毒舌少女の旅立ち
時雨ゆかり
19歳・大学2年
シックな色合いで動きやすい服を好む。
肩くらいまでの黒髪、凛々しい顔。
優等生タイプで高校時代先生からは「文句一つ言わない良い子」と評価される。
しかし心ではいつも悪態をついている。
毒舌少女
日本・関西K戸某眼科
「飛蚊症…ですか?」
暑い、特に眼が、前が見にくい。
先週、夏に近づいてるからとお願いしてばっさりと切ってもらった髪に汗がつきジトっとする。
「えぇ、えぇそうです。さっきね点眼してもらってこの機械で、えーと、えぇ、えぇ時雨さんの目をね、えぇ、えぇみさせてもらいました。そしたらね、飛蚊症だったんですよ」
(それはさっき聞いたから。知ってる。それがなんなのか早く教えろよおっさん。えぇえぇ言い過ぎ。てか暑すぎ、空調聞いてないの!?なんで私は汗だくなのに、あのデブの先生は汗かいてないの!?しかもなんか眼にチラついてるし。話に集中できない!)
「あの…時雨さん?なんだか顔が面白百面相してますが大丈夫ですか?えぇえぇ」
(ちっ、顔にでてたか。てか面白百面相てなんなの?怪盗でも二十面相までが限界なのにすごいな面白百面相)
「はい!問題ないでしゅ!』
(くっ、噛んだ…笑うな、このデブ医者め)
なんとかあの暑さのなかで我慢して聞いた医師の話を要約すると、どうやら私は飛蚊症とやらになってしまったらしい。人によって違うらしいけど眼に糸くずのような、蚊のようなものが映る症状で、治す薬はないらしい。病気で発症した場合は治療で良くなることができるらしいけど、加齢とかの生理的なものは急激に悪化しなければ気にしなくともよいらしい。
「やっと終わったわ。外暑いけど、眼がもっと熱い、どういうことよ」
眼科からでて外気のむっとした暑さに耐え切れず、愚痴をこぼす。
あぁ、さっきまで暑く感じてた眼科がオアシスに見えて嫌になる
肩を落としながら、とぼとぼと帰路につく。
(あつい、帰りにアイス買いたい。そういや
『検査で使った点眼の影響で眼のピントが合わない可能性が大いにあるので車の運転とかはしてはだめですよ?えぇえぇ』)
(免許欲しい。合宿行きたいな。)
眼科近くのコンビニでアイスを買い買った後に「このまま家に帰れば溶けてなくなるなぁ」っと気づきコンビニ前で食べることにした。なぜそんな当たり前のことを考えなかったのかは、暑さで頭がやられていたということにしとこう。しかしこんなアイス1本で幸せな気持ちになれるのだから私は単純な生き物だなぁと感じながらアイスをシャクシャク食べていく。
いつだったか母が言っていた。例えこんな暑い夏でもいい歳にもなってアイスを一心不乱に食べるのはみっともないから、そんな時は暑さを利用するのよと。暑さでアイスが溶けていくから仕方なく早めに食べるのか、アイスを喰らうように食べるのかを分からないようにすれば「なんでそんなに早く食べるの?」って聞かれた時に聞こえが良さそうな方を使えばいい歳になってもアイスにかぶりつけるわ!これが本音と建前の二段構想よ!と。今考えても『本音と建前の二段構想』の意味が分からない。なんで当時幼い私にそんな話を…。でもそんな訳の分からない話をイキイキと話す母が好きだった。
いい歳か…20年くらい生きてきた私は、いつになったら『いい歳』になれるのだろうか。
アイスの棒をコンビニ備えつけのゴミ箱に捨て上を見上げる。
「それにしてもなんか、暗い。まだそんなに暗くなる時間じゃないと思うけど…」
(いや、視野が狭くなってる?眼、眼が見えな…)
「やーっとみつけた」
「なんの声!?」
「何のって目の前にいる僕の声だよ」
「目の前って、どこにいるの!?」
「あー…そこまで進行してたか。くそっもっと早く見つけてりゃぁよかった」
(な、なに?なんの話を?この声は?)
「えーと、ファイルどこにやったかな」
なにかを探している音が聞こえる。だが見えない。闇だ。
「あったあった。よし。ふむふむ、時雨ゆかり、19歳。ほー若いねぇ、趣味、体を動かすこと、ほー元気があっていいねぇ、これから活躍できそうだ。ほうほうそんでもってツッコミ気質なのね」
「な、なんで私のことを…!? は?ツッコミ?」
「えーっと、次は3サイz「言うなぁあああああああああああ!!!!!!」
「お願いだからいわないでぇえええええええええ!!!!!!!」
「元気だねぇ」
(元気だねぇじゃねーよ。なにこんな街中で女性の3サイズを言おうとしてんの?バカなの?変態め!)
