【63】華道部
和室のふすまを開けようとした瞬間、ふすまが開いた。
「わっ、あ、先輩」
ふすまを開けたのは赤瀬部長で、私たち三人を驚いた顔で見ている。
「ちょっと三人ともどうしたの?もうみんな帰っちゃったわよ」
そういえば靴が赤瀬部長の分しか残っていない。
「遅れてすみません……えっ、もう終わっちゃったんですか?」
尋ちゃん同様、私もあいちゃんも驚いた。
いつもなら後一時間は活動しているはずなのに。
先輩はため息を吐いた。
「生ける花がないと何もできないのよね……」
「花がない?いつも配達してもらってましたよね?」
毎回華道部の活動がある日には、馴染みの花屋さんが配達してくれていた。
華道部ができた時からずっと代々その花屋さんから花を買っていたらしい。
でも、今日は花がない?急にどうして?
「いつものお店、閉店しちゃったんですか?」
「お店のおばあさんが入院しちゃってね……あそこおじいさんとおばあさんの二人でやってるから……もうお店閉めちゃうそうなの」
部長は靴を履きながらため息を吐いた。
部長が和室の鍵を手に持ったので私たち三人も和室を出た。
「どこか別のお花屋さんを探さなきゃね……あ、もし、いいお花屋さんがあったら教えてね」
鍵を閉めた部長は、バイバイと手を振って去っていった。
次の日の朝、教室前にはあいちゃんと尋ちゃんがいて、私を見つけると手を振ってくれた。
私たち三人の仲は前みたいに――ううん、きっと前以上に深まったんだと思う。
「おはよう、望美ちゃん」
「おはよう」
「ねぇ――」
挨拶もそこそこに、尋ちゃんが小声で私に話してきた。
「――吉岡君、真ん中ら辺に座ってるよ」
「近くの席に座ろう」
え?
「協力してあげるって言ったでしょ」
そ、それは嬉しいけど……
「でも、吉岡君の周りの席はいつもいっぱいで座れないよ」
私たちが教室に入るなり、やっぱり吉岡君の周りの席は満席となっていた。
「でもほら、よく見て――中野カナがいないでしょ」
中野さん……いつも吉岡君の近くに座って猫なで声を出していた人だ。
スゴく元気でハキハキしてて、髪の毛の色も明るくて、結構派手な格好だから、私とまるっきり正反対なタイプだ。
「何でいないか分かる?」
「具合悪くてお休みとか?」
「ブッブー。あのね――」
尋ちゃんは耳打ちで続けた。
「吉岡君と……」