【4】校内じゃ話せない話?
席を立ち、出口に向かうそのお方。
今まで我先にと群がっていた学生たちがサーッと引いてそのお方に道を開く。
みんな絶対に顔を上げないようにしている。目を合わせないために。
後ろ姿でも分かる。みんな緊張している。
遠くから見ている私も無意識にそのお方の顔だけは見ないようにしている。
教室に響くのはそのお方の下駄の音だけ……
そのお方が教室を出た瞬間、教室中の緊張感が一気に解かれた。
どうしてああいうお方がこの大学に?
当然思うこの疑問。でも怖くて聞きづらい……
「ねぇ望美ちゃん」
尋ちゃんが後ろからいきなり話し掛けてきて思わずビクッとしてしまった。
尋ちゃんもやっぱりあのお方のこと……
「次講義ある?」
「えっ?あ、ううん、ないよ」
「あたし、何か急にハンバーガー食べたくなっちゃった」
えーっと、それは一緒にハンバーガー食べに出掛けよ!ってことだよね。
ホント唐突……てっきり私と同じことを思ってると思ったのに。
私と尋ちゃんは大学から歩いて十分の所にあるバーガーショップに入った。
何食べようかな……テリヤキにしよ。
「ご注文をどうぞ」
営業スマイル満点の店員さんが高い声で言った。
「テリヤキバーガーセット一つ」
「サラダとアイスティー」
あれ?何か隣から聞こえてきたのは幻聴かな?
「尋ちゃんハンバーガー食べたかったんじゃ……」
尋ちゃんはイタズラに微笑む。
「実は昨日食べたから、ハンバーガー食べたいわけじゃないの。ただ、大学の中じゃ話せないから……」
大学じゃ話せないことを話すためにここに来たってこと?
えっ、何の話?なんかドキドキしてきたかも。
ハンバーガーの乗ったトレーを受け取り、一番奥の席に着いた。