【34】モールデビュー?
「ここかぁ。へぇー、おっきいね」
珍しそうに外観を眺める吉岡君。
本当に来たことなかったんだ。
「こういうところで買い物しないの?」
入り口に向かいながら聞いてみたら、即効でうん!と元気よく答えられてしまった。
そうなんだぁ、と笑いながら返すことしかできない。
「オレの家、商店街にあるから全部家の近所で揃えられるんだ」
もしかして、ドラマでよくある『地元商店街VS大型ショッピングモール』状態で、ここは商売敵!?
だったらここに来ようって提案したのマズかったよね?
「……ごめん」
「えっ?何で橘さんが謝るの?」
「このショッピングモール、吉岡君の商店街のライバルなんじゃない?」
「ははっ、ライバルなわけないよ。ライバルは対等なもの同士が競い合うもの。うちの商店街じゃ、はなっから勝負にならないよ」
吉岡君はクスクスと笑い出した。
「橘さんって、面白いね」
頭の中に一瞬疑問符が浮かぶ。でもそれと同時に、落ち着いたはずの鼓動がまた早くなった。
「よ、吉岡君こそ――」
面白いよって言おうとした。だけど私の口は言い終わる前に止まってしまった。
歩きながら話していたから気付かなかった……立ち止まって私たちを見つめる多くの視線に。
……そうだった。
忘れていたわけではないけど、吉岡君の格好はこの場に不釣り合い過ぎだ。
小さな子供を連れた母親たちは、子供の目を手で覆っている。
私たちが一歩進につれて、進行方向に道が開かれる。
「まずはどこ行った方がいいかな?」
初めてショッピングモールに来て嬉しいのか、吉岡君が子供みたいに目を輝かせて聞いてきた。
でも周りの人たちにこの純粋な表情は見えてないんだろうな。首から下にインパクトがあり過ぎて……
これじゃ、大学と全く同じ状況になるよ……
ん?気のせいかな?警備員さんが増えたような感じがする。
――気のせいじゃないみたい。明らかに増えてるというか、こっちに集まってきてるというか……吉岡君、マークされてる!?
「あっ、犬とか猫売ってる」
「吉岡君、あそこのお店行こう!」
初めて吉岡君の言葉をスルーして、彼の背中を押してペットショップの隣にある洋服屋さんに入った。
少しでも早く、吉岡君に普通の格好をさせなきゃ。