【5】その女の子に同情いたします
尋ちゃんはサラダを一口食べるとフォークを置いた。
「校内だとあの人にも聞かれる可能性があるんだよね……」
私はポテトを食べながら尋ちゃんの話に耳を傾けた。
「望美ちゃん、今日初めて気づいたみたいだったね」
「えっ、何が?」
「ほら、あの……り、り、龍と桜で、下駄の……」
龍と桜模様に金の刺繍、下駄、服から出るオーラはまさしくご、ご……を表している。 やっぱりあのお方のお話でしたか……
私がコクンと頷くと尋ちゃんは話を続けた。
「入学式の時は見かけなかったんだけど、次の日から現れて……」
「私今日初めて見た」
「だと思った。望美ちゃんあの人見てスゴい驚いてたから。望美ちゃんいつも早め来て前の方にいたもんね。後ろは見えないし、みんな騒ぎたくても相手が相手だからね……」
触らぬ神に祟りなし。みんなが暗黙の内に心に決めた自己防衛手段。
そして結果が教室のあの状態。
知らなかった……
「昨日先輩とここに来た時に教えてもらったんだけど、あの人に絡まれた女子がいるんだって」
「えーっ!?」
「その先輩は遠くから見てたんだけど、階段の踊場で女の子があの人に突き飛ばされて……」
「えっ、何で!?」
「そこまでは知らないけど。でもその女の子から何かしたとは思えないし」
こ、怖っ……
「それで、あの人は走って逃げてっちゃって、女の子は泣いちゃったらしいよ」
「かわいそう……」
「多分あたしたちと同じ一年生だったって。入学早々酷いめに会ってホントかわいそうだね」
同じ一年生の女の子……ますます同情いたします。
「あたしたちもこれから四年間気をつけないとね」
四年間――ってことはあのお方も一年生ということ!?
「いくら何でもあの格好はないよね……。でも普通の格好してて声掛けてから気づいても遅いし」
いつの間にかサラダを食べ終えた尋ちゃんはしゃべまくり出した。
「隠そうとかしてくんないのかな……誰にも言わずに秘密のまま卒業していってもらいたかったよね――」
尋ちゃんとのおしゃべり(私はほぼ相槌のみ)は夕方の五時まで続いた。
お昼前からいるのにな……
尋ちゃんよく疲れないな……