【16】絶好のチャンス
講義が始まる直前まで吉岡君とおしゃべりができた。
そして今、吉岡君は隣りでシャーペンを動かしている。真剣にノートと黒板を交互に見る吉岡君。まさしく正夢だ!
ただ……周りからの視線がすごく私に集中しているような気がする。
『あのお方の隣りにいるのは誰?』
『あの二人どういう関係?』
『あの子怖くないのかな?』
『あのお方に脅されてんじゃない?』
『あの子も仲間なんじゃない?』
みんなの目がそう言っているような気がする。
キーンコーンカーンコーン
講義が終わった。
出口に向かう吉岡君の後ろに付いて歩くと、みんなが一斉に道を開けてくれる。
みんな吉岡君の顔は絶対見ない。目を合わさないために。
でも私の存在が気になるみたいで、何人かはチラチラと私を見てた。
私はどう反応すればいいの?皇族の人たちみたいに笑顔で手を振ればいい?
吉岡君はスゴくいい人なのにな……服が強烈過ぎる。
高校時代は制服と体操着姿しか見たことなかったな。修学旅行も校外学習も制服だったし。
でも、これが吉岡君の真の姿なんだ!現実を受け入れるんだ!が、頑張れ私!
というか、これは絶好のチャンスなんだ!人気者で近づけなかった吉岡君だけど、今は近くにいるのは私だけなんだ!吉岡君と仲良くなるには絶好の――
「じゃあね、橘さん」
手を振って私に背を向ける吉岡君――って、待って!
「吉岡君、もう帰っちゃうの!?」
「うん。もう講義ないし」
吉岡君を引き止めなきゃ。ケータイがないなら、たくさん話せるのは大学にいる時だけ。
もう少し吉岡君と話がしたいよ……
「早く帰らないと親に怒られちゃうんだ。じゃあね」
吉岡君の親御さん……怖そう。
――あっ!
吉岡君を引き止める策を考えている内に、吉岡君は足早に去っていってしまった。
こ、こうなったら明日こそ!