【54】感じる壁
この一ヶ月間、ずっとこうしてこらえた。
吉岡君のことを考えないようにして。
だって何だかツラいんだもん……また手の届かないところに行っちゃった吉岡君が、私以外の子たちと楽しそうにしてるのが……
今にも泣き出しそうな自分の顔から目をそらすとケータイが振動した。
――藤枝君からメールだ。
<お昼食べ終わった後に図書館に来れないかな?>
トイレを出て、尋ちゃんが待つ教室へ向かいながら返事を送った。
ケータイを閉じてカバンに入れようとした時、教室の入り口前にあいちゃんがいた。
「あいちゃん、おはよー」
「お……おはよう」
どこかよそよそしい気がする。
「もうすぐ始まるね。中に入ろう」
そう声をかけると、あいちゃんは小さく頷いて私の後に続いて教室へ入った。
尋ちゃんとあいちゃんと並んで座ると、ほんの数週間前まであった笑いがそこにはなかった。
何ていうか、あいちゃんとの間に分厚い壁がある感じで……
あいちゃん、どうしたの?何かすごく心配になるよって言いたくても、言いづらい雰囲気だ。
「ねぇ、あいちゃん」
講義が終わってすぐに尋ちゃんが言った。その声はちょっと怒っているような低めの声だった。
「最近何か変だよ。どうしたの?」
真面目な顔であいちゃんを見ている尋ちゃん。
「……何でもな」
「嘘っ。何でもないわけないじゃない。あたしたちに言えないようなことなの?」
怒鳴っているわけじゃないのに、尋ちゃんの一言ひとことにが頭に響いた。少しならず棘のある言い方だ。
「あたしたちのこと避けようとしてない?」
あいちゃんの目が泳いだ。
「ひ、尋ちゃん。何もそんなストレートに言わなくても……」
友達同士のこの重くてピリピリする雰囲気に耐えられそうになくて、私が口を挟んだ。
さっきまでの恋する乙女の尋ちゃんはどうしたの?ちょっと怖いよ……
「あっ、ちょっと!」
私が口を挟んだ隙にあいちゃんは教室を飛び出してしまった。
「あいちゃん……」
「あたしは、あいちゃんにはっきり言って欲しかったの。いつまでもズルズル引きずってくのヤダだから……そんで、また仲良し三人組に戻りたかったの」
私たち二人だけになっていた教室に尋ちゃんの言葉が響いた。
「今日の華道、あいちゃん来るかな?」
さっきまでの怒ったような低めの声じゃなくて、軽い調子の尋ちゃんの声が響いたのと同時に次の講義の始まりのチャイムが鳴った。