「ファイル確認終了。これより行動を開始する」
さきほどの男の声とは思えない凛とした声がした。
「時雨ゆかりさん。あなたはさきほど眼科に行き『飛蚊症』と診断されましたよね?」
(なにこいつ、まじもんの変態さん?)
「あはは、その侮蔑的な態度は肯定ととるよ?」
「で、今現在、眼が見えてない。でしょ?」
男は続ける。
「一つ教えてあげよう。君の症状は『飛蚊症』なんかではない。」
(は?なに言ってんだこいつ)
「はは、面白い顔するね君。正式な病名とかはないんだけどね。我々はその症状を『隔離症』と呼んでいる」
「隔離症?」
(我々?)
「そう、隔離症。そしてその症状を治す、手立てもある。あぁ、最初に言っておくよ。今人材が不足しててね。拒否権はない。まぁ君も殺されるよりいきたいでしょ?逝きたい、じゃなくて生きたい、ね」
「そりゃ、死ぬよりは生きたいけど」
「そう、よかった。いやー断られたらどうしようかと思ったよ。じゃあこれで消毒してっと。少しチクッとしますよ〜なんちゃって」
(は?痛っ!なに!?注射?)
(そんなことよりも…)
「裏声キモい」
「毒舌だねぇ、でもほ〜ら眼が見えてきた」
「あっ、光が…」
(やった。眼が見えるようになった!)
変態だが助けてくれたお礼を言うために目の前の男を見る。外国人、いやハーフだろうか彫り深いギリシャ彫刻のような綺麗な顔に剃り残しのいくつかある髭面に、髪はウェーブがかった黒髪で前髪はセンターで分け、サイドに流し肩くらいの長さで後ろ髪はまとめてある。そして一番眼に付いたのは服装だ。ハッピのようなものを着ている。第一印象として100人が100人なさけなさそうな男だと判断するだろう。
(サムライヘアってやつかしら?)
「なにそれ、下駄?」
「そうそう下駄下駄!味があっていいでしょ?気に入ってるんだ〜」
「そう、それはよかったです。わっしょい男さん。助けてくれてありがとうございました。それではこれで失礼します。」
極めて機械的な礼をし足早とその場を立ち去りたかった。
「あっ、ちょ、待って。まだ話がまだ終わってないよ!」
「私は終わりました。さよなら、変態お祭り下駄男さん」
「え、なんかさっきより毒舌になってない?」
(なに言ってんだこいつ)
「当たり前でしょう!?ただでさえ私の名前、歳、、、ス、スリーサイズまで知ってる上に、眼が見えるようになったら目の前にTシャツの上に祭りハッピ着て短パンで下駄を履いててすね毛ボーボーの男がいるんだから!!」
「えー男ですね毛なかったらなよなよしてて嫌じゃない?」
「すでに顔がなよなよしい!」
「ひどい!」
大げさなリアクションを男がしたと思えばこほんと一つ咳払いをし
「さて、仲良くなったとこで「なってない!!」たはは、本題に入ろうか」
「本題?」
「君のね、隔離症はなにも眼が見えなくなるのが症状じゃない。むしろ眼が見えなくなるのは手始めってとこかな。隔離症って名前なんだよ?名前の通り隔離されなくちゃ」
「どういうことよ?あなたが私を誘拐するってこと?」
「あはは、うーん。結果的にはそうなるの…かな?ようはね?君をこの世界から隔離しようとするものが来るんだよ。なんだろなぁ死神的なものって言えばわかりやすいかな?」
「君はね、もうじきこの世界から抹殺されるんだよ、時雨ゆかり」
「世界から抹殺?意味がよくわからないんだけど。あなたは妄想変態さんってこといいの?」
「笑顔でえぐってくるねぇ。でも違う真実だよ。信じられないよね…僕もそうだった。さて話を続けよう。隔離症とは「ピーピーピー!!」くっ!もう来たかっ!」
「な、なんの音!?」
「君を迎えにきた死神のご到着の知らせだよ。いや、天使なんだけどね」
突如空から白のローブを纏い顔をフードで隠し両肩から白い羽の生やしているものが現れた。
「な、なんなのよ、あれ。あなたの友達!?」
「残念ながらあんな気味悪いのが友達にいないなぁ」
「あれが君の死神だよ、きみを殺しに来たんだ」
(殺しに?)
