【33】二人でバイク
二十分程して、吉岡君はバイクで大学に戻ってきた。
ここからショッピングモールまでは歩けば十五分の距離。
「じゃあ行こうか」
駅の方向へ歩きだそうとすると、吉岡君に呼び止められた。
「えっ?」
吉岡君は爽やかな笑顔で白いヘルメットを差し出してきた。
吉岡君は青いヘルメットを被っているから、これは……私の分!?
「ちょっと前まで母さんが使ってたので悪いんだけど」
いえ、私が戸惑っているのはそれが古めかしいからではありません。
てっきり歩いて行くと思ってたし、まさか乗せてくれるなんて思ってなかった。
「あ、歩いて十五分くらいだから歩いて行こ」
戸惑いの笑顔で吉岡君に頼んだ。
「バイクの方が早いし、帰りは荷物があるから」
あっさりと爽やかな笑顔で否決された。
「いや、でも……」
私は自転車の二人乗りでさえ、怖くてできないのです……
「大丈夫、心配しないで――」
一瞬、吉岡君に心の中を読まれたかと思った。
「――こう見えても、もう三年間も運転してるんだ」
いや、吉岡君の運転を心配してるんじゃなくて……
「ちょっと狭いけど」
吉岡君は私の手を取り、自分の後ろに乗せた。
後戻りのできない雰囲気に、私は黙ってヘルメットを被った。
「危ないからちゃんと掴まっててね」
掴まるって、吉岡君にですか!?
急に鼓動が早くなる。
戸惑い気味に吉岡君の腹部に手を回した。
近い――あまりにも近過ぎる。絶対に吉岡君にまで心臓の音が伝わっちゃってる。
恥ずかしい……でも、手を放すのは恐ろし過ぎてできっこない。
嬉しい、恥ずかしい、怖い……という感情が入り乱れていて混乱している。
「次、どっちに行けばいいの?」
吉岡君が前を向きながら私に聞いてきた。
歩いて十五分の道のりを、吉岡君の帰りを二十分待っていた理由――それは、吉岡君がショッピングモールへの行き方が分からなかったからだ。
「次の信号で左、その次の曲がり角でまた左に曲がって」
顔がどんなに赤くなっても吉岡君には見えない。それが唯一の救い。
高鳴る鼓動は初めてのバイクに緊張しているってことにして下さい。
吉岡君の運転は安定していて、特に怖い思いをすることなくあっという間にショッピングモールの駐輪場に着いた。
あんなに最初はバイクに乗るのを拒んで、吉岡君に掴まるのも遠慮がちだった私……今はこの回した手を放すのが惜しく感じる。