【43】今日会える。
目覚まし時計が鳴ってすぐにベッドから下りた。
今日になるのが待ち遠しかった。
昨日の内に準備していた服に三分で着替えると、カバンを手に取って部屋を飛び出した。
私がどんなに早くしても、電車はいつもと同じ時間にしか来ない。講義が始まる時間だって早まらない。
そんなのは分かってるけど、思わず階段を駆け下りてしまう。
朝食を食べるのも、歯磨きも、髪のセットもその手を早めてしまう。
いつもよりも早く家を出る。だけどそれは駅で電車を待つ時間が長くなるだけ。
それでも、ただ立っている時間も楽しく感じる。
熱を出したせいで五日間もベッドで過ごした。その内二日は休日と重なったから大学は三日分休んだことになる。
久しぶりに、と言ってもたったの五日。それでも夏休みのような長さに感じた。
今日会える。私のことを心配してくれていた大事な友達――尋ちゃんとあいちゃん。
それと――笑顔の吉岡君に。
電車を降りて、人の合間を縫って改札へ。
私と一緒に買いにいった服を着て、大学生活に溶け込んで、楽しそうにしている吉岡君に会える。 そう思うだけで足取りは軽くなる。
大学へ向けての一歩一歩が大きく早くなる。
大学に着いてもその足はスピードを緩めない。緩めたくない。
廊下のガラスに映った私は私に向かって微笑んでいる。
これからのことが楽しみで仕方ないって顔してる。
足を止めてガラスの自分をよく見つめながら、少しだけ乱れた前髪を整えた。
「きゃっ!」
ふいに後ろから抱きつかれた。
「望美ちゃーん!」
「ひっ、尋ちゃん!?」
「来てくれて良かったぁ〜。望美ちゃんがいなくて寂しかったんだよ〜」
人に見られていて恥ずかしい半面、その言葉はスゴく嬉しい。
「ありがとう、尋ちゃん……あっ、あいちゃん!」
廊下の向こうにあいちゃんの姿を発見して、手を振った。尋ちゃんも私に抱き付いていた手を放して、あいちゃんに向けて振っている。
私たちに気付いたあいちゃんが小走りでやって来た。
「望美ちゃん、もう大丈夫なの!?」
「うん、スッゴく調子良いよ!二人とも心配してくれてありがとね」
心の底から二人にありがとうって言いたかった。
家族以外で自分を心配してくれる人がいるのってスゴく幸せなことだって思えたから。
あいちゃんは嬉し恥ずかしそうに笑っている。
尋ちゃんはまたぎゅっと私に抱き付いてきた。
「ひっ、尋ちゃん、苦しいよ。それに人に見られてるし……あっ、もう教室いかないと。ね?」
しぶしぶ手を放す尋ちゃん。そして三人で教室へと向かった。