【48】好きと不等式
「私は吉岡君と高校の同級生だったの。ただそれだけ……」
本当はそれだけじゃない。
一年前からずっと片想いで、この前は一緒にバイクに乗ってモールまで行った、友達……のはず。
二人に言おうと思っていたのに、何かにブレーキをかけられたのか、言えなかった。
「えー、じゃあ望美ちゃんの卒アルには吉岡君も載ってるんだね。見たーい……あっ!」
尋ちゃんは思い付いたと手をポンと叩いた。
「明日からゴールデンウイークじゃん!またあいちゃんの家に行こうよ」
「ごめん、私用事があるから……」
尋ちゃんの提案をあっさりとあいちゃんは却下した。
がくっとする尋ちゃんを横目に、あいちゃんはカバンを持って立ち上がった。
「私、午後は講義ないからそろそろ帰るね。じゃ、また来週」
尋ちゃんと二人で午後の講義の教室へ向かった。
尋ちゃんの要望で後ろの方の窓際の席へと着くと、教室の真ん中ら辺には人だかりがあった。
人だかりの中心にいるのは――
「吉岡君って、高校の時もああだったの?」
私は黙って頷いた。
ずっとそうだよ。大学入ってからこの前までを除いたらね。
「モテモテで大変だろうね。あそこの大群みんなが吉岡君狙いだと思うと怖いぐらいスゴいよね」
「…………」
私は一生懸命、吉岡君を見ないようにして黙っていた。
「あたしも恋してなきゃ、あの大群に混じってたかも。あはは」
ちょっと前に、尋ちゃんは失恋した。でもすぐに新しい恋をしたみたい。片想いだってことしか教えてもらってないけど。
「望美ちゃんは、あの大群に混じらないの?」
「えっ?」
どういう意味?
私は吉岡君が好き = あの子たちも吉岡君が好き
だから吉岡君に群がっている。吉岡君と仲良くなるために。
でも私はこうして教室の隅にいる。
私 ≠ 大群
じゃあ、私は……吉岡君のこと……
好き ≠ 吉岡君
「軽い冗談だよ。そんなに考え込まないでよ……ねぇ、望美ちゃん」
ケータイを見つめながら、尋ちゃんが言った。
「望美ちゃんって、好きな人いる?」
尋ちゃんが急にこんなことを聞いてきてびっくりした。
「何で、急にそんなこと聞くの?」
「急に聞いてごめんね。でも、教えて」
いつになく真剣な顔をする尋ちゃん。
一度深く息を吐いてから、私は口を開いた。
「……いないよ」