【17】楽しい時間
吉岡君の隣で講義を聞く私。
それが嬉しくて思わず机の下でブラブラと足を振っている――と、足が吉岡君のカバンを蹴ってしまった。
『ごめんね吉岡君』
『橘さん、気を付けてね。チャカが暴発したら危ないから』
『うん、今度から気を付け……』
チャカ? = 危ないモノ = 拳銃!?
「ダダダ、ダメー!!……って、あれ?」
夢か……
そうだよいくら何でもそんなモノまで学校には持って来ないよ。
あるとすればナイフとか――って、吉岡君はそんなんじゃない!
救急箱を持ってる人がそんなの有り得ないよ!
今日も吉岡君に会って話すぞ!と、気合いを入れて大学に向かった。
大学校内に入ると、気のせいかもしれないけどチラチラと見られた。もしかして、昨日吉岡君の隣にいたから警戒されてる?
「望美ちゃん見っけ!」
廊下を歩いていると尋ちゃんが駆け寄って来た。
「一緒に行こう!後、環境科学論のノート見せてくれる?昨日先輩たちと話し込んじゃって、行ってないの〜」
「はいはい、教室着いたら見せてあげるから――あっ、生野さんおはよう」
教室の前にいた生野さんも加えて、私たち三人は出入り口に近い席に並んで座った。
尋ちゃんにノートを貸すと、
「書き過ぎだよぉ〜…」
と嘆きながら写し始めた。
「えっと、生野さんは大学から家近いの?」
「実家は遠いから、近くのアパートに住んでるの」
「そうなんだ。じゃあ、一人暮らしってことだよね?スゴーい」
「今度遊びに行きまーす!」
話を聞いていた尋ちゃんが元気よく言った。
「尋ちゃん、勝手に言ったら生野さんに迷惑だよ」
「そんなことないよ。いきなり来られたら困るけど、遊びに来てくれたら嬉しいよ」
「ホント?じゃあ、今度遊びに行くね」
「よしっ、決まり!次の日曜日に行こう!」
「尋ちゃん、またそんな勝手に……」
「桐生さんと橘さんが良ければ、私は日曜日でいいけど」
「やったね!日曜が待ち遠しいよ」
尋ちゃんはもはやノートを書き写すことを忘れているようだ。頭の中は日曜日のことでいっぱいのようだ。
生野さんも何だか楽しそうだ。
私だってスゴくウキウキしている。 こうやって友達と過ごしている時が一番楽しいかもしれない。
「もう始めるので、おしゃべりは止めて下さーい」
おっと。気が付けば、いつの間にか講義が始まっていた。
『ねぇ、昨日あのお方の隣に座ってた子じゃない?』
そんなひそひそ話が聞こえたような気がした。
ふと思って周りを見渡してみると、教室の中央がガラガラで、また吉岡君だけが取り残されていた。