【60】雨と尋ちゃんとあいちゃんと
三人が泣いたすぐ後に雨が降り出した。
庭の中央にある小さなレストルームに雨宿りをすることになり、三人でそこのベンチに向かい合うように座っている。
「あー、もう我慢できない」
尋ちゃんが急に大きな声を出したかと思えば、履いていたミュールを脱ぎ飛ばした。
「いたた、マメ潰れてる」
尋ちゃんの足は所々赤く腫れていて、ミュールの内側にはわずかに血も付いている。
「私のせいでゴメンね、尋ちゃん」
申し訳なさそうにあいちゃんが言った。
「責任を感じてるんだったら……もう、こんなのは無しね!」
あいちゃんが頷くと、尋ちゃんは両腕を伸ばしてストレッチを始めた。
「でも、いい運動だったかな。あっ、そうだ!今からお互いに言いたいこととか聞きたいこと全部話さない!?」
「えっ?」
「えっ?」
突然の尋ちゃんの思い付きに私もあいちゃんもきょとんとしている。
それでも尋ちゃんは気にせずに話し出した。
「あたし、実はイライラしてたんだ。麻木さんのことで……それで今日あいちゃんにキツイ言い方しちゃったの」
麻木さんのことで?いつも楽しそうに麻木さんの話をしてたのに?
「麻木さんのショップってモールの中にあるんだけど、別のショップの女店員が麻木さんを狙ってるの」
「それって、ライバルってことだよね?」
「そうなの!しかも毎日のように麻木さんに会いに行ってるんだよ!営業中にだよ!休憩中とかじゃないんだよ!しかも、しかも明らかにつくったような高い声でしゃべってるの!」
尋ちゃんの声がどんどん大きくなっていく。
このままだと永遠とその女店員さんへの愚痴を話しそうだ。
「あっ、尋ちゃん、あいちゃんのマンションまで行ってたんだよね。でも学校に戻ってくるの早かったからちょっと驚いたよ」
話題を変えさせようと、私は尋ちゃんが次の言葉を出す前に口を挟んだ。
「ああ、あれね。たまたまあいちゃんのマンションの近くで先輩に会って、ちょうど車で大学行くところだったみたいで乗せてもらったの」
「へー、そうだったんだ」
「うん、そうなの……あれ、何しゃべってたっけ?いいや、じゃあ次はあいちゃん!」
「えっと、私……本当は……嬉しかった」
すっかり涙の引いたあいちゃんの顔は、ちょっと恥ずかしそうに赤くなっていた。