゆかり自身はもちろん、脳もついていけず、混乱していた。これまで生きてきた約20年間でもここまで目まぐるしい状況の変化はなかった。
「あらあら。そうねぇ、どこから話ましょうか。彼にだいたいは聞いたかもしれないけど、隔離症から説明しましょうか?じゃ少しついてきて貰ってもいいかしらぁ?」
なにか図でも書いた方が分かりやすいからと、沖はゆかりを連れ大広間の左手にある通路を入ったところにある「会議室1」と書かれた部屋へ案内した。
「ここなら、ホワイトボードがあるから説明しやすいかしれないわぁ」
電気をつけながらそう沖自身に言い聞かせているようだった。
「それじゃあ、ゆかりちゃん。始めましょうか?」
「はい、お願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね?隔離症から説明を始めるってさっき言ったんだけどぉ、その前にこっちから説明しないといけないわね。ゆかりちゃん。ゆかりちゃんは自分の意思で動いてる?」
「えっ?」
「この世界はね、神さまが創った世界なの」
「あ…あー、えーと」
(聖書的なやつかな?)
「アダムとイブ…みたいなことですか?」
「そうね、そんなところかしら」
そういうと、沖はホワイトボードに図を描き始めた。
「私たちが暮らしてるこの世界。地球がこれ」
と◯を描きその中に「地」と書いた。
「それで、こんな感じになってるの」
と図のなかの地球を包むように一回りおおきな円を描きそのなかに「神界」と書いた。
「神界」
「神が住んでいる世界、神界。…神界を繁栄させるためになにがよくてなにがよくないのか神には分からなかった。だから神はこの地球を創り神と似た身体の構造でだけど性能には劣る私たち人間を創った」
沖は続ける。
「そしてその人間一人一人の人生、運命を神が決め、その人間の行動で周囲が世界がどうなるのか?それが繁栄となるのか滅亡となるのかデータを取り続けているの」
「一人一人の人生」
ポツリとゆかりは言葉を零した。
「そうよ、ゆかりちゃん。神は私たち人間を支配しているの。操り人形みたいにね。少し前のゆかりちゃんもその一人」
「私も操り人形」
「今は違うけどね。話を戻すわね。…ある時予想外なことが起きたの。人間が神の存在に気付き始めた。そしてそれを秘密裏に書物のして残して後世に伝えようとした」
「え?沙織さん、それっておかしくないですか?人生や運命決められているなら、勝手に行動できないはず…」
「ふふ、その通りよ、支配されているのなら勝手に動けないはず。……神の唯一の誤算、それは人間を神より劣った性能で創ったこと。劣った性能で人間を創ったことで神が通常抑えることのできる「性欲」や「食欲」「睡眠欲」、それ以外にも「物欲」や「名誉欲」。他にもたくさんあるけれど、人間はその欲望を抑えることができない。その欲望が神の支配を越えはじめたのよ。その結果、さっき言ったように神が決めた行動以外の行動をとる人間が出始めたのよ。神は決められた運命以外の行動をとる人間により問題なく運命を歩んでる人間を邪魔することを恐れたの。そしてあるシステムを導入したわ」
「それが…隔離症」
「隔離症の導入によって、運命に抗い始めた人間の視覚情報を奪い、私たちの世界と神界の間に移動させ、天使に抹殺させることで、データ収集を続けていたのよ」
ゆかりの頭にまた一つ疑問が浮かんだ。
「じゃあ、私もその運命に抗う人たちの1人ってことですか?」
「ん〜それはどうかしらぁ。ここからが神と私たち人間の似ているところなんだけどね、その隔離症が暴走しはじめたの…ううん、意図的に改変されていたのシステムが」
「改変?」
「そう、運命に従っていた人間にまでそのシステムが干渉し始めたの」
「どうしてそんなことに…?」
「神も一枚岩じゃないってことかしらねぇ」
「神って何人もいるんですか!?私てっきり1人かと」
「私も正式な人数はわからないわぁ。けどこれまで世界で確認されている神の数は6人よ。…局長なら、正確な人数を知っているかもしれないわぁ」
「局長ですか?」
「そうよぉ、局長が私たちのボスよぉ、と〜っても綺麗で強いんだから!」
(女性かしら?どんな人なのか見てみたいわね)
「でもなぜその局長が正確な数を把握しているんですか?」
沖はゆかりの眼をしっかりと捉え
「それはねぇ、局長は…」
「神だからよ」
ニコリと笑った。