【29】不安と苛立ちと……
「ごめん!二人とも先に行ってて!」
講義が終わるのと同時に私は教室を飛び出した。
私、どうしたいの?吉岡君がどこにいるのかなんて分からないのに?
吉岡君がケータイを持っていれば、メールや電話でどうしたの?って聞ける。でも吉岡君はケータイを持っていない。
吉岡君が来なかったことを心配しているのはきっと私だけだ。
…………ひょっとしたら、私の考え過ぎかもしれない。
ちょっと講義のことをド忘れしただけなのかもしれない。
そうだよ、吉岡君結構天然だし……
そう思ってはみても、私の体は吉岡君を探してキョロキョロしている。
突然ケータイが震えだした。
<何してるの?早くおいでよ>
尋ちゃんからのメール。
次の講義も吉岡君と同じだ。
きっと、今度はいる!教室に入れば真ん中に龍を背負った吉岡君がいつも通り座っているはず!
目をギュッと瞑りながらドアを開けた。
目を開けばあの龍が飛び込んでくる――そう願いながら、まぶたを上げた。
「望美ちゃん!」
一番に目に入ってきたのはあいちゃんの顔。
あいちゃんはこっちだよと私の手を引いた。
向かったのは教室の真ん中あたりの席だった。
「尋ちゃんは後ろがいいって言ったんだけどね、じゃんけんで私が勝ったから一番見やすいここにしたの」
尋ちゃんとあいちゃんが普通にこの席にいること、その周辺にも学生が平気な顔して座っていること……それは吉岡君がこの場にいないことを象徴していた。
「真ん中って黒板見やすいんだね」
「でしょ。でも真ん中な座れること少ないんだよね……」
「そうだよね。前か後ろの端っこら辺しか座れないよね〜」
尋ちゃんとあいちゃんの会話は遠まわしに吉岡君のことだった。
初めて二人の言葉が嫌に思えた。
「……じゃあ、今度から真ん中あたりに座ろうよ」
私の提案に二人は一瞬言葉を失う。そして笑い出した。
「そうしよっか。今日みたいにあの人がいない日は」
「毎日こうだといいのにね」
…………何でだろう。二人のこと大好きなはずなのに、イライラする。
「よ……いう……ない」
「えっ、望美ちゃん何?」
「よく聞こえなかったよ」
ギュッと握っていた手に汗が出てきた。下を向いていた目からも水滴が落ちて、開いていたノートを濡らした。