【56】答えの分かっている告白
「私、その気もないのに思わせぶりなことばっかしちゃってた」
本当に好きじゃないのに……
「それって、つまり……オレのこと……」
「ゴメンね。私ヒドいよね。藤枝君の気持ちをもてあそんだのと同じだよね」
藤枝君の私への気持ちは知ってたのに、私はずっと自分の気持ちを知らないフリしてた。
自分の中で一番素直な心臓が教えてくれた。
吉岡君に対して胸がキュッとしたり、ドキドキしたり、顔が赤くなった。だけど藤枝君に対しては……
今の藤枝君とあの時の私が重なって見えた――恋してる私と。
その瞬間に怖くなった。
藤枝君を傷付けたくない――自分が傷付きたくない……
「私、本当は……一年前から……」
「待って、橘さん」
私の言葉を遮って、藤枝君は外を指差した。
「外に出て話そう」
藤枝君がちらっと気まずそうに外を見て言った。
私は二、三秒経ってからようやく藤枝君が外に出ようとする意味を理解した。
本棚の陰から、貸し出しカウンターから、机から横目で……
「……うん、そうだね」
そそくさと出口に向かう私たちをいくつもの目が追ってくる。
私も藤枝君も多分顔が赤くなってるはず……
「えっと……」
ちょっと気まずい雰囲気で、私は言葉を必死に探した。と言っても探す言葉が何なのかも分からない……
背を向けてた藤枝君がくるりとこちらを向いた。真剣な顔で。
「オレさ、まだ、橘さんにちゃんと告白してないんだよね」
えっ、もしかして私の早とちり?
そうだよね、付き合って下さいなんて言われてないもの。
「だから、今からちゃんとした告白をさせてくれないかな?」
……え?
私の目に藤枝君の赤い顔が映る。
「オレ、橘さんのことが好きです。オレと付き合って下さい」
「……ご、ごめんなさい」
何で?何で断られるって分かってたのに告白したの?
何で笑顔になれるの?
藤枝君の顔はスッキリしたというような表情をしている。
「橘さん、ありがとうね」
「ありがとう?」
何のこと?
「ハッキリと気持ちを言ってくれて」
藤枝君は笑顔でそう応えてくれた。
よく理解できてなかったけど、私も笑顔になれた気がする。
「これからも友達としてはいてくれるよね?」
「うん」
――もちろんだよ。