【50】藤枝君
ゴールデンウイーク最終日。
駅前に立っている私は尋ちゃんと辺りをキョロキョロと見渡していた。
「ったく、澤田のヤツいつまで待たせるんだか」
「ねぇ……尋ちゃん。やっぱり私帰ろうかな……」
「ダーメ!せっかくここまで来たんだからさ。今日だけでもいいんだから……」
尋ちゃんは帰ろうとする私の服の袖を掴んだ。
私、何でこうなったのかな?
尋ちゃんに好きな人いる?って聞かれて、私はいないと答えた。
すると尋ちゃんはちょっと申し訳なさそうな顔をして、小声で言った。
『望美ちゃんと会って話がしたいっていう男子がいるの』
その男子が澤田君の友達で、澤田君から尋ちゃんに頼んだとのこと。
それで、ゴールデンウイークの最後の日に四人で会うってことになっていた。
一台の車が止まり、運転席から澤田君が出てきた。
「おそーい!」
尋ちゃんは澤田君が出てきてすぐにそう言い放った。
「お前らが早いだけだろ。それよりも紹介するよ――」
澤田君が車に目をやると、助手席から知らない男子が降りてきた。
ちょっと高めの身長に健康的な色の肌。ちょっとクセのある茶髪に黒淵のメガネ。
「――こいつ藤枝。学部は違うけど、オレと同じサークル入ってんだ」
「あの、よろしく」
藤枝君が私に向かって言ってきた。
「え、あ、こちらこそ……」
私も自己紹介した方がいいのかな?なんて考えていると、澤田君が車に乗れよと言った。
「橘さん、行こう」
「あっ、うん」
……って、藤枝君私の名前知ってるの!?
「どーする?まずは近くのファミレスでも行くか?」
運転席に座ってエンジンをかけている澤田君が、助手席の藤枝君、後部座席の私たちに聞いてきた。
「いいんじゃない?」
私と藤枝君は何も言わなかったけど、尋ちゃんのその一言で、車はファミレスに向かって動き出した。
同年齢の友達の運転する車なんて初めて。バイクはあるけど。
私は免許持ってないけど、何だか不思議な感じ。私と同い年の人がお母さん、お父さんと同じようにこの機械の塊を動かしてるなんて……
「望美ちゃん、どうしたの?あさっての方向なんて向いちゃって」
あさっての方向?よく分かんないけど……
「あはは、何でもないよ」
私、どうやらまだ自分の今の状況を分かってないのかも……