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【44】楽しみにしていたはずなのに……


「あいちゃんってばね、望美ちゃんが急に帰っちゃった後ずっとオロオロしててね――」


「それは尋ちゃんだって同じでしょ。お昼ご飯の時、上の空でミートスパゲティに醤油かけちゃってたんだから」


「違うもん。粉チーズと取り間違えただけだもん。手がちょっと粉チーズに届く前に早とちりしただけ。それに結構おいしかったんだから」


 尋ちゃんとあいちゃんは、私が早退(サボった)時のことを話してくれた。

 だけどそれが面白おかしく語られるから、笑いが止まらなかった。


「あいちゃんだって、ご飯にドレッシングかけようとしてたんだよ」


「サラダにかけるつもりだったの。寸前で気付いたから大丈夫だったけどね」


「ドレッシングとご飯って合わ――」


 尋ちゃんの話が急に止まった。

 どうしたのかと思って、尋ちゃんを見ると教室の入り口辺りを指差していた。


「あっ!」


 尋ちゃんの指の先に目線を送ると、六日前にショッピングモールで見た服――黒のカーゴパンツにチェックのネルシャツを腰に巻いていている男子。

 ズボンの裾からは緑のスニーカー見え、教室の中へ向いていた足先がこちらを向いた。

 そして、爽やかで優しくてかわいいとも思える笑顔が目に飛び込んできた。


 吉岡君だ!


 胸が高鳴り、嬉しくて熱い感情がこみ上げてくる。


 手を振って駆け寄りたい。


「吉岡くーん!おはよー!」


 ……えっ?今の私じゃない。


 隣から風がピュッと吹いた。


 手を振りながら吉岡君に駆けていったのは、尋ちゃんだった。


「えっと、桐生さん、おはよう」


 足を動かすことを忘れたみたいに、私は立ち止まっていた。

 そんな私の隣にいたあいちゃんは平然と歩いていき、吉岡君と挨拶を交わしていた。


「望美ちゃん?」


 立ち止まったままの私を不思議に思って二人が振り返った。吉岡君も二人に合わせて私の方を向いた。


「あっ、橘さん!おはよう」


「…………」


 な、何してるのよ私。普通におはようって返すだけじゃない。


「おは――」

「吉岡く〜ん、おはよ〜。ねね、カナたちと座ろー!」


 私がおはようと言い終わる前に、教室の中から現れた子が吉岡君を中へ引っ張り込んだ。


 なに?どういうこと?

 さっきまであんなに吉岡君に会えるのを楽しみにしていたはずなのに……

 心が熱くなるのを感じたのに……


 今は苦しい……




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