【13】涙と絆創膏
いっそのこと気絶したかった。
「ぃだっ!」
私は顔面から前に倒れてしまった。
「大丈夫!?」
吉岡君の驚いた声と、駆け寄ってくる足音が聞こた。
でも顔を上げたくない。
あのお方が怖いから?
吉岡君があのお方でショックだったから?
倒れて汚れた顔を見られたくないから?
恥ずかしいから?
どういう顔を吉岡君に向けたらいいか分からないから?
……全部です。
こんなのってないよ。酷いよ神様。
初めて恋した人を追って同じ大学入って、一生懸命変わって、メアドを教えてもらおうと決意して、ストーカー紛いに待ち伏せまでしたのに――
その相手がご……、極道の人間だったなんて!
そんなの知らなければ良かった。
淡い初恋として思い出にしておいて、先生が勧めてくれた東京の大学に行ってれば良かった……
目をつぶっているのに、それでも涙がこぼれた。
――タッタッタ……
走り去る足音が聞こえた。
吉岡君の気配がなくなってから、私は体を起こした。ワンピースには草がたくさん付いている。
「私、ホント何やってるんだろう……」
絵里香、私夏休みに遊びに行くからね。ちゃんとカルピス(原液)も飲むから、許してね。
小刻み震える小指に向かってそう心の中で呟いた。
校舎の中に戻ろう。
涙をハンカチで拭って、ワンピースに付いた草を払った。
―…タッタッタ
息を切らして駆けてくる吉岡君。右手に何かを持っている。
戻ってきたの?どうして?さっき倒れてる私を置いて逃げてったじゃない?
「け……ハァハァ……怪我……してない?」
「えっ?」
肩で息をしながら、途切れとぎれに言う吉岡君。その言葉の意味をすぐに理解できない私。怪我?
「あっ!頬に傷が!」
右手に持っていた箱から消毒液とガーゼを取り出す吉岡君。
「ちょっとしみるよ」
優しい声と共に、左頬にひんやりする感触と小さな痛みを感じた。
「ごめんね、もうちょっとだよ」
吉岡君に慣れた手つきで絆創膏を貼られた。
私が目をぱちくりしていると、吉岡君はズボンのポケットからハンカチを取り出した。
「女の子は顔に傷を残しちゃいけないよ。後、土とか草もね」
優しく私の前髪の草を払い、ハンカチで丁寧に顔に付いた土を拭いてくれた。
私の目からまた涙がこぼれ落ちた。