(うそ、本当に私死ぬの?)
「あの眼科の先生を心のなかでデブ医者なんて呼んだから!?」
「ははは、君案外余裕あるねぇ」
「対象者発見。そこの女を『時雨ゆかり』と断定する。これよりバグの消滅を実行する」
無機質な声が辺りに響いた。
「な、なんだか怖い声してるわね」
「そりゃね。人間に恐怖を感じさせて動けないようにするためだからね」
「あなたは大丈夫なの?」
「まぁね。『プロ』ですから」
「プロ?」
そう言うと男は目にも止まらぬ速さでゆかりの横を走り抜け、白いローブの頭上まで飛び上がった。
(はやっ、たかっ、あの変態さん人間やめてるんじゃないの?)
「ピー。外敵と判断。対象者と共に消滅対象とする」
白いローブを纏ったものは右手の人差し指を男の胸辺りに向けそう宣言し。指先から光の筋を放った。
「そりゃどうも。でも遅いかな?」
放った瞬間、男は光の筋を左に躱し、右手をハッピの袖に入れ拳銃を取り出し
「さよなら〜」
バンッ!と放った。
白いローブを纏ったものはサラサラのかすかな音を立て消えていった。
「ちょ、ちょっとあなた。拳銃だなんて、法律違反、てかあのローブ着た人消え…!?」
「あははは、混乱してるね〜。これはね回転式拳銃って言うんだよ?」
「そこじゃない!」
「男のロマンだよね〜」
「聞いてない!」
「まぁ人じゃないし。いいんじゃないかなぁ」
「人じゃないの?」
「あいつらはね、『天使』って言って、この世界のバグをなくすために動いてる機械のようなものだよ」
『対象者発見。そこの女を『時雨ゆかり』と断定する。これよりバグの消滅を実行する』
(そういえばバグだのなんだのって言ってたっけ。)
「まぁ詳しくはこの近くの支部で話しようか。この辺りだと、O阪の梅D支部かな」
「で、でも!今の騒ぎで警察とかがくるんじゃ!?」
「あー、確かにくるかもねぇ。でも大丈夫!僕のことで来るんじゃなくて、君のことでくるから!」
(なにその笑顔、そんな子どもみたいな笑顔すんなし、変態め!)
「どういうこと?なんで私のことでくるの?」
「おー、おー、意味がわからなくてイラついてますなぁ」
「うざ」
「少し胸が痛いよお兄さん…そうだなぁ、どういえば良いのかな。天使に遭遇した時点…いや天使を見ることができた時点で君はこの世界とは似て非なるところにいるってのがいいのかな」
「天使たちは抹殺対象を始めにこの世界から切り離しそして殺すんだ。でも君は生きている。つまり君は…僕もだけど、この世界に居てこの世界にいない。」
(い み が わ か り ま せ ん)
「は?」
「ふふ、正しいリアクションをどうもありがとう。つまり、うん、今日は何回つまりを言ってるんだろう。説明がもっとうまければなぁ」
「いいから続けて」
「はいはい。元の君がいた世界にはもう君はいないんだ。君は死んだことになってる。君のいた世界では君はどうやらコンビニの外でアイスを食べ終わりゴミ箱に捨てた瞬間にコンビニの駐車場に入ろうとしていた老人夫婦がブレーキとアクセルを間違って踏んで君に猛スピードで突撃し、そして君は死んだらしい」
「へ?」
「いい顔してるねほんと。美人なのにそんなに面白い顔ができるんだねぇ。後ろを見てごらん。君が倒れてる」
「ほら、救急車と警察が来た」
(え?は?え?)
「幽体離脱してるってこと?」
「幽体離脱ね。はは、面白いね。でも違うかな。僕の目の前にいる君は幽霊でもなんでもない実在しているれっきとした人間だ、生きている、ね。今は移行処理中で君の姿は周りには見えていないけど、あと30分もすれば別の顔、体で君はこの世界では認識されるだろう。あぁ大丈夫僕たちには本当の姿が見えているからね。ただ君の友達や家族にはもう君は認識できない、赤の他人として扱われ。君は死んだこととされる」
「死んだって…じゃああのいま倒れているのは誰なの!?」
「あれは天使たちの親玉の神が作ったダミーだ。まぁそのあたりは支部についたらゆっくりと話そうか。今後のこととかね」
「今後の…こと…」
「そう、君のこれからの生き方だよ」
評価等お願いします。