【1】偶然じゃない再会
大学生活スタート十日目――私は吉岡君を見つけられずにいた。
一学部一学年約五百人。吉岡君と同じクラスという奇跡は起こらず……
私は電車通学。吉岡君は噂では(盗み聞きによると)大学から家がそう遠くないとのこと。駅でばったり!もない……
甘かった……
やっぱり私に恋なんてムリだったんだ……
えっ、ダメダメ!そうじゃないでしょ、私!
まだ十日目よ。これからまだ四年もあるんだから。
大丈夫、大丈夫。
目をつぶって心を落ち着かせて、ゆっくり深呼吸…………
「きゃっ!」
急に肩に衝撃を感じ、階段の踊場で倒れる私の体。
幸い尻餅をついた程度だったけどカバンの中身が出てしまった。
まぁ、階段を転げ落ちなかっただけ運が良かったってことにしましょ……
「ゴメンっ!大丈夫?手伝うよ」
私にぶつかってきた人は、散らばった私の荷物を集めてくれた。私も近くの物から拾っていった。
あれ?なんだか視界がぼやけてる。やだコンタクトズレたみたい……
「はい、これ」
集めたテキストやノートを渡してくれたその人の声、あの時と同じ仕草――
「よ、吉岡君!?」
「あっ、もしかして橘さん?」
うそ……みたい……
転げ落ちなかっただけ幸運どころじゃないわ!奇跡!?デジャブ!? 今まで信じてなかったけど神様ありがとう――よりも吉岡君にお礼言わなきゃ!
「ありが」
「橘さん、何かイメージ変わったね。というか同じ大学だったんだ。偶然だね」
ぐ、偶然でもないけど……あっ、こらダメ!ここで前に出なきゃ!
「そ、そうかな?変わったかな?吉岡君は――」
あれ……ダメだコンタクトのせいで吉岡君の姿がよく見えないよ。しかも痛いし……
「橘さん、オレそろ帰んなきゃいけないんだ。じゃっ」
そう言って吉岡君は(多分)爽やかに走り去って行った。
なんだか泣きたい……
コンタクトがズレて痛いことと、吉岡君に会えた嬉しさと、結局自分からあんまり話せなかった後悔と、吉岡君が私を覚えていてくれたこと――色んな気持ちが混ざっていた。
でもやっぱり……最優先はコンタクト。
私は壁にぶつかりながら(涙目になりながら)トイレに駆け込んだ。