【59】言われて気づいた
何も言えずにただ立ち尽くしている私と、地面を見つめているあいちゃん。
そんな私たちのすぐ横にあるのが大きな遅咲き桜の木だってことには全く気付かなかった。
「ごめん……あいちゃん」
「そのごめんってどれに対しての言葉?」
「えっ……」
「望美ちゃん、分かってないよね。分からないことに対してのごめん?それとも――」
「ゴメン、私、あいちゃんに何をしちゃったのか分からない。でも、あいちゃんを傷付けちゃったならゴメン!」
「……ゴメンばっかり言われても何の解決にもならないよ」
分からない。何であいちゃんとこうなっちゃったの?私と尋ちゃんはあいちゃんのこと……
「だったら言ってよ!」
いつの間にか尋ちゃんが私の後ろに立っていた。
驚いて振り返る私と、顔を上げるあいちゃん。
あいちゃんを捜して歩き続けていたせいか、尋ちゃんのミュールは買ったばかりのはずなのに汚れと傷でボロボロだ。
尋ちゃんは私の横に並んであいちゃんを見つめながら続けた。
「言ってくれなきゃ分かんないよ。それこそ何の解決にもならないよ」
あいちゃんの口が開く。けど、うつむいてしまった。
「……二人だって、私に何も言ってくれなかったじゃない」
「そんなことないよ。色んなことを喋ったじゃない」
「なら、五月のゴールデンウイークのことは?」
ゴールデンウイーク?
あいちゃんは顔を上げてくれた。でも私たちを睨むような目つきだ。
「二人とも、ゴールデンウイークに澤田君たちと遊んだんでしょ?」
「待って、あいちゃん。もしかしてそれだけのことで?」
軽く首を横に振るあいちゃん。
「二人はそのこと全然私に話さなかったよね。いつも二人だけでコソコソと話して二人だけで笑ってた」
確かに私も尋ちゃんもゴールデンウイークのことはあいちゃんに言わなかった。
それがあいちゃんにいつの間にか知られていたことにも薄々気づいてた。
私も尋ちゃんも悪気はなかった。その場にいなかったあいちゃんに気を使っているつもりだった。
「私だけ除け者にされてる気がしてた……」
だけどそれは私と尋ちゃんの勝手な思い込みだったんだ。あいちゃんの気持ちなんて考えてなかった。
言われて今ようやく気づいた私と尋ちゃん。
「あいちゃん、ゴメンね。私、あいちゃんの気持ち全然考えてなかった」
「あたしも自分勝手だった。あいちゃんばっか責めちゃって本当にゴメン」
ずっとあいちゃんの目に溜まってた涙が流れた。
隣の尋ちゃんからは鼻水をすする音が聞こえる。
私の目頭は熱くなり、頬に何かが流れた。